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第12話 太陽の色だから

お久しぶりですっ。

やっとPCに触ることが出来ました(>_<)


第12話更新です。

「ふんふんふふふん~♪」

「・・・・・・。」


・・・何だろう。この変な雰囲気は。

あの宗教団体の根城を出てから、リュノワールは一言も話さない。いや、普段から無口な方ではあったもののここまで無口なのも珍しい。こちらが話しかけてもニコリともしてくれないし、返答してくれたとしても生返事。そして何故だか私の一歩後ろを態々遅れて歩いてくる。

それに対してご機嫌な聖獣こと少年は私と繋いでいる手をぶらぶらさせて、鼻歌交じりで楽しそうに歩いている。最初はずっと腕を背中から離してくれなくて(抱きしめている状態)困っていたのだが、なんとか言いくるめて手を繋ぐ今の体勢に落ち着いた。因みに少年の格好は気軽に外を歩けるようなものではなかった為、私がリュノワールにもらった黒い布を貸してあげている。流石に要所を包帯(みたいな布)で巻いただけというのはちょっと危険だと思うから。色々と。


「ねね、あき。」

「ん?」

「あのね、僕、別にこの布なくても平気だよ?寒くないしいつもあんな格好だから。それにね、なんかこの布、嫌な感じがするんだもん。」


体に巻いてある布を空いている方の手でばっさばさと動かす少年。実はこの問答、先ほどからずっと繰り返されている。

何故だか知らないが、彼はこの黒い布を嫌がるのだ。最初触るのにも抵抗があったくらいに。手触りもいいし、別に汚れているわけでもない。たしかに少年には少し大きすぎる気もしないでもないが、そこは纏い方次第でどうとでもなる。それなのに何故ここまで嫌がるのだろうか。


「う~ん・・・私の服を貸すわけにはいかないし・・・でもその格好だと怪我しちゃったりするかもしれないし・・・次の街に着くまでの我慢だから・・・ね?」

「うん!分かった!」


どうやら今回は納得してくれたらしい。内心ほっとしながら少年の満面の笑みにつられてつい笑顔になる。

もう本当にかわいくてかわいくてしょうがない。背は私より少し小さいのだが、綺麗な金色の目をくりんとこちらに向けてくるとき(所謂上目遣い)なんか、もう最高にかわいい。なんか弟が出来たみたいで世話を焼きたくなる。こういうのを母性本能をくすぐる、というのだろう。


「ふんふふふんふんふふん~♪」

「・・・そういえば、ランたち、もう首都に着いたのかなぁ・・・」


ふとあの後のことを思い出しながら、晴天の空を見上げぼんやりと呟く。


あの後、私たちは取り合えずランと青年に続いて建物の外に出た。あの天然要塞の如く捻くれ曲がった迷路を、少しも迷わずに最初の入り口にまでたどり着いた青年は一体何者なのだろうか。もし私たちだけで入り口まで戻れと言われても必ず戻れるとは言い切れない。彼らがいて本当に助かったと後々思わずはいられなかった。

何はともあれ無事に脱出出来た私たちに、ランと青年は邪教の先導者らしき青年を追いかけるためにその本拠地があると予想されるこの国(以前森の中を運ばれていたときにリュノワールから此処はノルテ帝国領地内だと教えてもらった)の首都であるトイファに早急に向かう必要があると言う。


『じゃあ此処でお別れだね~アキ。また会えるといいね☆』

『じゃあな。それからお前と、特にお前。余計な世話かもしれないが、黒髪黒目は出来るだけ隠しておいたほうがいい。俺らみたいに気にしない奴は多くないからな。』


なんだかんだいってあのリッくんと呼ばれている青年は優しい。

因みに前者の“お前”はリュノワールで、後者の“お前”は私を指している。彼らは私たちが何故こんなところにいるか何も聞いてこなかったが、恐らくなんとなくは察していたのだろう。でなければ私たちも彼らにとっては壊滅させる対象に入っていても全然おかしくはないのだから。

と、まぁそんなわけで彼らは、此処まで一緒に来た仲間?(入り口の手前に十数人ランたちと同じような格好をしている人が待機していた)に何かを口早に話し、あまり別れの挨拶もしないうちにあっという間にいなくなってしまった。(カズ)ちゃんのことで何か知っていることがないか聞こうと思っていたのに、色々あってすっかり頭の中から抜け落ちていたことを思い出した時にはもう遅かった。気づいたときにはもう彼らは私の視界にはいなかったのだから。

