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第8話 その濁色の瞳で何を見る?

長い間空いてしまって申し訳ないですm(__)m

鬼の居ぬ間になんとやら、今現在母にPC禁止令を出されていてこうしてPCを開くだけでも命がけです

今後も監視を掻い潜って投稿しますので、どうかよろしくお願いします;;


第8話更新です!

細い路地を通って数分。


相当入り組んでいたので通ってきた道は全くと言って良いほど覚えていない。先ほどの騒ぎのせいかよくわからないが、不思議と誰にも会わなかった。


昔からあまり記憶するのは得意ではない。自慢じゃないが日本史や生物といった暗記物の点数は毎回ずば抜けて低い。テストを返された後に必ずやる点数の数えなおし(もしかしたら先生の間違いで点数が悪いんじゃないか、と淡い期待を抱きながらやるテスト返し直後の恒例と化した作業のことである。大体の場合は間違っていないか、間違っていたとしても逆に点数が下がる場合がほとんどだ)も間違えた問題の点数の数を数えて満点から引くよりも、当たっている問題を数えたほうが楽なのだ。


そうこうしているうちに迷路のような路地を通って最終的に行き着いた場所は袋小路、どうみても行き止まりだった。



(壁…だよね?)



どうみても、誰が見ても、何処から見ても、見方を変えてみても壁にしか見えない。そこにあるのは煉瓦で出来た縦約2m、横幅1mのれっきとした壁だ。首を傾げてみてもやはり壁は壁で、これといって特に気になるようなものは見られない。


≪これは壁ではないな≫


リュノワールがつぶやくように教えてくれる。そしてそれに肯定するように青年が微笑む。



「大丈夫ですよ」



青年は手を壁につく。

障害物がないようにその手は壁の向こうへすり抜けていた。まるでそこにある壁は幻であるかの如く、ごく自然に片足も壁に沈み込んでいく。



「これは幻覚ですから、紋章を持っている信者でしたら通れますよ」



そしてあっという間に壁の向こうへ消えてしまう。

こういうのを見るとやっぱり「ファンタジーだなぁ」なんて他人事のように思えてくる。しかし前にも同じようなことを言った覚えがあるのだけど…気のせい?

なんて現実逃避していると後ろがつかえているので、少し怖いが意を決して一気に壁の向こう側へ通り抜けた。通り抜けたときに体が浮く変なかんじがしたが、気持ち悪くなるわけじゃなかったからまぁいいとする。


壁の向こう側は薄暗い場所だった。

四方がコンクリートのようなもので固められていて、光が入り込む余地は見回す限り何処にもない。それなのに何処からか生ぬるい風が足元を通り抜けていく。


ただ此処に突っ立っているだけなのに心なしか息苦しさを感じた。結論から言ってしまうとこの場所はすごく気味悪いかんじがする。この場所を拠点にしている宗教の人たちには悪いと思うが、あまり長くは居たくない場所である。何が原因でそう感じるのかは定かではない。とにかく教祖様とやらに会って、早くこの場から立ち去りたいと思った。



「もうすぐですよ。この中は今まで通ってきた路地以上に入り組んでいますから、迷わないようにきちんと着いてきて下さい」

「あ、はいっ」



それにしてもここまでして青年たち、宗教の信者たちが警戒する相手って一体誰なのだろうか。入口の幻に、入り組んだ迷路が、何の理由もなく作られたわけではないのだろうなと考える。


…とそんなことを考えているとどんどん青年との距離が開いていく。こんなところに置いてきぼりにされたらひとたまりもない。慌てて青年の後を追う。しかし2mほど歩いたときにリュノワールが着いてきていないことに気がついて急いで駆け戻る。



「リュノ、どうかした?」

「…いや、なんでもない。大丈夫だ」



本人はこう言っているが、意識がどこかに向かっているように見える。もしかしたら彼も此処にあまり居たくないのかもしれない。ほとんど私の我侭で来てしまったようなものだ。それで迷惑はかけたくない。



「…本当に大丈夫だ。行くぞ」

「う、うん」



微笑して優しく私の背中を押して先を促す。


この通路の所々に照明代わりの蝋燭があり、ほんのりと辺りを照らしている。途中いくつか右側左側と扉があったが、そこは素通りしていく。多分教祖様はもっと奥のほうに居るのだろう。偉い人というのは地球異世界共通で一番奥にいるものらしい。


