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<R15>15歳未満の方は移動してください。

モラハラ婚約者があまりにも酷いので、やり返すことにした

作者: セト

「王族の方々は知力に優れ、また武術にも長ける方々なんだ。君の家とは格が違うんだよ」


 うーん、これってモラハラだよなぁ。

 私、リナリー・フォルジアは目を細めながら、婚約者であるアレジオの言葉を聞き流す。 

 王家主催の夜会は華々しくて素晴らしい。

 なのに、テンションが上がらない。

 彼の言動のせいで。


「まあ、でも君は容姿が良く生まれてきただけで幸運だよ。知能はしょうがない。遺伝も大きいから。ところで今日の下着って何色?」


 日本基準なら完全アウト!

 ……そう、私は日本からの転生者だ。

 本名は氷川梨奈。

 会社員をやっていた二十五歳だった。

 日本ではオタク活動、ネット小説、推し活に力を入れていた視力の悪い女だ。

 仕事も慣れてきて、投資のおかげもあって貯金が二百万を超え「ひゃっはー! 明日はマンガ大人買いしちゃうぞ!」と叫んだ日の翌日、交通事故で死んだ。

 せめてマンガ買わせてほしかった。

 死後、神様に会った。

 その神様が転生させてくれるのだが、現在新しい肉体を作るのが難しいとかで、死んだ人の体に魂を入れられた。

 それがリナリーだ。

 彼女は病で16年の人生に幕を閉じ、私の魂が入れられて復活した。

 私はリナリーの記憶もほぼすべてある。

 ……私はリナリーになった日、号泣した。

 この子は、不遇を極めたような女性だったのだ。

 貧乏だったり、いじめられたり、不本意な婚約だったり、セクハラされたり、病気で亡くなったり。

 神様よ、あなたはなぜリナリーを救わなかったのですか?

