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第一話「同じネトゲ」

第一話「同じネトゲ」

 キーンコーンカーンコーン。

 一日の始まりの音が響く。僕は、ちょっと遅れ気味になりながら、まだおぼつかない足取りで、まだ慣れていない教室へ向かった。

「ちょっと待って! ギリギリセーフ!!」

 ガラッと扉を開けると、数学教諭の呆れた顔が目に飛び込んできた。

 遅れてしまったか。遅刻二回目。

「電車か? それとも、寝坊か」

「寝坊です!! すみません!」

「素直なのはよろしい。じゃあ、許すから、この問題を解くんだ」

「え……。あ、はい」

 数学の授業でよかった。それ以外の予習はしてなかったのだ。

 無事授業も始まった。

 そんな中、少しだけ考えた。高校生になったものの、まだ四月で、特に部活にも入らず、期末テストの準備もあまりできず。

 はあ……。もっと、煌びやかな日々がスタートするはずだったのに。

 こんな、特に何もない日々を過ごすだなんて。

「海野? 寝てるのか?」

 海野というのは、僕のことだ。

「ね、寝てません!!」

「じゃあ、これも解け」

「ええ!?」

 なぜか、問題を二問解かされ、その授業は終わった。すると、隣の山田さんに話しかけられた。

「海野くん、いっつも遅れてくるよね」

 そっと話すように言った。また、くすくすと笑い、長い髪を払った。

「いや、ゲームばっかりやってて……。寝不足」

「勉強しないと、もうすぐ高校最初の期末テストだよ? 赤点取ったら、ゲームできなくなるよ」

「そ、そうだよね……。範囲すらわかってないけどね」

 ははは、と笑いながら、頭を掻いた。

 はあ……。何か、こんな感じでずっと行くのかな……。

 ふと、外の生徒が体育を終えたあとのぼやきを聞き、ゆらゆらと流れる雲の切れ端を見た。

 楽しいことあればいいなあ。

 そんなことを思うのだった。


 山田さんは普通に可愛い。だけど、僕のタイプではないし、彼女もたまたま隣の席だから話しかけてくれているんだなと思っている。

 僕は海野佑:うみのたすくと言う。

 高校に入ってから、部活にも入らず、勉強にも力を入れず、ただ凡庸に過ごしてきてしまった。

 ゲームをしているだけだった。

「よっ。昨日もゲームか? 顔がゲッソリしてるぞ」

 こう話しかけてくれるのは、唯一の友達である、稲田である。

「おはよう。そんなに顔色悪いか?」

「ああ。寝不足だろ。保健室にでも行ってきたら?」

「いや、そうしたいけど、テスト勉強を家でやってない分、授業で勉強しないと」

「それ、何か間違ってる勉強法な気がするけど。まあ、いいや。逆に今日は家で勉強すればいいんじゃないか?」

「うーん。眠くて正直、先生が日本語を喋っている気がしない」

「それはやべえな。絶対、寝たほうがいい」

「テスト前に徹夜すればいっか!」

「お前は健康を害すことしか考えられないのか」

 まあ、部活もやってないし、何とかなるだろ。そう思いながら、稲田に言われたように、保健室へ向かった。


 ガラガラ。

 扉を開けると、机に向かって考え込んでいる保健室の先生がいた。

「うーん。どうすれば……」

「どうかしたんですか?」

 僕が話しかける。女の先生なのだが、何だか妙に考えて、悩んでいるようだった。

「解熱剤が効かない子がいてねえ……」

「ああ。なるほど。耐性ついちゃった系ですか」

「さあ……。どう思う?」

「知りませんよ。寝まーす」

「おい。奥のベッドは使ってるから手前のでね」

「はーい」

 奥のベッドはカーテンがかかっていて、誰が寝ているかもわからなかった。

 僕もカーテンを引いて、寝た。誰か生徒が来たら、集中して寝れないからだ。

 すぐに寝てしまった。

 夢の中では、バリバリのエンジニアで働いている感じだった。

 父親がエンジニアで、母親が公務員だ。

 だから、実は、結構裕福な家系なのである。しかし、僕は放任主義でゲームしかしてない。

「海野くーん。海野く……ん」

 寝ていると、遠くから呼ぶ声がした。

「何ですか、先生」

 保健室の先生が話しかけてきた。

「私、ちょっと出かけるから、ここにいてね」

「え? 寝てられないじゃないですか」

「ごめん。だけど、ちょっとどうしても、なのよ」

「わっ、かりました……」

 そして、僕は先生が座っていた椅子に座って、頬杖をついた。

 ふと、うしろのベッドで寝ている生徒のことを考えてしまう。

 僕と同じ寝不足か、それとも頭が痛いとか、具合が悪いとかかな。

 そもそも、まだいるのかさえ、わからない。

「むにゃむにゃ……メタル鉱石十個……」

 寝言が聞こえてきた。メタル鉱石十個ってことは、マロックの街のクエストか……。

 ん?

「それって……」

 僕のやっているネトゲのクエストだった。

「骨のクエスト……」

 それはレベル60のクエストだ!!

 そっと、カーテンの中を盗み見る。

「え? 誰?」

 もちろん、高校生になったばっかりの僕には知らない生徒がいた。すやすやと寝ている。

 ジャージを着ているが、その色的に、二年性だ。

 つまり、先輩?

「ギルドは入ってますか?」

 そっと問いかける。

「ふふ。あなたもやっているようね」

 その、意地悪な、妖艶の笑みは、僕の心を掻き乱した。

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