11.
流血注意
森が切れて道が横たわっている。いつもより暗い道。それは時間帯がどうということではなく、雨雲が頭上に広がっているから。視線をめぐらせて、次にタルデは動きを止めた。
ただの人だかりと思ってもよかったのに、なぜだかタルデは、あぁ、奴等は敵だと思った。そう思って、人だかりの足元を見て、見えてしまって、
「‥‥マーニャ」
タルデは呟いた。その声はあまりにも小さくて、誰の耳にも入らなかった。だから、その声にまるで感情が表れていなかったことに、誰も気付かなかった。
「‥‥マーニャ。私は――
私は死ななかった。死にきれなかった。死んだのに、終われなかったんだ」
タルデは人だかりの足元を注視している。一見感情などないような顔で、震えることもないただ淡々としただけの声音で、うわ言のように。
「けれど、そうだ。人は、こんなにも簡単に死んでしまうものなのだよな。終わってしまうのだよな。
自分がこんな存在になってしまったから、忘れてしまっていた‥‥」
倒れ、ぴくりとも動かないマーニャの姿は、なぜかはっきりとタルデには見えた。その下に血があふれているのも、彼女の服が乱れているのも、彼女を取り囲んだ数人の男たちなどいないかのように直接にタルデには見えた。
タルデは泣かなかった。
タルデは泣けなかった。
自分が死んだときも、それでも動けて意識があると分かったときも、自分の存在が不確かで不安だったときも、あそこに転がるマーニャは泣いてくれたのに。
「‥‥マーニャ」
小さく、今度こそ呼びかけるようにタルデは友人の名を呼んだ。
「マーニャ‥‥」
繰り返し、繰り返しながらタルデは剣を抜く。腰には2本の剣が吊られている。そのうち1本はあの日自分に刺さっていた剣。もう1本は他者を殺すためのもの。誰かの命を自分の意思で、絶つためのもの。
男たちの1人がようやく振り返った。そのときにはタルデはずいぶんと近くまで歩いてきていた。そして全ての男がタルデの姿を認める。タルデが剣を抜いているのを。
ゆらりとタルデは視線を巡らせ、やはり焦点などあっていないような目で男たちを眺め、
そして無造作に無感動に間合いを詰め、男たちの1人の胸に剣を差し込んだ。
抜く。
次に同じ無感情さで一番近い男の首をはねる。いまさらながら気付いたが、死んだタルデの肉体は、生きていた頃よりも制御が甘くなっていた。思い切り振ると、本当に思い切り振り切れてしまう。おかげでまるで舞うように、野菜か何かを切り刻むような気安さで、タルデは男たちを斬って回った。奴等が悲鳴を上げなかったはずはないのに、タルデにとってはまるで音もなく、さしたる苦痛もなく、ただ静かに淡々と、足元には死体が転がっていく。