 私がそう呟いた翌日、ベッド横に一枚のメモが置いてあった。

『さすがに可哀想なのでなにか力を一つ授けるよ。なにがいい? あとリナリーの魂は天国に行ったよ』

 リナリーが救われたことに安堵した私は、地球に帰る力が欲しいと願う。

『却下』

 と、メモの文字が更新された。

 帰るのが無理ならせめて、地球の物を取り寄せる力が欲しいと願う。

『いいね! 感謝ポイントを設定するから、それを使ってなんでも取り寄せられるよ』

 それが最後のメッセージだった。

 あとはなにを聞いても反応なし。

 それから三ヶ月、私は色々と頑張った。


「――聞いてるのかよリナリー? これから挨拶に行くから、おれをちゃんと立てるんだよ」

「……はぁ」

「はぁ? いま、はいじゃなくてはぁって言った?」

「ファイ!」

「ま、まあいいや……。一歩下がってついてきて」


 いやね、アレジオが婚約者ってのはリナリーの悲しみの人生でも大きな部分だ。

 彼女は親が没落貴族になり、他国から売り飛ばされ、フォルジア男爵家に拾われた。

 男爵家の家族は素晴らしい人たちなのだが、いかんせん貧乏貴族で金がない。

 そこをブスマン伯爵家に狙われた。

 リナリーの美貌を気に入った伯爵家が経済的支援をエサに婚約を申し込んできたと。

 そんなわけで、私も家族のためにこの人の言うことを聞かなきゃいけない。

 アレジオは第三王子であるフィロー様の近くにいくと、胸に手を添えて静かに待つ。

 相手に話しかけられるのを待つのだ。

 殿下はアレジオの二つ下で、私と同い年の十六歳。

 ゆるふわパーマかけてるみたいな綺麗な金髪に中性的な美形な容貌。

 それでいながら嫌みなところがなく、むしろ穏やかな雰囲気を持つ。

 神様、婚約者チェンジしてください。

 この方と。


「ああ、ブスマン伯爵家の……」

「アレジオと申します! こちらはフォルジア男爵家のリナリーです。婚約者になります」


 私はぎこちないカーテシーを行う。

 この国、意外と挨拶やマナーは融通がきく。

 ただ、こういった場ではこういうのが良いらしい。


「あれ? 君、城で何回か見かけたことがあるよ」

「……ええと……見聞を広めるために下女のようなことを行っております」


 本当はお金を稼ぐために、城の下女として働いているのだ。

 フィロー様は感心したように言う。


「侍女頭がすごく褒めてたよ! 過去最高の新入りがきたって。自分が部屋から出て、三分後に戻ってきたら床の掃除を終えていたこともあるってさ!」


 掃除機使いましたから。

 ズルして大変ごめんなさい。

 私がフィロー様に褒められてばかりなのが気に食わないのか、アレジオは見えないように私の腰を小突いてきた。

 おれより興味持たれてんじゃねーよってところだろう。


「それより殿下、聖ロマーリオ学院へのご入学、おめでとうございます。殿下が学院に来る日がいまから楽しみで仕方ありません」

 

 アレジオもまた聖ロマーリオ学院の生徒なのだ。

 貴族は大体そこに通う。


「君も学院に通ってるのかな?」


 フィロー様はアレジオを華麗にスルーして、私に質問してくる。

 勘だけど、この男は普通に嫌われているのではないかと思う。


「いえ、私は家庭の事情で通っておりません」

「家庭の……? ああ……」


 フォルジア男爵家は悪い方でそこそこ有名なのだろう。

 フィロー様も金がなくて通えないのだと理解してくれたらしい。

 ただ、理解はしても引きはしなかった。


「特待試験を受けてみたらいいんじゃないかな?」


 へぇ、そんなものがあったんだ。

 いわゆる庶民もいる学院と聞くので、そういった制度も用意されているのだろう。

 しかし、アレジオが割り込んでくる。


「リナリーが特待? アハハ! 殿下、それは無理があります。リナリーは魔力も弱いし、見た目以外には取り柄がありませんから」

「……仮にも婚約者なのに、よくそういうことが言えるね」


 フィロー様が軽蔑するような冷たい眼差しをしている。

 これにビビったようでアレジオは一歩引いてしまう。

 あの穏やかで優しそうなフィロー様にこんな顔させるなんて……。

 やっぱアレジオは人をキレさせる才能がお有りになる。


「僕の魔力系統は眼力に偏っているんだ。他人のオーラを見たりできるんだけど、リナリーはすごいよ」


 この世界、実は剣と魔法の世界だったりする。

 魔法も系統含め、いろんな種類がある。


「君には、神々しい光が降り注いでいるんだ。こんなの初めて見たよ」


 神様ぁ――!

 ちゃんと私のことを見守ってくれていたのですね!

 絶対忘れて放置しているものだと思い込んでいてごめんなさい。


「逆に君は……いや、なんでもない。リナリー、君と学院で会える日を楽しみにしているよ。またね」


 フィロー様は爽やかな笑顔を見せ、颯爽と立ち去っていく。

 イケメン眼福~と心の中で喜んでいると、隣に阿修羅像みたいな顔をする男がいる。  

 無論アレジオである。

 私に八つ当たりしそうなので、そそくさと離れた。

 ふと、新人っぽい給仕人が人とぶつかりそうになって辛うじて避ける。

 ただバランスを崩し、持っているトレイごとお酒をこぼしそうになる。

 私はそれをさりげなく支える。


「あっ、助かりました。ありがとうございますっ」

「どういたしまして」


 この瞬間、私にだけ見えるポイントが空中に現れる。


 500P


 これは感謝ポイントというやつだ。

 人から感謝されたときに入る。

 感謝の度合いが大きいほど、たくさん入る。

 そしてこれを使用して、地球の物をなんでも取り寄せることが可能だ。

 ちなみに私のいまの総ポイントは……

 

 230800P

 

