9.
ひとまず夜の内に、少年の住む村へ向かうことになった。
「アレは巷間にあっていいもんじゃねぇからな」
それには全面的に同意するが、
「だからといって何故私に管理責任が発生するのか分かりかねます」
タルデとしてはそこをきちんと主張しておきたい。だがおっさんはちらりと振り返っただけで黙殺した。
少年は――ノチェと名乗った――社に置いてきた。ひとでない二人の道行きには追いつけないからだ。人外の能力があるわけではないが、制御が甘くなった身体は無理をしようと思えばいくらでも無理が効く。痛みを覚えないから限界まで筋力を使えるし、疲れを覚えないからどれだけでも稼働できる。
一体自分たちは何を糧に動いているのだろうな、と、無視されたことは気に食わないがそんな物思いにふけりながら、タルデは前を行くおっさんの後を追った。気配がないのはお互い様だから目で追える距離を保たなければ見失う。
「そういえば」
「‥‥何だ」
折角着替えた服がまたしても汚れていくが、気になることはそこではない。
「‥‥カミサマの名前って聞いたことなかったですね」
名乗るという行為をまるで忘れていた。自分と相手しかいない世界なら必要もなかった。だから、ノチェが名乗った時には奇妙な感動を覚えた。タルデは反射的にそれに答えて名を告げたが、おっさんはそれもやはり無視していたな、と、ようやく今思い出したのだ。
「名乗るほどのもんじゃねぇよ」
似合わなくも照れている‥‥というわけでもなさそうだ。嫌そうに、それでもおっさんは答えを返した。
「まぁどうでもいいですが」
「‥‥じゃあ訊くなよ」
別段それほど聞きたいわけでもない。ただ、なんとなく思いついたので口に出しただけだ。嫌だというのなら無理に聞くほど興味があるわけではない。そのはずではあるが、気の抜けたようなおっさんの声を聞いて、どこかほっとしたのも確かだ。同調するほど近い間柄でもないのに。
「ところでどうやって取り返すんです?」
「さぁな。二人がかりで力づくでなんとでもなるんじゃねぇのか」
「‥‥適当ですね」
軽口をたたきながら夜の山道を行く、こんな時間も悪くはない、と、確かにタルデは思った。




