10.
暗い夜だった。
あぁ、月が出ていないのか、と空を見回して、夜明けが近い夜の片隅に細い月を認めた。雲はなく星は輝いているけれど、どことなく暗い夜だった。こんな日には死者が似合うかもしれない。ふと思って、その意味するところに顔をしかめた。こんな存在は、自分とおっさんだけで十分だ。
「まだ起きているんですかね」
「‥‥どうなんだろうな」
熱も呼吸もない死者は、気配が薄い。存外近いところから生まれた答えに、お互い様だと思いながら力んでしまう。声のほうを振り返りかけて、意味がないと思い直して強いて闇の向こうを見続けた。
明りの漏れる窓。
物音は特にないが、ノチェからの情報では微動だにしないままぶつくさと何かを呟いている姿を見たと言うから、動きがないからと言って眠っているとも限らない。眠りが必要なのかどうかも定かでない。
「‥‥埒が明かんな」
舌打ちと共におっさんが呟いた。まったくもって同感だ。
「面倒だし制圧しますか」
「ちょっと待てせめて疑問形にしてくれや」
そういうつもりなのだと思って立ち上がったところを留められて、心外だとタルデは振り返った。
「だっていずれは制圧するんでしょう」
基本的にタルデは躊躇わない。おっさんは天を仰いだ。
「あー。まぁ、それは、な」
「ならとっとと行けばいい」
別にあの剣は、何か良くないものを振りまいているというものではない。いや、見るからに力を感じられるというのは何かを振りまいているうちに入るのかもしれないが、基本的には、斬ることによってしか影響は及ぼさない。そういう意味では時間が経ったからといって事態が悪くなるというものではない。だが、それでもあれは、長く持ち続けることはよいことではないのだ。
一応そういったことは考えているのだが、傍から見ればタルデはとにかく暴れたいだけの馬鹿に見えた。
「二人がかりで、剣を奪い取って仕舞です。‥‥振られていなければ」
「そーだな。振られてさえいなければ、な」
だがどうしてだろう。もう遅いという予感がする。