 日々、コツコツと貯めてここまでこれた。

 この能力のすごいのは、取り寄せた物は私の意志で自由にしまったり、出したりできる。

 これは無料なので神様に感謝したい。

 私が所有している物は以下になる。

 

 コードレス掃除機 運動靴セット 除菌スプレー ガスコンロ フライパン 鍋 卵5 卓上扇風機 アイマスク 生理用品    

 

 日常で使う物を色々と取り寄せ、保存している。

 やはりね、日本の商品はすごい。

 この世界は魔法などがあり、地球より進んでいる部分もあるが、多くの部分で劣っている。

 ちなみに保存中は腐らないので、生ものなども全然いける。

 ありがとう神様(二度目)

 さて、パーティが無事終わって、私はアレジオと帰路につく。

 馬車の中という逃げられない空間なので気分は最悪だ。


「夢を見ちゃいけないよ。君が特待試験を通るなんて絶対にあり得ないから。君はコーヒー淹れの練習でもしていればいい。わかるね?」


 どや顔でこっちを見てくるアレジオ。

 腹立つわぁ~! 

 私が無言でいるとここぞとばかりにペラペラとモラハラを始める。

 そこで私は、物を一つ取り寄せる。


 ゴキブリのおもちゃ 200P

 

 ちなみにジュースは100P~くらいで、日本にいた時の金銭感覚と比較的似ている。

 ポイントを消費して、おもちゃを取り寄せる。

 握った手の中におもちゃを握りしめ、アレジオの目を盗んで、私たちの間に置く。


「だいたいさ~、貴族にも格ってものがあってだね、君の家は……リナリー、聞いているのかい?」

「あの、それどころではなくて」


 私は座ったまま、目線を落とす。

 当然、そこにはゴキブリのオモチャが置かれてある。

 アレジオは虫が死ぬほど苦手だが、中でもゴキブリは大嫌いだ。

 いや私も嫌いだし、日本でも大嫌いな人が多いとは思うけど。


「ひぎゃぁあああああ――!!」


 生まれたばかりの赤子かってほど、アレジオは叫びまくって逃げ出す。

 天井に頭をぶつけて反対側の席に倒れ込み、額もぶつけていた。

 くくっ……ウケるってレベルじゃない。

 頭をぶつけたからか、目をパチパチさせながらも彼は訴える。


「リナリーッ、そいつを、そいつをなんとかして外に捨てるんだ!」

「やってみますわ~(笑)」


 私は素手でゴキブリを掴む。

 アレジオが素手で……と驚愕している。

 そりゃオモチャですもの。

 本物だったら私だって卒倒ものだ。


「きゃ、ゴキちゃんが動き回ってしまいますぅ~」


 私はポイとアレジオにゴキブリを投げ捨てる。


「おええええええええ!? ひぃ、ひぃぃ、触れるな、くるなぁああ!」


 馬車の中は狭い。

 そんなことも忘れて逃げようとするから、アレジオは顔やら体やらぶつけまくる。

 あーおもしろかった!

 私はゴキブリを掴んで捨てるフリをして、ちゃんと保存した。

 いつか、また使わせてもらおっと!

 

  ☆ ☆ ☆

 