騎士というものはなかなかに多忙らしい。私の元住んでいた世界で言うサラリーマンみたいなものだろうか。多分サラリーマンより上の位だとは思うが、忙しさは比べてもなんら遜色ないように感じる。


そうして取り残された私たちは、此処に突っ立っているのもあれだということで取り合えず街の外に移動した。その際、聖獣をひとり取り残すのも拙い気がして自然の成り行きで一緒に連れてきてしまったのだけど・・・。これで本当に良かったのかな?と思わなかったわけではないが、その張本人がそのことについて何も言及してこないので一先ず良しとしておく。何かあれば少年のほうから話してくれるだろう。


「ふんふんふふんふふん♪」


・・・と思って今の今まで放っておいたけど、実際そんな雰囲気は微塵も見られない。元いた場所に戻らなくてもいいのだろうか。リュノワールの話だと聖獣は此処からとても遠いところに住んでいると聞いた。きっと其処にいる彼の親も心配しているはずだ。


(って・・・あれ?聖獣にお母さんっているのかな?・・・お母さんがいたら兄弟とかもきっといるよね。う~ん・・・これって聞いてもいいことなのかなぁ・・・)


「あき?どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもないよ。」


丸い瞳をこちらに向けて首を傾げている姿を見て、無意識に笑みを浮かべながら首を横に振る。するとまた鼻歌が再開され、それと同時に私の手を握っている少年の手に少しだけ力がこもった。私のことを心配してくれているのか、それとも唯単に偶々今手に力が入っただけなのか。どちらにせよ、このちょっとした少年の動作のおかげで心が一気にふんわりと軽くなったような気がした。







「・・・ところでリュノ。何気なくこっちの方向に歩いているけど、こっちの方面に町はあるの?」


少年のことをもわもわと考えているうちに結構進んでいたようだ。足が自然と止まる。

特に方向を気にせず思うがままにここまで歩いてきたのだが如何せん、地図を持っているわけでも頭の中にここら辺の地理が入っているわけでもない私が率先して進んだのがそもそもの間違いであった。

今私の目の前には先ほどまであった広大な草原が広がっているわけでも、はたまた賑やかな人の気配がする町でもなく、いかにも“幽霊出ます”的な真っ暗で深い森が広がっているのだから。異様な雰囲気と危険な香りが合わせ混ざりながらゆらゆらと漂っているように思える。

もしこれがゲームの中の世界だったら、私だったら迷わず引き返して迂回するルートを選ぶ。もしこの道しか通れないのならば、森に入る前にフィールドで安心して入れるレベルにまで上げてから入る。そんじゃないと森の中で迷って、回復道具がどんどんと湯水のようになくなっていって最終的にはモンスターに遭って全滅するオチに決まっているのだ。


―ぎゃあ、ギャア、ギャギャギャッ・・・・・・


明らかに普通の動物の鳴き声じゃない。絶対おかしい。


それに忘れてはいけないのが、此処は現実であるということ。

セーブも出来ないから、「あっ、全滅しちゃった・・・。よし、電源切ってまたセーブしたところからやり直そう。」なんてことが出来るわけでもなく。


「うん、ごめんね。戻ろう。」

「?あき、この先に行きたいんだよね?」

「あ、うん。でもなんかこの森、危険なかんじがするから・・・。」


命を大事に。これ基本。

こんな危険そうな森、私の我侭だけで足を踏み入れるわけにはいかない。リュノワールや少年にまで命の危険に晒してしまうかもしれないのに危ない橋は渡れない。それにこの森を通らなくても何処かの街につく道はいくらでもあると思うし。


(うん。引き返したほうが絶対身のため。・・・態々ここを通らなくたって他の道があるかもしれないし。それに・・・本当にこの森、変な感じがする・・・。身が捩れるような、とにかく変な感じ・・・)


