首吊り雨宿り所
あの場所には幽霊が出る。
あの場所には首を吊った男が出る。
あの場所には呪いが込められている。
中学校から徒歩15分程度で着く雨宿り所。なんてことのない特段変わったところもない屋根と椅子が簡易的に設置された雨宿り所。
いつからそう言われ出したのか全く分からないし、知るよしもないけれど、友達先輩あるいは先生が口を揃えた言うことには、私もそうなのだろうと納得せざるを得なかった。
ある日放課後に雨が降った。いつもと変わらずに。学校は湿気で湿っぽくなり私の髪は荒れ出した。放課後になって傘を刺していつもの道を通って帰っていた。
ふと例の雨宿り所が目に入った。じめじめとした雰囲気が、あるいは偶然がそうさせたのか分からないけど、とにかく私はその時に見てしまった。
雨宿り所には首を吊った男がいた。憤怒と悲哀に満ちた顔をしていた。
見てはいけないものを見て、逃げろ立ち去れと頭が全神経がそう叫ぶのを感じるのに、なぜか足は地面とくっついたように離れない。
空気がまるで凍ったかのように感じる。
僅かに足が緩むのを感じて、必死に目を逸らして全力で走って帰った。ずっとずっと心臓が鳴っていた。目からは涙が溢れていた。
次の日、特に何事もなく私は登校できた。
だが、学校で噂が流れた。
隣町から引っ越してきた転校生が、行方不明になった。まだ一週間も経っていない、名前も覚えられていない生徒だった。
数日後見つかった。雨宿り所で。
首を吊っていたらしい、とだけ聞いた。先生たちは詳しい話をしなかったし、警察も早々に帰った。騒ぎは、不自然なほどに早く収束した。
その日にまた下校中、雨宿り所に老婆が座っていた。休憩中だろうか。私は尋ねてみた。
「ここは、この場所は何ですか? 何なのか分かりますか?」
「こいつはここに生まれた人間には何もせん」
昔からそうらしい。
あの場所は雨宿り所ではない。土地に縛られたものが、外から来たものを繋ぎ止める場所だと。
「感じないやつが連れてかれる。何も怖がらない余所者がな」
その時、私は理解した。
私が助かったのは、運でも偶然でもなかった。怖いと知っていたからだ。噂を聞き、場所を知り、そこに意味を感じていたから。
雨宿り所は、今日もそこにある。
地元の人間は誰も近づかない。そして余所者だけが、何も感じないままに雨を避けに立ち寄る。




