青がはじまる
興味を持っていただき、ありがとうございます。
世良と申します。今回が初めての執筆になります。
拙い文章ではありますが、少しでも私の思いや物語の空気が、
読んでくださる方の心に届いたら嬉しいです。
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高校2年生、7月1日。
今日も、明日も、変わらない日常。
暑苦しい制服を着て、学校に行く。
娯楽も何もないこの島で、俺は一日のやるべきことが終われば寝る。
毎日、それの繰り返し。
海に囲まれたこの島、神岬島で生まれ育った。本土までは船で40分。刺激もなければ、逃げ場もない。
コンビニも、カフェも、映画館もない。葵い海と空だけがこの島のすべてだ。
今日も制服を着て、重いカバンを持って学校までの道を歩く。
ギラギラと燃えている太陽がアスファルトを熱す。挙句、人間をも不快にさせるこの季節が俺は大嫌いだ。太陽から逃げるように学校へ急ぐ。
教室へ入るとクラスメイトが騒いでいた。いつものことなので特に気にも留めず席に着こうとすると声をかけられた。
「穂山くん聞いた?今日転校生が来るらしいよ!!」
かなり興奮している様子だった。今の話が正しければ、この学校に転校生がやってくるらしい。この島に転校生がやってきた話は聞いたことがない。
おそらくこの同級生たちも初めて転校生がやってくることに興奮を隠しきれないのだろう。
「さっき先輩から聞いたけど、転校生2年生らしいよ・・・!」
クラスメイトたちはこの話題で持ちきりだった。こんな何もない島に転校してくるなんて、どう考えてもまともじゃない。
「はーい。ホームルーム始めるよ~」
担任の先生が教室の扉を開ける。その後ろから見たことのない男の子も入ってくる。その途端、教室の空気がぴたりと止まった。
「今日からこのクラスに転校生が入ります。本人から自己紹介をしてもらいましょう。」
先生に促され、その男の子が話し始める。
「はじめまして、稲山 優羽です。東京から引っ越してきました。
この島のことはわからないことばかりなので、いろいろ教えてください。
よろしくお願いします。」
淡々と自己紹介を終える。クラスメイトからは歓迎の拍手が起きた。俺もその拍手に合わせて拍手しておいた。
「ありがとう、稲山くんの席は廊下側の一番後ろ。みんな仲良くね。」
俺の席の後ろ。
クラス全員の視線を集めながら俺の横を通り過ぎる転校生は、まるでこの世界に存在していないような透明感をまとっていた。
長いまつげの奥にある瞳は色が薄くて、まるで空の色を写したみたいだった。
ホームルームが終わるや否や、クラスメイトたちは俺の後ろの席、転校生の席に集まる。
「東京のどこ?」「なんで引っ越してきたの?」
クラスメイトたちは転校生に興味津々だった。俺はその輪には加わらず、カバンの中に手を突っ込んで教科書を探していた。
みんな盛り上がってるけど、 この島に来た理由なんて、どうせ誰も“本気”では聞いてない。
転校生が来ても俺の日常はなにも変わらない。放課後になってもクラスメイトは転校生の話題で大盛り上がりだった。そんなクラスメイト達を背に俺は一人で教室を後にした。
東京は欲しいものもすぐに買える。おいしいご飯も沢山ある。娯楽施設だって沢山あって選びたい放題。そんな場所で生まれ育ったなら、どうしてこんな孤立した何もない島に来たんだろうか。
「やっぱり、少し変わってるやつなんだろう。」
俺の、転校生への第一印象は、それだった。
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よくある、ひとつの島での物語です。
学生生活に限らず、この瞬間は一度きり。
後悔のないように、思う存分やりきってほしい。
そんな思いから、筆を取りました。
私自身、コロナ禍で思うような高校生活を送ることができませんでした。
この物語は、そんな私の後悔と、理想の青春です。