 家族に相談してみたところ、特待試験を受けても良いということになった。

 フォルジア男爵家のみんなは、やはり素晴らしい人たちだ。

 そんなわけで、やってきました聖ロマーリオ学院。

 荘厳な門に瀟洒で立派な建物、さらには広々とした校庭。

 一目で勝ち組が通う学校なのだろうなとわかる。

 ただ、ここは貴族専門の学校ではないらしい。

 騎士や魔術師などを養成するところであり、剣や魔法に長ける平民などもそれなりにいる。

 校庭に集まった受験生は、私を含めて三十人ほどいた。

 特待試験は基本的に貴族だけだが、誰でも参加は自由という開かれた制度だ。

 難易度がかなり高いので、よほど自信がある人しかこないのだと思う。

 ……やばい、みんな武器やら持っている。

 私だけ手ぶら普段着で来てしまった。

 何人か試験官っぽい人がいる。

 さて、学長が挨拶をする。


「学長のロンジーオだ。本日はよく集まってくれた。試験は違う場所で行われる。だが、その前に魔力測定を行う。その結果は、試験にも反映される」


 魔力量を計る魔道具があるようで、試験官がそれを持ってくる。

 ただの羊皮紙に見えるけれど、それに触れると数字が出るらしい。

 その数字が、その者の魔力量を示しているのだとか。

 やっぱり魔法のある世界ってすごい。

 私にはどのくらいあるんだろう?

 少しだけワクワクしてくる。


「――1400」


 最初に触れた生徒の魔力量を試験官が読み上げる。

 1400が多いのかわからないけど、試験官の先生の反応は悪くない。

 まずまずの数字なのだろう。

 次々と鑑定が行われていく。

 魔力は1000~3000くらいが多い。

 鍛えれば増えたりもするらしいので、少なくても落ち込むなと学長が口にしていた。


「――8200」

「おおおー!」


 誰もが感嘆の声をあげる。

 ツインテールの可愛い女の子が出した結果だ。

 背は低めだけど、緑眼で勝ち気な笑みを浮かべている。

 有名な人なのか、私の近くにいた人たちひそひそと話す。


「ソドル伯爵家の次女、ロリナだったか」

「ああ、かなりのやり手らしい。性格が終わっているという話だけどな」


 ふむふむ、あまり関わりたくはないのだけど……なぜかあちらが私に絡んでくる。


「ふん。残すはあんただけよ! あたしの魔力を超えるとは思えないけどね」


 なるほど、私が8200未満ならば一位通過だもんね。

 けれど残念だったと言わざるを得ない。

 昨日、フィロー様も仰っていたように私には神のご加護がある。

 桁の一つや二つ、なんなら三つくらい違うかもしれない。

 フッと勝ち誇った顔をしてみせると、ロリナがムッと目を釣り上げる。


「その勝ち誇った顔、なんてむかつくの」

「ごめんなさいね。元からこういう顔なんですよ」


 私はそう言って、試験官のところに向かう。

 最後の一人ということもあって注目がすごい。


「これに触って」

「ええ」


 試験官の言うとおり、羊皮紙に触れる。

 数字は見せてもらえない。

 ブッ! と試験官が噴き出す。

 規格外の数字がきたのだろう。


「――1」


 ……ん? 

 シンと水を打ったように静まりかえる校庭。

 最初に口を開いたのは学長だった。


「1とは……なにかの間違いではないのか? 仮にも特待試験に挑む者だぞ」

「いえ、本当に1なんです」


 証明するために試験官は羊皮紙を学長に見せる。

 ガチで1だとわかった学長は絶句していたのだけど、それは私も同じだった。

 1って……恥ずかしいってレベルじゃないって!