(教祖様ってどんな人なんだろう)


教祖は宗教を始めた人の事を指す言葉だと認識している。厳格なお爺さんとか出てきてしまったらどうしよう。いや、逆に軟派なお兄さんとかでも対応に困るのに変わりはないが。

フラグ立ててしまった気もするが…どうか優しい人でありますように、と変な祈りをする。



《決して気は抜くな。此処は敵陣だと思え》



後ろを振り向くと呆れたような表情で苦笑していた。怒っているわけではないようで、どちらかというと子供の面倒を見ている親の心境、というやつだろうか。



(分かってます。きちんと気を付けます!)


そう心の中で呟いたら鼻で笑われた。一体今の台詞の何処に笑う個所が?



《いや、なんでもない。それよりほら、逸れるぞ》



青年との間が3mぐらい離れてしまっていた。青年がこちらを振り向いていて待ってくれている。よく目を凝らしてみてみると、青年が立ち止まっているところはちょうど三方向に道が分かれている。

置いていかれたら確実に迷う。そう確信してすぐさま青年の元へ向かった。






そうして巨大迷路のような道を歩いていること数十分。結構長かった。

今まで見かけてきた扉とは明らかに造りが違う扉に行き当たる。大きさも普通の扉と比較してみると二倍以上あり、ドアノブも一点の曇りもない金色の金属で精巧に作られている。これは蛇の形だろうか。

急に厳かな雰囲気を感じ、一気に緊張する。




「此処です。今の時間帯、他の信者は各部屋に篭って祈りの時間なので今は誰もいません。ですから安心してください」

「…はい」



青年によってギィッと古臭い音を立てながらゆっくりと扉が両側に開いていく。建付けが余程古いのか開くまでにやけに時間がかかった。



「教祖様、入りますよ」



青年の声が虚空へと響くが、だれからも返事はない。

それでも青年は少しも気にする様子もなく中へ足を踏み入れる。私とリュノワールも一足遅れて続く。


そこはまるで外国にある大聖堂のような場所だった。

実際に外国にある大聖堂を見たことはないものの、大聖堂といったらイコールで繋がるステンドグラスが天井に盛大に広がっていたから、私の頭に大聖堂という言葉が即座に浮かんだのかもしれない。もし此処に光が差し込んでいたのなら本当の楽園のように見えたのかもしれないが、生憎といってやはり此処にも光が差し込むことはない。代わりに申し訳程度の装飾蝋燭が数百本、所狭しと並べられていた。それはそれで圧巻な光景だが、やはり本物の光でステンドグラスを照らして欲しかった。


そしてぼんやりとした蝋燭の火に照らされて、その中心にぽっかりと空いた空間にある台座に座っている一人の人影が目に付く。蝋燭の光に煽られている所為で教祖の表情は薄暗く、此処からではよく見えない。



「教祖様、双黒の方をお連れいたしました」



少年に恭しく頭を下げる青年。それを何の感情も含んでいない漆黒の瞳が映す。見る、のではなく唯映しているような、ガラスのような瞳だった。


台座に座っている小柄な人影に目をやる。


腕と足は食事をしているのか疑わしくなるほど痩せこけていて、まるで生まれてから一度も日に当たったことのないような青白い肌がやけに目に焼きつく。そしてそれに映える闇のように真っ黒な髪は手入れされていないのか、ぼさぼさで伸び放題。服といえるのか甚だ疑問を抱く、包帯のような細長い布を要所要所に何回か巻きつけただけの格好は不思議とみすぼらしいかんじは全くせず、逆に神々しい雰囲気さえ感じられた。

台座に座っている教祖様と呼ばれる彼はまだ12,13歳くらいの少年であるように見える。


予想外も予想外、斜め上どころか直角になるんじゃないかと突っ込みたくなるくらい想像していた教祖像とかけ離れていた。


ちぐはぐな感覚に奇妙な違和感を覚えながら、「教祖様」を眺める。


「この方が我が神教、リクラシニア教の教祖様です。もっと近づいて双黒をお見せください。きっとお喜びになります!」

「あっ、…はい」



興奮した青年に手を取られ、半ば強引に台座の目の前にまで引っ張られる。一瞬背筋が凍るような殺気?のようなものを背後から感じたが、リュノの方を見ると無表情に見えた。


青年は私を台座の前まで連れてくると頭を下げながら一歩後ろに下がる。台座の前に来ると、緊張や驚きを通り越し、なぜか頭が真っ白になる。


(何をすればいいの?!自己紹介?)


