第14話 続・水色勇者はご機嫌ななめ?+α
今回は少し短いです。
Side 春太
待ってくれ。
「あれを見てください勇者様!あれは林檎といって地中になる野菜なんです。中は鮮やかな緑色でとても辛くておいしいんです!!バターで味付けするともう最高です!あ、あれはキャビアといってある魔物の卵なんですが、魔物の卵はものすごく貴重なので少し値段が張ります。ですがそれだけの価値があるんです。あの大きさはまだまだ小さいほうで、直径10cmになるものは約銀貨一枚の価値になります。味はスパイスが効いていてとても濃厚で、歯ごたえはグニグニ。とても食べごたえがあるんです!まぁ、見た目は悪いのが欠点ですが・・・。それでこれはカエルの形をした魔物・・・えっとたしかゲコルンという名前だったような・・・それの腸詰を塩漬けにして加工したソーセージです。噛み切った途端にぶしゅっと飛び散る肉汁は深い味わいがあります。加工するのに約3年間かかるものすごい手間が掛かっているものなので、やはりこれも少し値段が高いのですが一回食べてみる価値はあります。まぁ、これも濁った黄色で見た目がちょっと・・・アレですが、大事なのは見た目じゃなくて中身です!!」
「・・・・・・。」
「もしかして勇者様、そんな真剣にこれを見つめて・・・食べてみたいのですか?でしたらお昼はゲテモノを専門で扱うレストラン、私のオススメの『集まれゲテモノ』に行くことにしましょう!」
待ってくれ違う別に食べたいんじゃない寧ろ食べたくない。
視界に映すのも凄まじく抵抗を感じる。それなのに昼はそれを専門に扱う店に態々食べに行くだと・・・?あの見るのもおぞましい品々をベースにして作られた料理が並ぶ店に?
俺を毒殺する気かこいつ。
昼までにここを脱出する理由がひとつ追加された。命の危機を感じる。
しかしそれを感じているのは俺だけではなかったらしい。背後を振り返ると、護衛騎士の二人がカチャカチャと鎧を鳴らして震えながらお互いを慰めあっているのを目撃したからだ。鉄の兜の下からくぐもった声で「しょうがない。俺たちじゃんけんで負けたんだからさ。」と哀愁漂う声音で呟かれれば同情をせずにはいられまい。というか仮にも皇女の護衛をじゃんけんで決める(しかも恐らく負けた人が護衛になる)なんてことしても良いのだろうか。
「・・・はぁ。」
もう何回目か分からないため息をついてから、目の前で何がそんなに楽しいのだろうかはしゃぎまくっているミリーナの手にガシッと掴まれている自分の腕を見下ろす。それからもう一度つい出てしまったため息にそろそろ親しみを感じるようになってきたな、と主に精神的疲労で頭が正常に機能してくれないことを自覚して、また深いため息を吐き出すのだった。
―ドンッ
あれから半刻ほど経った。未だ食料ゾーン・・・所謂地獄街道から抜け出せていない。
そろそろ本気で此処からの離脱を考えている俺だったが、その思考は元凶の小さい叫び声で現実に引き戻される。
目の前ではミリーナが誰かとぶつかったらしく、彼女の前で大股開いて派手に転んでいる、見た目二十歳前半くらいの青年に手を差し伸べているところであった。
「あっ、すみません!大丈夫ですか!?」
「・・・・・。」
彼の容姿を見て何処かの城から抜け出してきた王子を思い浮かべる。太陽の光に反射して眩しく輝いているサラッと流れるような金髪に、雪を髣髴とさせるライトブルーの瞳。そのくせ服装はそこらにいるような一般的な冒険者の格好をしていて何処かほんのちょっとずれている・・・そんな感覚が湧き上がってくる。
「・・・あのぅ・・・?大丈夫ですか?」
「・・・・・。」
相変わらず無反応な男。
それを不審に思ったのだろう護衛兵が彼女と男の間に立ち、スッと慣れた動作で剣に手をかける。芳しくない雰囲気に気づき、道端に歩いていた人たちが怖いもの見たさか、逃げるわけでもなく一定の距離を開けて見守るように視線をその騒ぎの中心にある彼らに向ける。
「おやめなさい!私は大丈夫ですから下がっていてください。民が不安がっています。」
「・・・ですがしかし・・・」
「これは命令です。速やかに警戒を解いてそこを退きなさい。」
「・・・畏まりました。」
流石腐っても皇女(すごく失礼だと分かっているが訂正する気は更々ない)なのか、こういったことに関しては対応が慣れている。それには少し驚いたが、今はそんなことで驚いている場合ではない。
(・・・今が逃げる機会・・・だな。この騒ぎに便乗して人混みの中に紛れ込めば探すのはそう容易くはないはず。)