触らぬ神に祟りなし。

Uターンして歩き出そうとしたが、少年が森の方向をじっと見つめて動かない。彼も私と同じように何かを感じたのだろうか。不思議に思って振り向くと少年はふと口を開いた。


「あき、ここを通り越したいんだよね?」

「う、うん。そうだけど・・・?」

「じゃあ僕に名前をつけてくれる?そうしたら森の向こう側まで運んであげる!」

「え?」


名前?って聞き返すと、うん名前!と嬉しそうに目を輝かせて言う。

そういえば少年の名前、教えてもらってなかったなぁ、とか思いながら特に断る理由もないので首を縦に振ろうとする。その途端いきなりリュノワールは顔色を変えて、少年と繋いでいた手を無理やり引き剥がし私を抱きこむように少年との間に入り込んだ。唐突な行動に意表をつかれ目が見開かれるのが自分でも分かった。


「・・・・・だ。アキ。」

「?」


そして彼はぼそっと呟く。小さすぎてよく聞き取れない。上にあるリュノワールの顔に視線を向けて表情を伺おうとするがうまく影になっていて見えない。

ここからじゃあリュノワールの体が邪魔になって見ることが出来ないが、きっとこの真っ黒の向こう側にいる少年も驚いて目を見開いていることだろう。時々リュノワールはこういった大胆な行動に出ることは最近分かってきたが、何が原因でこんな行動をするのか未だにはっきりしない。


(今度は一体どうしたんだろう?・・・何かあったのかなぁ・・・?)


大人しく、ぎゅっと抱きしめられるような形でしばらくいたが数秒後開放される。それから何処か切なそうな表情で徐に口を開いた。


「お前は、・・・・お前は俺の「だめ!!」


唐突に大声がキンと耳に響く。


僅かにリュノワールの頬が引き攣ったような気がした。

リュノワールの言葉を途中でスパッと綺麗に遮ったのは、珍しく・・・というか初めて見る表情、怒った顔をしている少年だった。今まで笑った顔しか見たことがなかったのでなんか新鮮に思える。そして気がつけば今度は少年に腕をぐいっと引っ張られ、足に力を入れてなかった体は容易く少年のほうに引き寄せられる。


「あき、だめ!!他の人とくっついちゃだめなんだよ!!手も繋いじゃだめ!」

「へ?」


間抜けな声を上げてしまった私は多分悪くない。急にこんなこと言われて驚かないはずがない。

何故だか自分より年下の子に行動制限されてしまった。Why?


「あきは僕と一緒にいればいいの。他はいらないもん!だからあき、早く僕に名前をちょうだい?そうすればずっと一緒に居られるようになるから!」


怒った表情を一転させて嬉しそうな表情になり、名前を頂戴と催促する少年。


(この世界じゃ、名前がないのが普通なのかな?リュノワールだって最初はそうだったし。でも元の世界じゃあこんなことって滅多にないのになぁ・・・。そういうのってなんだかこの世界が歪んでいるような気がして・・・なんかやだな。)


何が普通で何が普通じゃないのか、その境界線を決めるのは自分自身。私にとっては名前がないことは普通じゃないと思うけど、彼らにとって名前がないことは普通のことなのかもしれない。

でもそれって、なんか違うんじゃないかな。


「・・・じゃあ、リュミイル。リュミエールは光、ソレイルは太陽って意味なんだよ。あなたの瞳は青空に輝く太陽のようだし、髪の毛は光がそこにあるようにきらきらしてて綺麗だから。」


こんな何の取り柄もない私でも出来ることなら進んでやる。名前が欲しいと言うんだったら、いくらでもつけてあげる。それでこの少年が名前の大切さを知ってくれるのなら、それはとても素晴らしいことだと思うから。


「・・・りゅみ、いる・・・。うん!りゅみいる!!ありがとうあき!!これでずっと一緒にいられるんだね!!」

「うん・・・?えっと、リュミ・・・じゃあリュノと間違えそうだから、イルって呼ぶね。」


後半の言葉の意味がよく分からないが、どうやらついてくる気は満々のようだ。家に帰らなくていいのかな?と思う反面、もう少しだけ一緒にいたいなぁと思う気持ちもあって、少年・・・イルの言葉は実はとても嬉しかったりする。別れはやっぱり寂しいから、イルが一緒にいたいと言っているのももしかしたら私と同じ気持ちから来ているのかもしれない。そうだったら嬉しいな。


「あ、ところでリュノ。さっき言いかけてたことって何だったの?」


イルに遮られてしまったリュノワールの言葉の続きがその実気になっていたりし気になっていなかったり。

よく友達に「ねぇあのさ。」と呼ばれて「なぁに?」って答えると「やっぱなんでもない。」っていう返事がきたときにある、あのむずむず感だ。え、何々?何が言いたかったの?途中で話を切られると余計その内容が気になりだしてもどかしくてしょうがない。何としてでも聞いてやる、と変な意地まで出てくる。そんな厄介な心理的現象だ。

