変わる日常
本土から船で約40分
見渡す限りの海に囲まれた神岬島。
その島で退屈な毎日を送る高校生 穂山新の学校に、
東京から稲山優羽が転校してくる。
不思議な魅力を持つ優羽に、ある日突然友達になってほしいと声をかけられ、新の日常は非日常へと変化していく。
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転校生が来てから一週間が経った。
転校生を含めてもたった16名のクラスなので、すっかりこの2年A組にも馴染んでいる様子だった。
しかし転校生は一人を好む性格のようで、登下校などは一人でしているらしい。
コミュニケーション力も人望もあるのに、不思議な人だと思った。
帰りのホームルームも終わり、いつも通り教室を後にした。
「新くん。」
いつもの帰り道を一人で歩いていると、背後から名前を呼ばれた。普段下の名前で呼ばれることがないからか、心臓が小さく跳ねる。
驚いて振り返ると、そこに転校生が立っていた。
「新くんのお家、こっちの方なんだね。僕の家と反対方向。」
「…そうだけど。」
唐突な問いかけに、どのように返していいか言葉に詰まった。
自分でも分かるほど、ぶっきらぼうな返事をしてしまった。
「はじめまして。僕、稲山優羽っていうんだ。」
「ああ、名前くらい知ってるよ。なんでこんなところに?」
けたたましい蝉の声が、俺の言葉をかき消すように降り注ぐ。茹だるような夏の熱気が、肌にまとわりつく。
転校生は、俺の質問を吟味するように少し考え、それからゆっくりと口を開いた。
「新くんと仲良くなりたかったから、かな?」
その言葉を理解するのに数秒かかった。
なんで俺なんだ?俺みたいにつまらない人間を選ばずとも、もっと他にいるだろう。
でも、転校生の目は本気だった。
「…なんで俺?って思ってる?」
核心を突かれ思わず息を呑む。
まるで、心の奥底を見透かされているような感覚に陥った。けたたましかった蝉の声さえ、遠く聞こえる。
「…ああ、そうだな。なんで俺なんだよ。」
俺の正直な返事に、優羽は満足そうに微笑んだ。
「理由はうまく言えないんだけどね。
なんとなく、新くんじゃなきゃダメだと思って。」
その言葉の真意は、俺には分かりかねた。
だが、そう言い切る優羽の瞳には、一切の迷いも曇りもなく、ただ純粋な輝きだけがあった。
まるで、友達になるのは当然のことのように真っ直ぐ俺を見つめる。
やっぱり、こいつはどこか常識から外れている。
その常識外れな真っ直ぐさが、不思議と心を掴んでくる。
「ね、新くん。友達になってよ。」
知り合って間もない相手に、こんなにも真っ直ぐに、友達になってほしいと請われたのは生まれて初めてだった。
しかし、彼の言葉は本心だと強く感じた。
「別に、好きにしたら。」
毎日放課後に遊んだり、ご飯を一緒に食べるのが友達なら、
日常に刺激を求めてしまっている俺にとっても悪くない話だと思った。
優羽は、それを聞いて嬉しそうに笑った。
「ありがとう、新くん。」
それは、夏の陽炎のように眩しく、そして儚げな笑顔だった。
俺は、それ以上の言葉を発することができず、ただ黙って彼の顔を見ていた。
そう言えば、俺の名前知ってるんだな。それに、いきなり名前で呼んでくるなんて。
東京では普通のコミュニケーションなんだろうか?
そんな意味もない考えが頭の中を巡る。
沈黙を割るように、優羽が口を開く。
「僕のことは優羽って呼んでほしいな。友達になったし。」
「そうだな。優羽って呼ぶよ。」
不思議と「優羽」と呼ぶことに抵抗はなかった。
彼はまた、嬉しそうに頬を緩ませた。
「ありがとう、新くん!また明日。」
そういうと優羽は、俺の歩いて来た道を走って帰って行った。
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