幸い此処まで来る道程でミリーナから聞き出して、大体この首都の地図は頭に叩き込んである。国の首都であるからして此処から何処に進むにもこちらの自由が利く。入り口は全部で四つあり、北の正門、南の裏門、東の小門、西の小門に分かれている。ここからだと恐らく南街道に続く裏門が1番近い。
(・・・裏門までの道程に武器商店があればいいのだが・・・)
あと、まともな食料を売っている店。これだけは断固譲るわけにはいかない。
スッと眼前に目を向けると護衛兵たちも姫の後ろに控えてはいるが警戒は怠っていないようで、俺の姿は完全に視野の外。ミリーナは放心状態の青年にあれこれ話しかけていて、全くこちらに気をつけているようには見えない。
「・・・まぁ、俺の代わりはそいつにでもしてもらえ。じゃあな。」
呟きは人混みにきれいに吸い込まれ霧散する。それと同じように大衆に紛れ、気づけばそこに彼の姿はなかった。
そのことにミリーナが気がつくのは騒ぎが収まる約30分後のこと。
♪
思いのほかすんなり裏門から出ることが出来たのは喜ばしい。
あいにくと武器屋は裏門までの道程になかったが、きちんとした食料が売っている店なら見つかった。取りあえず食料があれば飢え死にすることはないだろう。これを幸先が良いと言うのかは疑問だが、悪くはない。まずまず、といったところだろうか。
武器がないのは少し心もとないが、以前出てきた犬(正しくは狼の魔物)はいとも簡単に倒すことが出来たので、他の動物もそれくらいのステータスであって欲しいものだ。
(それにしても、足を確保しなかったのは失敗だったか・・・?)
首都には馬車につなげられた羽根が生えた馬?がいた。恐らくあれがこちらでいう馬と同じ役割を果たしているのだろう。といっても馬なんて滅多に見ないし、日本の今のご時勢で馬に乗る機会は極々少数に限られる。乗馬経験がないうちに生涯を終えてしまう人も結構いるのではないだろうか。勿論かく言う俺も乗馬の経験はない。経験がないのに無理して乗り、落ちて回復不能の怪我を負ったりでもしたらせっかく首都から抜け出せたのにその意味がなくなってしまう。それどころか昼を探すことすら不可能になってしまうかもしれない。それだけは避けなくてはならない。
なんとしてでも彼女を見つけて、元の世界に一緒に帰る。
そのためなら何だってするし、汚い事にだって手を染める覚悟さえある。それでも行動を起こせなくなるほどの傷を負ってしまっては何も出来なくなる。焦りは禁物。だからといってもたもたと無駄な時間を過ごしている気は毛頭ないが。
(昼は必ず取り戻す。・・・魔王退治なんて知るか。勝手にやってろ。)
取りあえず今は自分の足で少しずつ踏破していくしか道はない。
(・・・大丈夫。きっと見つかる。)
今、彼女は何処で何をしているのだろうか。あの犬のような動物に襲われてはいないだろうか。一人で何処かを彷徨っているのだろうか。寂しくて一人で泣いているんじゃないだろうか。辛い思いはしていないだろうか。きちんと食事は摂っているだろうか。水に濡れっぱなしで風邪はひいていないだろうか。怪我はしていないだろうか。彼女は、彼女は・・・・・
昼は俺を、俺と同じように探してくれているのだろうか。
(・・・こんなことを考えていては罰があたるな。)
たしかに彼女が俺を探してくれているのだったらそれはそれでとても嬉しい。実際にはしないが大声を上げて叫びたいくらいに嬉しい。でもだからといって彼女には危ないことをして欲しくない。たとえそれが俺を探す為だとしても、危険なことは避けて欲しい。その分その危険が俺に倍に来てもいい。とてつもない不幸が俺に襲い掛かってきてもいい。だから。
どうか、彼女が危険な目に遭っていませんように。
Side Out
♪
Side ???
「・・・はぁ、はぁっ・・・・・・し、死ぬ・・・。有り得ない・・・何で、何でおれが・・・・・こんな目に・・・。あの鬼畜め・・・。帰ったら覚悟しておけ・・・。」
首都の何処かの路地裏で、金髪碧眼を持つ二十歳前半ぐらいの青年が誰にも知られることなく精巧な顔を苦痛に歪めてその場に倒れこんだ。顔色は青白く、とてもじゃないが調子が良いようには見えない。白い項から水玉のような汗が流れ落ちる。
運が悪いのか、そこの路地裏は特に他の路地裏と比べて人通りが少なかった。
もしも先ほど大通りでちょっとした騒ぎが起きたときにその場にいた人が通りかかったのなら、この青年がその渦中の人物であったことに気がついただろうか。
この青年がここに倒れていることに気がつく人物が現れるのは結構後になってからの話である。
Side Out
第14話 終わり