 あんなにイキがったのに、ぶっちぎりの最弱だったのだ。

 確かにみんなとは桁が違ったけど……。


「あーはっはっはっは! 1ですって! あんた、魔力1って逆に稀少よ。笑いすぎてお腹痛いっ」


 ロリナがここぞとばかりに馬鹿にしてくる。

 悔しい。

 でも彼女だけじゃなく、参加者全員が爆笑している。

 私は火が出るほど顔が熱くなった。


「キミ、来るところ間違っちゃったねえ。抱かせてくれたら次の試験手伝ってあげようかなぁ」


 絡んでくる参加者がほんとに鬱陶しい。

 次の会場までの移動中、私は散々馬鹿にされた。

 特に魔力が多い上位陣のいじりが酷かった。

 やっと解放されたのは町の外に出てからだった。

 入り口のすぐ近くで、学長から試験の説明がなされる。


「試験は、魔物や薬草などの稀少な素材を持ってくること。価値の高い物を持ってきた五名を合格者とする」


 魔物なら牙や爪や皮など。

 植物、薬草、花、キノコ、価値がつけばなんでも良い。

 ただし、集める場所が参加者によって違う。

 先ほどの魔力試験の結果がここで反映されるようだ。


「1位~10位はリング森、11位~20位はオリソン湖周辺、それ以下はドラゴ山で素材を探してもらう」


 10人近くが一斉に頭を抱えて呻き出す。

 みんな、20位に入れなかった人たちだ。

 終わった……と口にして肩を落としている。

 この反応を見越していたように試験官が言う。


「リタイアも当然受け付けます。こちらへ」

 

 21位以下が一斉にそちらに向かう。


「無理もない。ドラゴ山にはダークドラゴンが棲む。万が一遭遇すれば命はない。その判断は正しい。来年、待っているぞ」


 学長が慰めるように言って、21位以下を全員リタイア扱いにする。


「待ってください。私はリタイアしませんけど……」


 固まったように動きが一瞬止まる人々。

 ロリナがツインテールを跳ねさせながら歩いてくる。


「あんた、頭大丈夫? 魔力1しかないのに山に入ってなにするわけ?」

「薬草とか取ろうかなと思いまして」


 魔物は厳しそうだけど、ここで諦めたくはない。

 聖ロマーリオは卒業後の就職が最高レベルだと聞く。 

 それに在籍しているだけでも色々と優遇される。

 貧乏貴族の家を支えるにしても、絶対に学生になっておきたい。

 それに私を散々馬鹿にした参加者たちを見返してやりたい気持ちも強い。

 ロリナは、ここぞとばかりに見下してくる。


「無理無理無理無理無理無理無理ィィー! あんたがもし素材を持ってこられたら、ここにいる参加者全員で土下座謝罪してあげるわよ! ね?」


 他の参加者たちも同意見のようで下卑た笑みを浮かべながら頷いていた。

 言ったな……!

 絶対に土下座させてやりますとも!


「その代わり、もし無理だったら一生馬鹿にしてあげるわ!」 


 ロリナの高笑いが響き渡る。

 学長はさすがに馬鹿にしないが、真剣な面持ちでリタイアを勧めてくる。


「死んでも誰も責任は取らないよ。無事に帰って来られないかもしれない。来年にかけたらどうかね?」

「いえ、やります!」


 学院に入学してなにか結果を残せば、独り立ちできるかもしれない。

 アレジオの奥さんにならなくて済む道だって模索できる。

 それに全く勝機がないわけじゃない。


「ほとんど誰も入らないってことは、山中にある花や草でも希少ですよね?」

「うむ。一流の冒険者ですらあの山には入らない。山腹にあるものを持ってくれば、それだけで評価は高い。ただし危険を感じたらすぐに戻ってくること」


 私の意志が本物だと理解した学長は渋々許可を出す。

 参加者はだいぶ減ったけれど、試験はすぐに開始された。

 山までの地図ももらえた。

 制限時間は午後7時まで。

 まだ午前10時なので余裕はある。

 ドラゴ山は徒歩で片道4時間以上かかるらしい。

 つまり、普通に歩いては行って帰るだけでギリギリだろう。

 そこで私は自転車の本を取り寄せる。

 未舗装の道でも進みやすく、質の良さそうな自転車を得るためだ。

 決まったので、マウンテンバイクを感謝ポイント約10万と引き換えに手に入れる。

 背に腹は代えられないよね。

 チャリを必死にこいでドラゴ山に到着する。

 途中少し迷ったけれど、二時間ほどで山に到着した。

 麓から慎重に上っていく。

 熊やら猪も怖いけど、それ以上に魔物が危険だ。

 そこで武器を手に入れる。

 

 サバイバルナイフ 4000P

 熊スプレー 8000P

 

