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二十歳前後の痩せた女性。
血まみれのナイフを、自分で掘った穴の中に落とした彼女は、絶命したおれをナイフが有る場所へ両手で転がした。
泣きながら、彼女は何度も「ごめんなさい」と口にしている。
おれの骸の側には、金色をしたコンタクトレンズが投げ入れられた。彼女は、おれを殺した後で、外れたコンタクトレンズを見て、おれが『異端者』では無い事に気づいたのだろう。
女性によって、おれの体に土が掛けられていく。
地面に置かれた彼女のカバンに入っていた携帯電話が鳴る。
「はい。満月です」
携帯電話を手に取り、返事を返していた彼女は、小さな声で「そうですか。すぐ向かいます」と発し、電話を切った。
「吉平……」
彼女は呟いた後、俯き、地面に有るカバンを乱暴に持ち上げようとして、、何かを落とした。
落とし物に気づかない彼女は、上半身に土の掛かっていない、おれを見た。
彼女が、おれの骸に土を掛けた事で、おれの視界は途切れた。
土の中に埋もれた自分には、もう音しか聞こえなかったけれど、彼女は山を下りて行ったようだった。