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母は、前世のおれの骸が眠る場所で、膝をついていた。
繰り返されるのは、「樹、ごめんね」という言葉。
母にとっては、前世のおれも、今のおれも変わらないのかもしれない。
一歩、足を踏み出した時、靴に触れた雑草が音を立てた。
こちらを見た母に「母さんのせいじゃない」と伝える。
「悪いのは、『異端者』のふりをして出歩いていた、おれなんだ。前世の母さんは、それに騙された。おれから見れば被害者みたいなものだ。おれは、あの日、殺されるために家を出たんだから」
おれが、どうして死にたかったのか、どうして『異端者』のふりをしていたのかを説明すると、母さんは首を横に振った。
「樹の命を奪ったのは私。あなたに、どんな理由が有ったとしても、私のせいじゃないなんて事無い」
前世のおれが埋められた場所に向き直ると、母さんは「前世の私が、あなたにした事、全部覚えてる」と口にした。
「私には、あなたの家族で居る資格なんて無いの。私なんか……」
「……死んだ方がいいって気持ち、良く分かるよ」
おれの方を母が見た。
ずっと伝えたかった事を、伝えるなら今だと思った。
「役立たずだと家族に言われてた、おれが死んだ時、泣いてくれたのは、あなただけだった。あなたが殺してくれた事、おれは感謝してる。あなたという家族に出会えたから」
前世で、家族から要らないものとして扱われていたおれに、あたたかい家庭をくれたのは、母。
母に出会わせてくれたのは、前世のおれを殺してくれた人。だから、ずっと、その人にお礼が言いたかった。
「おれは、あなたの子どもに生まれて良かった」
母に一番、伝えたかった事を伝えた時、母の目から涙が溢れた。