 両者とも色々な商品があって、それによってPも違うんだけど、よくわからないので適当なものを選んだ。

 刃渡りは20cmくらいで、私でもそれなりに扱えそう。

 右手にナイフ、左手にスプレーを装備して山を探索していく。

 幸い魔物にも遭遇せずに中腹までたどりついた。

 花やら草やら木のみやら、とにかく袋に入れていく。


「いい感じかも」


 これだけあれば五位以内に入る望みはある。

 安心すると小腹がグーグーと鳴ったので、周囲を確認して木陰で食事の準備をする。

 あまり匂いがするのは獣が寄ってくるかもしれないので、おにぎりを取り寄せる。

 ヘブンイレブンのツナと昆布、あとはタンパク質が取れるサラダにした。

 海苔を噛んだ瞬間のパリッ音が最高!

 つい顔が綻んだ時のことだ、近くになにかが着地した。

 ドシンという重い音がして、私に影が落ちる。

 漆黒の体に、深紅の目をしたドラゴンだった。

 三、四メートルはゆうにある。

 立派な両翼をしまいながら、ドラゴンは私を睥睨する。


『妙な気配がすると思えば、ただの人間か』


 ――死んだ

 私の人生はこれまでだ。

 熊なんて子犬に思えるレベルの迫力と威圧感に気圧され、私は息をするのも忘れる。


『この山が余の住処だと知らなかったか? それとも自殺志願者か?』


 低く重厚感のある声で、言葉を完璧に操るドラゴンには知性を感じる。

 これが噂のダークドラゴンなのだろう。

 今更ながら、みんながリタイアした理由を痛感する。

 私は恐怖で震えるあまり、おにぎりを落としてしまう。

 それが何回か転がり、ダークドラゴンの近くで止まる。


『……フム? おい人間、これは食い物か?』


 私が小刻みに頷くと、ダークドラゴンは三本爪を器用に使っておにぎりを拾い上げる。


『人間の食い物は多少知っているが……これは知らん。なんという?』

「じゃ、ジャパニーズおにぎりです……」


 私は信じられないくらい動揺しているのだろう。

 ジャパニーズおにぎりってなんなの。

 ダークドラゴンは匂いを確認した後、おにぎりを口の中に放り込んだ。

 ドラゴンがおにぎり食べるという最高にファンタジーな光景に、私は頭がショートしてしまう。

 ドラゴンはしばらく黙してから、ようやく口を開く。


『おい、そっちのもよこせ』

「どうぞ!」


 私はすぐに残りのおにぎりと豚肉入りサラダを渡す。

 ドラゴンはそちらもすぐに食べてしまう。

 反応を見るに不味いと感じているわけではなさそう。


『不思議な味だな……。悪くはない。もっとなにか、ないのか? 肉とか。あと余はドラゴンでは珍しく野菜も好きだ』

「ええと、それなら、作りましょうか?」

『ほう。それはいいな』


 弁当を取り寄せることもできるが、どうせなら作りたての温かいご飯がいいかもしれない。

 殺されたくない一心で、私は必死に動き出す。

 ガスコンロやフライパンは元々入手していたので、それを出す。

 あとは野菜や肉や調味料を感謝Pを使って取り寄せる。

 ガスコンロとフライパンを使って野菜炒めを作っていく。

 味付けは、私が美味しいと感じるものにした。

 ドラゴンの感覚とか、わからないしね……。

 恐る恐る野菜炒めを渡す。


『…………美味い、な……』

「お口に合ったようで何よりです」

『おかわり』

「え?」

『余の体を見て、こんなもので済むと思うか』

「作ります!」


 いちいち眼光が鋭くて恐ろしいので、私は大量に仕入れては野菜炒めを作っていく。

 何十回と野菜炒めを作ってはダークドラゴンに渡していく。


『これもいいな! さっきとは味が違って新鮮だ!』


 胡椒にしたり、醤油味にしたり、工夫したのが効果あったようだ。

 二時間ほど作り続けただろうか。

 さすがに腕が痛いし、Pも減ってきた。


「……あの、そろそろ材料がなくて」

『フム。まだ腹は満たされないが仕方あるまい。ご苦労だった。名前を聞いてなかったな』

「リナリーと申します」

『余はアルミラと言う。飯の礼をしよう。なにか欲しいものは?』


 おぉ、このドラゴン意外と話がわかるね!