自問自答するが、よくわからず、とりあえず前に向き直る。ひきつる笑みを作り、台座の上に座っている少年へと意識を向ける。



「は、初めまして? 私は葉通(ホミチ) (アキ)です…」



尻すぼみになりながら相手の反応を伺うが、全く反応してくれなかった。眉どころか髪の毛一本もピクリとも動かさず(神経が通っていない髪の毛が動くわけがないのだがつい勢いで言ってしまった)、無視、今風で言うシカトをされてしまっている今日この頃。



「?」



聞こえていない? 耳が悪いとか?

何をして良いか分からず、取り合えず少年に目を合わせて、手を振ってみる。目を合わせてみれば何かしら反応してくれるかもしれない。人は目を見れば相手が何を思っているのか少しは雰囲気で分かると思っている。


たしかに少年の瞳に私は映っていた。きちんと球体に浮かぶように、漆黒の瞳孔に私が鏡みたいに映っている。


(でも、見ていない?)


先ほど青年が頭を下げていたときと全く同じ。

この少年は最初から何も見てない。見ていないから何も感じてない。感じてないから唯そこにあるだけの存在と化している。以前リュノワールに聞いていた話と同じ、”生きた死体”のように思えた。

もしかするとこの少年は忌色思想で、被害を受けた子供のうちの一人なのかもしれない。


(だから忌色崇拝を造ったとか…?)


沈黙の時間が続くと思っていたら、背後から青年の声がいきなり響き、びくっと肩を揺らす。



「すみませんね。教祖様は無口な方でして、あまり普段からお話にならないのです。だから気になさらないでください」


(え?)



青年にとってはいつものことなのか、笑みを浮かべている。


でもそしたら、何故その被害を受けた子供が宗教の教祖をやっているのだろうか。こんな状態で半ば組織化している宗教団体を少年一人でまとめられるとはとてもじゃないが思えない。



「教祖様もきっと内心ではさぞお喜びになっているはずです」



青年はそう言ってまた、優しい笑みを浮かべる。

そして彼の笑みに違和感を覚えた。でも今度は前みたいにぼんやりとではなく、確実にそう思える。

何で今微笑むのか?

少年の表情はリュノワールの無表情とは違う。本当にそこに何もない気がする。


(それなのにどうしてこの人は、教祖様が喜んでいると分かるの? なんで今笑うの?)


どうして少年に嘲笑うような笑みを向けているようにみえるのだろうか。


心の中で次々と疑問が浮かんでは消えていくわけではなく、降り積もる火山灰のようにどんどん蓄積されていく。降り積もっているのは雪ではなく、黒くて粉っぽい火山灰。恐らく火山灰と聞いて大多数の人はいいイメージを持たないのではないだろうか。とにかくそんなかんじのイメージが冷たく頭を過ぎた。



「あなたは一体、誰を、何を見てる?」

「え?」



青年は笑みを消し、私を見つめる。


そして、まるで自分の意志とは関係なく、降り積もってた疑問が吹き出す。ふと口から零れた言葉は水面に大きな波紋を起こすように広がり、自分でも止めることが出来ないようだった。



「あなたは一体何を見ているの?…会ったときから感じていた違和感はこれだったんだ」



納得したように話しているが、自分で自分がなにを言っているのか分からない。まるで自分ではない誰かが話しているような、そんな感覚。

紛れもなく、口を動かしているのは自分だというのに。



「その笑みの奥にある本当の目で見つめているのは誰ですか? 教祖様を、どうしてそんな怖い目で見ているの? 何で崇めても敬ってもいないのにそういうフリをするの?」



決して叫んだわけではない。

それなのに、この広すぎる空間に声は不思議とよく響いた。何もない空間に音がすっと溶け込んでいくような、今まで体験したことのない感覚。







この場が無音に包まれる。

それは一瞬心地よい雰囲気にこの場を仕立て上げたが、青年の笑いにより壊される。それから青年は、表情を歪ませて困ったような笑みを浮かべる。



――ぞくっ



背筋が凍るような視線。貼り付けた表情から覗く、彼の本気の意が宿った目。

その目に睨まれていると理解した途端、体が本当に凍ってしまったかのように動かなくなってしまう。指一本動かせない、なんて比喩表現があったような気がするが、正に今がその通りだ。小説やゲームのように首筋に剣を突きつけられたわけでも、命の危機に晒されているわけでもないのに動くことが叶わない。

