1.
若い娘の2人旅だったから、それなりに危険ではあって、けれど同じくらい人々は親切で、だからマーニャは他人に絶望しなかったしタルデは他人に対してとても警戒していた。ただ、それでもマーニャは全幅の信頼をタルデにしか寄せていなかったし、タルデだって少しは他人を許容していたから、2人の旅は概ね平和だった。
2人の旅――故郷を探す旅。
「ねぇタルデ、わたし達、ちゃんと帰れるのかなぁ? 」
マーニャは小首を傾げて言う。タルデはこの、友人であり妹である人を、愛しいと思う。自分は彼女を守り続けるだろうと思う。
「さぁね。大体、ずいぶん前から、人に尋ねてもいないしね。
まぁ、覚えているとも思えないけど。10年以上も昔のことなんて」
無愛想にタルデは応じる。けれどマーニャは、この友人であり姉である人との会話がつまらないと思ったことはない。ちょっと、笑った。
「そうだよねぇ。わたしだって覚えてないもの。わたし達が売られた頃のことなんて」
「断片的な記憶はあるけどね」
この、何度繰り返されたか分からない会話を、タルデは早く終わらせたかった。けれどもマーニャは柔らかい笑顔で、自分たち2人の傷をあらわにし、痛めつける。
「ね。お母さん達、生きてるのかなぁ?」
同じ調子で言われて、タルデはちょっと言葉に詰まった。
「‥‥さぁね。村人の何人かは、いないだろうけど。死んだ人も多いんだろう。出て行った人もいると思う。‥‥売られて買われた人も」
「わたし達みたいなのは、きっと珍しいよね?」
普通に言って、マーニャは笑った。タルデは曖昧に、感情を表に出さないように、歩調が乱れないように、歩く。
「‥‥」
「きっとびっくりするよね」
「‥‥まぁそりゃ、驚くだろうよ。予想済みだったらそれこそ驚きだ。
‥‥私達だってこと、分かればね」
タルデの呟きに、マーニャはちょっと瞬いて見せた。そしてまた、笑うしかないかのように、可笑しそうに笑った。笑うことしか知らないみたいだった。
「そっか。分かんないかもしれないね。もぅ10年も経ってるものね」
タルデは他人に期待していない。マーニャは肉親の情なんて信じていない。他人の、他人事らしい優しさは、否定はしないけれども。
「復讐しに来たとでも思われちゃうかなぁ?」
マーニャは可笑しそうに笑い続ける。きっとこの子も、恐らく自分も、どこか壊れているのだろうとタルデは思っていた。