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声劇用台本「老いない魔女」男女1:1  作者: 木山京


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6/10

■6 老いない魔女と知らずの魔女

◆一人称小説風になっています。

◆魔女の視点が中心。名前が「」は会話、『』は独白になります。


◆『魔女』

覚めてほしい、と。

いつも祈っていた夢は唐突に、恐ろしいほどの早さで離れてゆく。

今日は、心の軋む名残惜しさを抱かせて。

目を開ける時、私は自分の目尻に涙すら滲んでいるのを感じた。

かつて見た紅葉が、不意に頭の中で蘇り……。

そして二度とは見られないのだと。

私のうなじの辺りで、現実がそう囁く。

そんな寂しさ。

きっと、だから見間違えたのだと思う。


◆「青年」

魔女様……?


◆『魔女』

まぶたを開けてから少しの間、そこに紅葉があると思った。

私の顔を覗き込んでいる、彼の眼差し。

どこか不安を漂わせたそれが、つい一瞬前まで語らっていた紅葉と重なってしまう。


◆「魔女」

……おはよ、助手君。


◆『魔女』

つい口から出そうになった別の名前を、寸前で飲み込み、微笑んだ。

浮かべた後で後悔する。

無意識に取り繕ってしまった微笑みだから。


◆「青年」

大丈夫なんですか?

あれから、ずっと眠っていたんですよ……?


◆「魔女」

うん、平気平気。

っていうか、ごめんね? 助手君こそ怪我なかった?


◆「青年」

いえ、僕は全然……。


◆「魔女」

そっか。

あははっ、ならよかった。……よかったよ。

……で、その子は?


◆「青年」

あ、ああ、ええと……。


◆『魔女』

どう説明したものか。

どこか可愛げのある困惑を浮かべ、彼は口ごもった。

この青年のすぐ傍らに、じっと私を見つめる小さな人影があったのは、最初から……。

いいや、目覚める前から気付いていた。

一人の少女だった。

私よりひと回り幼い外見の、知らない、と表現するのはためらってしまう少女。

何しろその子は、お互いを見比べなくともわかってしまうほど、私に近くて、そのものだ。

永遠に続く呪いを受ける以前の、まだ人並みの時間の中にいた頃の……。

彼女は、かつてそうだった私の姿をしている。


◆「青年」

あの後、いつの間にかいたんです。

喋れないみたいで、事情はわからないんですけど。

それと、この子が現れてから……。


◆「魔女」

助手君の呪いが治った。


◆『魔女』

彼は無言で頷いた。

動かなかったはずの片腕を、無意識に隠して。

心なしか申し訳なさそうにしているのは、律儀すぎる人柄の表れだ。

思えば彼の祖父も、そういうきらいがあった。

家族を作り、時を刻む。

そんな当たり前があることに、負い目を感じることなんてないのに。

助けてやってほしい……と。

夢の終わりに聞いた言葉が、私の胸にぽつりと落ちた。


◆「魔女」

……あはは、どうなってんだろうね。

全然わかんないや。


◆「青年」

ええと……どのことです?


◆『魔女』

途方に暮れかけた心を振り払いたくて。

無理やり浮かべた苦笑を引き継いでくれた彼へ、私も続ける。


◆「魔女」

全部だよ、ぜーんーぶー。

その子のことも、助手君の呪いが治ったのも。

……っていうか、何がどうなって呪いが人間になってるのやら。


◆「青年」

呪い……ってことは、この子やっぱり……。


◆「魔女」

そだよー、薄々わかってたんだ?

……ま、どう見たって私だもんね。

理屈としてはさ。

助手君の呪いは、元はおじいちゃんのもの。

で、さらに元を辿ると、おじいちゃんの呪いは私にかけられている呪いの一部。

だから助手君から切り離された呪いが実体を作る時、とりあえず私になる。

……っていうのは、まるっきりわからない話じゃないけどね。


◆「青年」

そもそも、なんで実体になったのか。

というか僕から離れたのか、ですか?


◆「魔女」

そういうこと。……おいで。


◆『魔女』

幼かった頃の私は、一瞬だけ彼と私を見比べてから、こちらにそっと歩み寄った。

単に私の姿を模しているわけじゃない。

この子にはどうやら人格があって、彼になついているようだ。

まるで妹を見ている、そんな気分になる。


◆「魔女」

この子、食事は?


◆「青年」

必要ないみたいで、何も。


◆「魔女」

私とおんなじかぁ。


◆「青年」

魔女様は食べるじゃないですか。


◆「魔女」

食べるよ、食べるけどね。

あれは趣味みたいなものだから。

私はほら……不老不死なわけだし。


◆『魔女』

化け物、と言いかけて、不老不死、と言葉を変えた。

この少女の前で、その手の自嘲を口にしたくないと思う。

実際、この子は私の妹のようなものなのだろう。

姿かたちだけでなく、不老不死という点でも共通しているに違いない。

私と違って食べない理由も、わかる気がした。

私が食事をするのは、今の姿になるまで当たり前の人間だったから。

つまり私は、食べるという楽しみを知った上で、不老不死の呪いを受けた。

だけどこの子は、生まれた時から老いもしないし死にもしない。

ただ、ここにいる。

そのことが、ひどく物悲しく思えた。


◆「青年」

……何か作りましょうか?


◆「魔女」

うん、そだね。……ん?


◆『魔女』

気遣うように彼が訊いたところで、少女が不意に一枚の便せんを差し出した。

ずっと握りしめていたらしい。

端が少しシワになった、一通の手紙だ。


◆「青年」

ああそれ、この子が現れた時から持ってたんです。

見せてもらったんですけど、何も書いてなくて。


◆「魔女」

何も?

……ああ、だろうね。


◆「青年」

魔法ですか?


◆「魔女」

うん。あぶり出しってあるでしょ?

レモンとかミルクとかで文字を書いて、軽くあぶるとメッセージが出てくる仕掛け。

これはその魔法版。

特定の魔力に反応して、文字が浮かぶっていうものなんだけど……おっ。


◆「青年」

出ました?


◆「魔女」

……うん。私宛てだ。


◆『魔女』

浮かび上がった懐かしい筆跡に、私はそれ以上、何も言えなくなっていた。

じっと読みふける私の横顔は、二人にはどこか不安だったのかもしれない。

やがて私の頬から水滴が伝い落ち、手紙に染みを作る。

私が読み終えたのは、ちょうどその頃だ。


◆「青年」

魔女様……?


◆「魔女」

ううん、大丈夫。

……助手君さ、お弁当作ってくれる?


◆「青年」

え? ええそれは、全然構いませんけど……どうして?


◆「魔女」

ちょっとお出かけ。三人でね。

ピクニック行こ。


◆『魔女』

まだ困惑気味な彼に笑いかけると、私はそっと少女の髪を撫でた。

知らず知らず、彼が与えてくれた私の救いの、その髪を。

私にある楽しいを、この子にも教えてあげられたらいい。

そんな想いに気付いたのかどうか。

少女は私と彼へ、そっと微かな笑みを浮かべた。

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