 私は現在の状況を伝え、試験合格のためにもアルミラの素材を一部でもいいので欲しいと要求する。

 すぐに応えてくれて鱗一枚と牙を根元から折って、私に一本くれた。


「えぇっ、大丈夫なんですか!?」


 私の心配は杞憂に終わる。

 すぐに新しい牙が生えてきたのだ。

 サメ以上の再生能力があるらしい。

 さすがドラゴン、なにもかもが規格外だ。


『それと、その他人行儀な態度はよせ。ドラゴンの世界では餌を多く奢ってもらった時は、そいつとはもう友達だ』


 人間ではあるけれど、私と友達になってくれるということ?


「えっと、じゃあ私とアルミラはもう友達ってことだよね」

『フム、そういうことだ。また会いにこい。こないなら余からいこう。飯の準備は常にしておけよ』


 友達っていうか召使いな気もする!

 それでも、あのダークドラゴンと仲良くできるなんて信じられない。

 もっと話したいけど、試験があるので帰ると伝えると背中に乗せてくれた。


『送ってやろう』


 背中に毛が生えている部分があるので、そこをしっかりと掴む。

 高度があがっていくに連れて感動も高まっていく。

 アルミラはしばらく空の散歩を楽しませてくれた。

 こちらにきて最も感動的な体験だった。


「異世界転生最高~!」


 私の声が大空に吸い込まれていく。

 試験官や受験者たちの集合場所に、アルミラは着陸する。

 集まっていた学長やら生徒やらが腰を抜かしそうになる。


『では、余は帰る』

「送ってくれてありがと~!」


 優雅に飛んでいくアルミラを手を振って見送る。

 それが終わって振り返ると、誰もが大口をあけて驚いていた。

 ロリナが目を激しく瞬かせながら訊いてくる。


「どどどいうことなの!? あんた、あれダークドラゴンじゃないの?」

「そうですよ。山で会って友達になったんです」

「友達って……」

「あ、これが私の集めてきた素材です」


 アルミラの牙やら鱗やらを学長に見せる。


「これが本物なら……いや、本物なのだろう。鑑定などする必要もなく、1位合格だ」


 よし、と私は小さくガッツポーズを取る。

 無事試験も合格となったことだし、私はロリナや他の受験者たちの前に立って、リズム良く手を叩く。


「ど・げ・ざ! はい、ど・げ・ざ! はい、ど・げ・ざ!」


 さんざん私のことを馬鹿にしてくれたもんね。

 約束は守ってもらいますぞ!

