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死者の午後  作者:
生者の夕べ
18/53

5.

 それでどうしてこうなっているのだろう。


「お願いします!兄さんを‥‥兄さんを止めてください‥‥!」


 タルデの前で、それもう土下座通り越しているだろうというくらいに必死に頭を地面に打ち付けている子供がいた。いや、土下座というのはあくまでも礼であるから頭を痛めつけることではない。とりあえず地面との間に手を差し入れてやめさせる。


「‥‥あ‥‥」


 冷えた手が触れたせいだろうか。それとも無造作にしか見えないのに、見た目より強い力で顔を上げさせられたからだろうか。ようやく合わせた子供の目の奥に、タルデは怖れを見たような気がした。


「‥‥神様お願い‥‥」


「‥‥私は神なんかじゃないよ」


 もしかしたらそれは畏れだろうか。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、このあたりの人間はそういえば随分と信心深いということを思い出し、タルデは顔をしかめた。


「山に住む神はもうとっくにいやしない」


「それでも‥‥っ」


 血の気のない顔。熱を持たないこの身体。脈動も呼吸もないしせいか、妙に薄い気配。目の前にいるのにどこか遠い。神とは逆に、もっと濃い存在感なのではないだろうか。出会ったことなどないが。


「それでも僕らにできないことが、できるんでしょうっ?!」


 悲痛な声は悲鳴に聞こえた。ぶつけられたそれが、あまりに必死で、タルデはなくしたはずの痛みすら覚えた。


「‥‥まぁ、普通の人間でない事だけは確かだが」


「僕らでは‥‥僕では、もう、兄さんを止められないんです」


 久方ぶりに縋られて、消え去りたい気持ちはどこかへ行った。


 そもそもがタルデは、感情の起伏がそれほど激しくない。そのうえたとえ感情が振られても、それを堪えてしまう癖が幼いころからついているために、表に現れる反応は薄いのが常だった。今回のように発作的に動くことなど、滅多にないのだ、本当は。


「‥‥お前が何を求めているのかは知らないが」


 無造作に立ち上がり、引っこ抜くように少年を立たせ、さて私は何を言うつもりだろうな、と他人事のようにタルデは思いながら口を開いた。


「手を貸すくらいのことはしようか」


 ねぇ、マーニャ。誰かに求められることがこんなにも心地よいと、お前がいなくなって初めて思い出したよ。


 心の中で呟いて、数十年ぶりに動くことを決めた。

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