しかしリュノワールはなんでもない、と呟いてそっぽを向いてしまった。どうやらまだ機嫌は直っていない・・・それどころか何故だか以前より悪化しているような・・・。


(う~ん・・・怒ってはいなさそうだけどなんか素っ気無いよね。早く機嫌が直ってくれるといいなぁ・・・。あ、そういえば・・・)


ふと先ほどイルとしていた会話の内容を思い出す。イルはこの森を越えることが出来ると言っていた。一体それはそういうことなのだろうか。出来れば無理はして欲しくない。そういう意も込めて恐る恐る聞く。


「ねぇイル。さっきこの森を渡るって言ってたけど、あれってどういう意味?」

「僕が獣体形になって、空を飛んで渡るんだよ。」


そう言ってイルは、頭の上に疑問符(クエスチョン)を浮かべている私を見てにこっと笑う。そして私に体に巻いていた黒い布を渡した次の瞬間、イルの腕が歪に膨れ上がり、そこから侵食するように体全体が巨大化していく。


―クォォオオオオン


透き通る遠吠えが目の前の真っ白な生き物から発せられる。

その生き物の黄金の瞳はしっかり私を見据えていて、真っ白な毛は太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。何処かでこの生き物を見たことがあった。そう、あのとき遭った真っ黒な生き物によく似ていた。ただ決定的に違うのはあのときのような虚ろな雰囲気がないこと。色は真反対の真っ白で、背中には二対の真っ白な天使のような羽根が生えている。四肢に飾りのように添えられた水晶の爪は穢れを知らない無垢な光を宿す。


とても綺麗な生き物だった。


思わず感嘆のため息が出てしまうくらいに。

無意識のうちに前に差し出した私の右手に吸い込まれるようにイルは頭を寄せてくる。優しく撫でてあげるとイルは気持ち良さそうに目を細めるのだった。そうしてること数分、大人しく撫でられていたイルは何か言いたげに頭を上げてこちらを見つめてくる。すると以前リュノワールがテレパシーで話しかけてきたように頭の中に声が響いてくる。


《さ、あき、後ろに乗って!》

「あ、うん。でもリュノも乗れる、かな?」


大きさはぎりぎり大人二人乗れる、というところだろうか。前に少し詰めれば乗れるかな。なんて考えていると、見計らったかのようにイルは爆弾を投下した。


《ね、あき。僕、あき以外は乗せないよ?》

「えぇ!?」

《だってあき以外に触られるの、いやだもん。大丈夫だよ。だってその人、精霊でしょ?精霊は空飛べるもん。僕に乗る必要は最初からないよ?》

「・・・そういうことだ。・・・ありがとな、アキ。俺はきちんと後ろからついていく。」

「あ、そっか・・・。」


今の今まで全く忘れていたがリュノワールは精霊なのだ。精霊なら空なんてひとっとびなんだろうなぁ。今まで歩いてきてくれたのはきっと私に合わせてくれていたから。本当に何処まで優しいんだろう、この人は。

自然と笑みが零れる。


「うん。分かった。じゃあ行こう、イル、リュノ。」


イルに恐る恐る跨る。毛はふかふか。意外とイルの背中はしっかりとしていて、余程無理な体勢でなければ落ちる心配はなさそうだ。寧ろそこらの馬より快適そうである。ほっと安心する。


《しっかり掴まっててね!行くよ!》


安心したのもつかの間、イルの合図と共に感じたことのない空気の抵抗力を体中に感じ思わず目を閉じる。そして次に目を開けたときにはもう雲の近くに浮かんでいた。ちらっと後ろを見遣るとリュノワールがきちんとついてきているのが見える。それに安堵してまた前を向く。目の前には写真やテレビでしか見たことのない壮大な景色が広がっていた。


(うわぁぁ・・・・すごい・・・!!私、今空飛んでるんだ・・・。なんだかすごく楽しい!)


このとき、高所恐怖症じゃなくて本当に良かった。そう心の底から思った。







                            第12話 終わり


感想、アドバイスetcなど待ってます。

気軽にどしどし送ってくださいm(__)m

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