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第13話 水色勇者はご機嫌ななめ

 久しぶりの投稿です。


Side 春太(カズタ)


「出発を一日遅らせろ・・・だと?」

「す、すみません勇者様!!」





寝起きは最悪。

何故か朝早くにドタバタと城中が五月蝿くつい目が覚めてしまった。枕元においてある(アキ)から貰った腕時計に目を向けると、短い針は5少し前にあるのが見える。


(朝5時5分前、か。)


普段なら5時きっかりに目が覚めるようになっているのだが、如何せん慣れない場所で寝た所為か少し早めに目が覚めてしまったようだ。まぁ一概にそれだけが理由とは言えないが。

ベットに隣接している窓の外では見習いの騎士たちが一斉に剣の素振りをしている。まだ朝早く薄暗い中よくやるものだ。そう少しだけ感心しつつ、慣れないベットで凝り固まった体をほぐすように上に伸びをしているときだった。


―バタンッ


「朝早くに申し訳ありません勇者様!」


ノックぐらいしろ。というか朝早くに申し訳ないと思うのなら部屋に入ってくるな。騒々しくて目覚めが悪い。

この一瞬でこれだけの悪態を思いついたが口には出さない。あくまで冷静に、心の中でのみ許される罵詈雑言を出来るだけ吐く。


「用件は?」

「それが・・・今日到着する予定だった勇者さまにお供する騎士団が、予想以上に今回の件の解決に時間がかかっているようでまだ(ここ)に着いていないのです!!」


それが自分に何の関係が?

そう思いながらいつの間にか目の前に居る朝早い来訪者、体中のあちこちにこれでもかというほどリボンをつけている砂色の髪の少女、ミリーナに目を向ける。

目がばちっと合い、少したじろぐ少女。

おそらく目つきの悪さのせいだろう。睨むように目を向けていることは自覚しているがやめる気は毛頭ない。特に彼女を気にしている(この場合好感を表す)わけでも、況してやこの状況に陥れた張本人に好意的に接する気もない。


と微妙な沈黙が堪えたのか、話を再開する。


「えっと・・・つまりですね、言いたいことというのは出発を明日に延ばして欲しい、ということなんです。」

「出発を一日遅らせろ・・・だと?」

「す、すみません勇者様!!」


つまりはそういうことらしい。


「・・・・・。」


―ギシッ


ベットから降りて靴を履く。


「・・・あの、勇者様?」

「俺が最初に着ていた服は?」

「あ、はいっ。もう乾いたと思いますけど・・・?」

「何処にあるかと聞いているんだが」

「すみませんっ、今すぐ持ってこさせます!!」


自分で取りに行くからいい、と言おうとしたときにはもうそこに彼女の姿はなかった。

嵐が去った後のような静けさが舞い戻ってくる。つかの間だが。


「・・・はぁ」


朝からなんだかものすごく体力気力共に消耗した。早く(アキ)を見つけ出して、あの笑顔でこの疲れを癒して欲しい。

その為にも一刻の時間も無駄には出来ない。勿論一日棒に振るなんてなんてもってのほか。かといってこのまま一銭もなしに外に出て何も出来ずに野たれ死ぬわけにもいかない。準備は万端にしておくに限る。取りあえず限界時刻(タイムリミット)を昼に設定しておき、それまでにどうにかして準備を整え此処から脱出する。


(・・・こうしている間にも昼が大変な目に遭っているかもしれない。俺にはゆっくりしている時間はないんだ)


―パタパタパタ


「ゆ、勇者さま、服をお持ちしました。」


はい、と綺麗にたたまれた制服を差し出されたのでお礼を言って受け取る。


で。


「・・・いつまでそこにいる気だ?」

「へ?」

「着替えるんだが」


その瞬間、ぼんっと彼女の顔が真っ赤に染まる。目の錯覚か頭から出るはずのない湯気が見えた。どうやらここに留まっていたのは故意ではないらしい。


「すっすすすすすすすすすみませんッ!!!今すぐでていきまふっ!!」


噛んだ。


さらに顔がこれ以上ないくらい真っ赤になる。もうそろそろ破裂でもするんじゃないだろうか。ここまで人間の顔は真っ赤になるものなんだな、と眺めていると、彼女は服を取りに行ったときの比じゃないほどの素晴らしいスピードで何かを叫びながらここから去っていった。