 動揺していることもあってか、ロリナ以外の参加者たちは素直に土下座して謝った。

 残るは一人だけ意地を張っているロリナだ。


「どうして、土下座なんてしなくていけないの? そんな約束した覚えはないわ!」

「アルミラ、戻ってきてー! あなたの嫌いな嘘つきがいるよ!」

「申し訳ございませんでしたっ!」


 ビビりまくったロリナはジャンピング土下座を綺麗に決めて謝ってくる。

 恐怖心には勝てなかったみたい。

 もう馬鹿にしないと約束してくれたし全員許してあげよう。

 私は入学に必要な手続きを済ませて、会場を後にした。


  ☆ ☆ ☆ 


 アルミラの鱗や牙は間違いなく高価で売れるのだけど、簡単にそうするわけにもいかない。

 この間みたいにアルミラがいるわけじゃないので、鑑定できるか怪しい。

 仮に売れたとして、かなりの騒ぎになるだろう。

 勿体ないけど、いまは保存だけしておくことにする。

 それはさておき、本日は服屋に足を運んだ。

 学院は制服を着なきゃいけないらしいので、採寸と注文にきたのだ。

 1位通過だったのこともあり、お金は学院側が払ってくれるという。

 貧乏な私としてはありがたい。

 私がダークドラゴンと友達ということも黙っていてくれるらしい。

 もしかすると、密かに私と接点を持ちたいのかもしれない。

 買い物が終わって帰路につくと、家の前でアレジオが待っていた。

 顔を見ただけでわかる。

 かなり不機嫌なご様子。


「リナリー、話がある。町の外にいくよ」


 ほぼ強制と言った感じに外に連れて行かれる。

 なぜ町の外で?

 そんな疑問はすぐに解ける。

 声を張り上げても目立つことがないからだ。


「特待で聖ロマーリオに受かったらしいね。君、本当に見損なったよ!」


 なに言っているか不明ですね。

 婚約者が合格したのだからそこは褒めるべきだし、なんなら謝ってほしいまである。

 あれだけ受からないとか言っていたのだから。

 首をかしげる私に、アレジオは堂々と的外れなことを話す。


「試験官に色目使ったんだ。そうに違いない。じゃなかったら君が受かるはずがないよ!」


 うわ、毎回毎回アレジオって人をドン引きさせるのが上手すぎる。

 ここまで妄想を膨らませる人もそうそういない。

 私が反論しようとした時のことだ。

 二人に大きな影が落ちて辺りが暗くなった。

 何事かと上を見れば、アルミラがゆっくりと地面に足をつける。


『ここにいたかリナリー』

「ヒェッ!?」


 短く悲鳴を上げるのは、もちろん私ではなくてアレジオだ。

 恐怖のあまり腰を抜かし、ガタガタと全身を震わせている。


『ン、なんだこいつは?』


 地面の蟻を見るかのように、アルミラは冷たい視線をアレジオに向けた。

 これがトドメとなった。

 アレジオの股間の辺りが徐々に濡れ出す。


『汚い奴め。余は貴様などに興味はない。死にたくなければ五秒以内に去れ』

「はいいい……!」


 引きつった顔で、アレジオは必死に逃げていく。

 私のことなんて、全く気にもしていなかった。


「いやー、情けないけど、あれでも私の婚約者なんだよね……」


 なるべく早く婚約破棄したいけれど、契約が厳しくて難易度は高い。

 じっくりと取り組むしかないだろう。


『あんな下等生物と婚約だと?』

「不本意婚約ってやつなのよ」

『……よくわからんが、余は腹が減ってしょうがない。素材はあるんだろうな』

「準備はしておいたから安心して」


 そう言って、私はすぐに料理にかかる。

 涎を垂らしながら待つアルミラも、よく見ればなんか可愛い。

 それにしても外にいるタイミングで良かった。

 町中にこられたら人々が軽くパニックになっていたかもしれない。

 料理をしていると、私はいいことを思いついた。


「今度、魔物の素材って持ってこられる? それを売って材料を買ったりもできるし」

『お安いご用というやつだ』


 もしかしたらアルミラに協力してもらったら、結構簡単にお金持ちになれるのでは?

 そんな妄想をすると、私の鍋を振る手にも気合いが入るのだった。



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― 新着の感想 ―
主人公の性格が大好き! 土下座煽り、最高でした! やり返しがないとの感想が多いですが、主人公自身はモラハラ効いてないし、主人公の体の死因は病気だし、天国に行ってるし、こんなものでは?と思いました。 …
恋愛要素なし、婚約者へのざまぁなし 長期連載の1話目を単話で出したみたいな すっきりのしなさなので注意
面白かった! けど、まだ序章だよね?お話として全く完結してないと思うんですけど~ 続き楽しみにしてますね。  
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