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兄の作戦



 進級試験一日目の夜、ユーベルは騎士団の魔獣を監視する業務を放り出して寮の方へと向かっていた。


 情けない事に結局ユーベルは長期休暇中に兄の思惑を聞き出すことが出来なかった。


 それを聞けるまでは騎士団の方へと戻らないつもりだったが両親に諭され仕方なく戻ることにした。


 ブルースの方は進級試験までに父が根性を叩き直すなどと言っていたがそれも信用ならない。


 しかし、ブルースがどんなことをやらかすのかと気をもんでいるうちにユーベルには幸運なことに、ダメもとで志願していた魔法学園での進級試験の業務へと参加することがゆるされた。


 身内に生徒がいる人間が選ばれることが多いと聞いていたので、まさかとは思っていたがこれはもう女神さまの思し召しと思うほかないだろう。


 そんな風に考えてユーベルはブルースに試験に使われる魔獣の情報と引き換えにフィリス様への兄の行動を聞き出すことにした。


 時間もないので仕事中に抜け出すことになってしまったが、それも仕方がないだろう。試験も終えて大体の人間が就寝の仕度を始めるころ、ユーベルはブルースとの約束である寮の裏口側に回って兄を探した。


 するとそこにはブルース以外にも兄の友人であるチャーリーがおり、ブルースはユーベルの到着に嬉しそうに言った。


「ほらな、だから言ったろ? チャーリー、家族も俺に協力的なんだ。お前は俺に従ってればいい」

「……でも、うまくやったとしてももう、何もかも元通りにはなんねーっていうか……」

「ユーベル、お前、遅すぎだろ! もっと早く来い」

「……すみません」


 友人の前で如何に自分が家族の中で優位な存在かを示すために、ブルースは大きな態度をとってユーベルに言った。


 ユーベルはここで機嫌を損ねるわけにもいかないので一応謝りつつ、試験の魔獣についての情報を乗せている紙を手元にだして彼らを見据えた。


「これがそうですけど。兄上、いい加減、ここまで協力しているんだから教えてくれてもいいじゃないですか」


 何をするつもりなのか教えてもらうまでは決して情報を渡すつもりはないと、決意をしつつ聞いた。


「だから、その時になればどうせわかるんだからいいだろ」

「なぁ、ブルース。俺はこれ以上、手を出さない方がよくねってやっぱ思ってるっていうか……」

「うるさいぞ! チャーリーこれで全部うまくいくんだから文句言うな。お前だってフィリスがむかつくだろ」

「……」


 ブルースに言われてチャーリーは無言になる。彼はフィリス様に手を出すとどういう風になるのか、理解しているような気がした。


 しかし、こうして友人が否定的だというのはいい事だろう。


 ユーベルは、ブルースがこんな風に横暴にふるまっていても小心者だと知っている、不安になっているに違いない。


 そこにつけこむように言葉を紡いだ。


「その作戦、聞かせてくださいよ。私は騎士団でのフィリス様を知ってるんです。兄上のお役に立てると思いますよ」

「……だがな、情報を漏らされては……」

「私が今までそんなことをしましたか?」


 畳みかけるように聞くとブルースは考え込んで、それから「それもそうだな」と悪い笑みを浮かべた。


「チャーリーお前は先に行ってろ、手はず通りにやれよ!」

「……わかった」


 去っていく彼は裏口の方から寮へと戻っていく。


 彼が去った後にブルースはしたり顔で作戦を口にした。


 その作戦は元から軽蔑していた兄をさらに軽蔑するような最低な行為であり、今日この日まで学園に戻らなかったことも作戦のうちらしかった。


 止めるにしてもすでにチャーリーが彼女の元へと向かってしまっている。結局明かされることがなかったフィリス様の弱点を残したままブルースは去っていく。


 どう考えてもまずい状況に、このまま兄を消し去ってしまおうかと背後から剣を構えた。

 

 しかし、ここでブルースを切ったからと言って、フィリス様の安全が保障されるわけでもないし、襲おうとした証拠があるわけでもない。


 現場を押さえるしかないけれど人の溢れる寮内に侵入してもフィリス様の部屋がどこにあるのかもわからない以上はそれも難しい。


 せめて自分がもう少し立場のある人間だったら行動も変わっただろうと思う。しかしそれが両方できそうな人間がふと思い浮かんだ。彼ならば纏めて何とかしてくれるだろう。


 こんなリスクしかない間抜けな作戦でもフィリス様を守るために信じてくれるかもしれない。


 思いついてからユーベルはすぐに騎士団の宿の方へと戻る。自分の無力を恥じながら、まだ兄たちが行動を起こさない事を願ってただひた走った。





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