今度こそ本当の静けさが戻ってくる。


「・・・はぁ」


ほんの一瞬、一息ついてから着替えに移る。上を脱いでベットに置き、ワイシャツに手をかけたときだった。


―バタンッ


「すみません勇者さま!言い忘れていましたが、この後七時から朝食がありますのでその頃にもう一度来ますから、それまではゆっくりしていてく、だ、さ・・・・


少女の視線は俺の上半身。俺の視線は徐々に強張っていった少女の顔。そして視線が交差する。


「「・・・・・」」


「先に言っとくけど、此処では叫ぶなよ。」

「―ッ」


急いで口を両手で押さえる少女。

叫ぶ気満々だった。


「あ、あのっ、ごだっ」


ごだ?


「ごっ、ごご、ごめんなさいッ!!!/////」


―キィ、バタンッ


待て、ごだってなんだ?


勿論心の中で思ったことであって彼女に聞こえるはずもない。もし声に出して聞いたとしてももう既にこの場に彼女はいなかっただろうが。


今度こそ本当の本当に嵐が去っていったようだ。随分性質の悪い嵐だ。


「・・・はぁ」


もう何回目か分からないため息を吐いて、止まっていた着替えを再開した。













                        ♪













―コンコン


「し、失礼しまふ。朝食の準備が出来ました。場所まで案内しますので着いてきてください」


何事もなかったかのように振舞う少女だったが、今のは確かに思いっきり噛んでた。まだ今朝のことを引きずっているのだろう。といっても慰めるようなことはしないが。


ベットから立ち上がって部屋から出る。歩き出した彼女の少し後ろを着いていく。これから彼女と話すためだ。

勿論二時間何もしていなかったわけではない。


「ちょっといいか?」

「はい?」

「今日朝食の後、城下町を見て回りたいんだが。」

「城下町、ですか?今日は特に祭典などを催してはいませんが?」

「違う。単なる興味からだ。この世界に来てまだ城の中しか見ていない。出発するまでに色々と知っておきたいんだ。」


少女は考える素振りを見せる。

もしこれが撥ねられても一応他にも策はあるが、面倒なので出来ればこれで済めばいいのだが。

城下町で旅に出るのに他に必要なものがあるかもしれないから、と金を貰うことが出来れば上出来。


数秒経ってから少女からOKの返事が来る。どうやら第一次難関は突破のようだ。


「ただ私の独断ではいけないので、お父様にお聞きしてからになりますが」

「助かる」







こうして王、ミリーナ、俺と、三人だけの物静かな朝食を終えた後、無事王の許しを終えた俺はミリーナと護衛の騎士二人、計4名で城下町を探索することになった。

まぁ護衛がつくのは仕方がない。その程度は予想の範囲内だ。この人混みだ。どうにかして

二人くらい撒くことは出来なくはない。しかしだ。


(・・・何でこいつ、仮にもこの国の姫が素顔晒して城下町に来れるんだ?)


「城下町なんて久しぶりです!あ、取りあえず勇者さまには本来出発する直前に渡す予定だった金貨十枚と銀貨十枚、あと銅貨十枚渡しておきますね。それぐらいあれば大抵のものは買えると思います」

「あ、あぁ」


高級そうな皮で作られた小さな袋を渡される。小さいに見かけに油断していたが、持ってみると結構重たい。中には手の平に乗っかるくらいの大きさの薄く四角い板のようなものが数十枚入っているのが見える。金貨というから丸い形を想像していたが、どうやらこの世界では通貨は四角の形をしているようだ。


「先ず何処に行きましょうか?」

「取りあえず手前から順々に回っていくつもりだ」

「分かりました。では行きましょう!!」


何故か腕を掴まれる。手首を捻って逃れようとしたが急に彼女が走り出した為にそうはいかなくなってしまった。


「・・・はぁ」



前途多難。まさにこの言葉が今の状況にぴったりと当てはまる。


今日一日ため息がつきることはなさそうだ。







                            第13話 終わり


感想をくださった方、本当にありがとうございます!

至らない点も沢山ありますが、これからもよろしくお願いしますm(__)m

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