いや、ある意味命の危機に瀕していると言えるのかもしれない。



「お嬢さん、私には娘が一人居たと言いましたね。それは今から数年前までのこと、もう既に過去の出来事なのです」



急に話の筋が急に読めなくなり、疑問が浮かぶ。


この話はたしか、私が服をもらったときに聞いたお話。服の以前の持ち主、つまり彼の娘さんのことだ。


「私の娘は今から数年前に亡くなったのです」


娘さんはもうこの世にいない。過去の出来事とはそういうこと。とても悲しいことだが、でもそれがこの宗教と、この男の子と何の関係が?


疑問を浮かべながら青年の顔を見ると、不気味で恍惚とした表情でこちらを見る。

寒気がした。


「…もしかしたら娘にもう一度会えるかもしれない。貴女のおかげで…」

「え?」



――バタンッ



「大変です!!」



何かを呟いたが、乱暴に扉が開かれた音に掻き消されて聞くことが出来なかった。

青年は、誰かが顔を覗かせた瞬間にあの冷たい瞳を引っ込めて、元の落ち着いた物腰の良さそうな雰囲気に戻す。なんて変わり身の早い。まるで先程の暗澹とした表情は最初からなかったようだ。



「何事ですか? 教祖様とお客様に大変失礼ですよ!」



青年の気が扉から転がるように慌てて入ってきた男性に向いた途端、ハードワックスで固めたようにガチガチに固まっていた体から力がフッと抜ける。視線を逸らされたことで緊張がなくなったみたいだ。



「アキ、大丈夫か?」



力が抜けてふにゃりと蒟蒻の如し体の柔らかさをお披露目した直後、後ろに体温を感じる。言わずもがな、リュノワールだ。倒れそうになった私の体を抱きかかえるように支えてくれている。



「うん、大丈夫…。」



優しい瞳。

先ほどの青年とは全く反対の温かい瞳。そんな瞳に見つめられて、先ほどまで感じていた恐怖は、何処かへと吹き飛んでしまう。

リュノワールも普段は無表情だが、決して青年のような冷たい顔を奥に秘めているわけではないと思っている。だって、リュノワールは一見無愛想に見えても、本当はすごく優しくて、温かい人だから。




落ち着いた私は、状況を把握しようと青年に何かを耳打ちしている男性に目を向けた。見た目的に40、50歳くらいじゃないだろうか。服は全身真っ黒でも髪の毛や瞳は当然ながら黒ではない。黒い服を着ているこの人もれっきとしたこの宗教団体の一員なのだろう。

それにしても一体何をそんなに慌てているのか。本人は小声で話している気になっているようだが、思いっきり普通の大きさの声になっている。といっても全部会話が聞こえるわけでもない。今聞こえてきたのは“きし”とか“かいめつ”とかそんな言葉。“かいめつ”という言葉が私の知っている“壊滅”の意味だったら非常に悪い雰囲気であることには違いない。もしかしたら精霊のリュノワールだったらあの会話が聞こえているかもしれない。そう思って声をかけようとしたが。



「こんにちは~っ!!」



――バキャッ


扉が吹っ飛ぶ音に見事に掻き消される。

ものすごい風圧で髪があちこちに煽られてすごいことになっているのを気にしている暇などなく、扉の向こう側に居る二人の人影を視界に入れることで頭がいっぱいだった。



「騎士団でぇす!! 此処、壊滅させに来たよ~」



無音に陥ったこの空間に響くのは、場にそぐわない気の抜けるような陽気な子供の声。そして姿を現したのは一人の青年と一人の少年だった。





                                第8話 終わり


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