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進級試験の日




 進級試験はすぐにやってきた。この試験の期間は教師も忙しく練習場では入れ替わり立ち代わり生徒の試験を行っているので、学園内は忙しくなる。


 それに一般の人間も試験の内容を観戦することが出来る。


 生徒の家族が自分の子供の成長を見るために観戦に来ている場合も多いし、新しく魔法使いになる使える若手を探すために魔法使いを雇っている貴族なども見学に来ている。


 こうして貴族が多く集まるとトラブルになることも多いのだが、騎士団がにらみを聞かせているので下手なことは起きない。


 一週間ほど続く試験期間だが、実はこの試験のための魔獣を捕まえる業務に騎士団と参加していたためフィリスはパスである。


 なので割と暇である。ということで二日目に試験を控えているジゼルと共に練習場のそばにある騎士団の宿の方へと訪れていた。


 試験期間中に毎年、騎士団が訪れることになっているので、そのための小さな宿が用意されているのだ。


 そこに長期休暇以来会えていなかったカイルがいるはずなので、フィリスは初日の今日会いに行こうと考えていた。


 しかしジゼルに話すと、明日が試験の為、魔力を温存するために何もできない彼女は緊張で休めもしないので連れて行って欲しいとのことだった。


 練習場の裏手に回る道を二人で歩く、ジゼルはいつもの通りジェラルドを手に抱えていて、もはや彼といない時間が珍しいほどなのだ。


「フィ、フィリスの婚約者様はどんな人なの?」


 こうして一緒にいても緊張している様子で特に話もしていなかったが、宿が近くなってきたときにジゼルはハッと思いだしたように聞いてきた。


 会いに行くとは言ったが、そういえばカイルの事について話をしたことは無かった。関係性に悩んでいた時も、したのはおもにフィリスの話だったのでジゼルには想像がつかないだろう。


 そう考えてせっかく会いに行くのだから、カイルの事を好意的に思って欲しくてフィリスは彼の事を考えた。


 前回会った時にはフィリスとカイルの間にはいろいろあったけど、カイルは終始優しくて、大人で、彼といると安心する。


 恥ずかしいけれどやっぱり好きで、会うと胸が苦しくなるがフィリスもそれを乗り越えていきたいと思っているのだ。


「……そうだね。私の婚約者はカイルって言って、優しくて大人で余裕があって色々なところで私の為に調整をしてくれる頼れる人なんだ」

「な、なるほど。カイル様ってフィ、フィリスに合わせてくれる感じの人なんだ」

『あいつそんな感じか~? ジゼルに嘘ついてんじゃねーぞ!』

「? 嘘じゃないよ、ジェラルドは魔獣だから怖く見えてるだけだよ」

「魔、魔獣には、厳しい方なの?」

「ちょっとだけだから、大丈夫! 優しい人だから……ついたね」


 宿が見えたころから話し始めただけあって少し会話をしている間に到着した。


 ドアノッカーを鳴らすと中から騎士たちの世話をするための使用人が出てきてフィリスに頭を下げた。


 前日に伝えてあっただけあり、すぐに中へと通されて、カイルが与えられている部屋へと向かう。


 途中忙しなく廊下を走っている騎士見習の少年がおり、なんだかどこかで見覚えがあるような顔をしていたがフィリスに深く頭を下げて軽やかに去っていった。


「ああ、あんなに若い騎士の子もいるの? け、剣を使うのって大変なのにすごい」

「騎士になるために見習いとして入った人だと思う。でもたしかに騎士団の本部以外で見習いの人が働いているのを見るのって割と少ないよね」

「う、うん。しし、式典とはか強面の強そうな騎士様しかいないか、から、いつもちょっと怖いけどっ、あ、でも大丈夫、カイル様はや、優しげな人なんだもんね」


 ジゼルはフィリスの婚約者を怖がったりしないつもりだと示すようにぎごちないながらも笑みを浮かべた。


 ……あれ、優しげっていうか優しいけどカイルは強面かも。


「カイル副団長。聖女フィリス様とご友人の方をお連れいたしました」


 使用人が丁寧に言うと、待っていたとばかりに扉はすぐに開いて、カイルはすぐに出てきた。もしかしたら心待ちにしてくれていたのかもしれない。


「待ってたぞ、フィリス。それからフィリスの友人の……ああ、ジゼル嬢だろう。話はかねがね聞いている、よく来てくれたな」


 カイルは相変わらず笑みを浮かべないままの表情で出てきて、フィリスたちを見てそう口にする。


 フィリスは優しげだといったが、これではジェラルドの言った通りにそうは見えないかもしれない。


 フィリスの父フェルマンからの教えで決して舐められないようにしているというのもあるし、本人も普段からあまり笑う方ではない。


 しかしそれでも嬉しそうにしてくれているというのはフィリスにはわかるのだが、ジゼルは突然出てきた大男に自分の名前を呼ばれて文字通り飛び上がって驚いた。


「ははっはははっ、はじめまひて! じじっじ、ジゼル・ルコックともも、申しまましゅっ」


 そのまま勢いよくどもったり噛んだりしながらジゼルは自己紹介したが、カイルはその様子に驚いた様子で、しばらく考えた後にすこし部屋の中に戻ってから少し恥ずかしそうに言った。


「すまない、久方ぶりに会えるということで年甲斐もなく浮ついてしまっていたようだ。入ってきてくれお茶を準備しよう」

「はははっはひっ」

『緊張しすぎだろ~! ジゼル!』


 呆れたように言うジェラルドは、そんな態度ながらもジゼルの手をぺろぺろと舐めて無害な小型犬らしくあほっぽい顔をした。


 しかしそんなジェラルドをカイルはやはり好意的には思えない様子で視線を移して鋭くした。


 その瞳を見てジゼルはジェラルドを守るようにぎゅうっと抱きしめてジェラルドはぐえっと声をあげて潰れる。


「じぇじぇじぇ、ジェリーはいい子、なななのでっ殺さないで!!」

「あ、いや、なにも問答無用で殺したりしないが、本当に懐いているのかと気になってしまってな」

「なななっ、懐いてます、ちゃちゃちゃんっといい子ですから!」

「副団長! ちょっといいですか、魔獣の監視の件で話が」


 カイルが何とかジゼルを落ち着かせようと言葉を選んで返したが、すぐ後ろにカイルの同期でフィリスも面識のある騎士リオネルが登場し「びゃあっ!」と声をあげてジゼルは部屋の中に転がり込んで、大男二人を交互に見た。


 あまり騎士団とかかわりのない女の子からすると大きな大人の男が剣を携えて同じ空間にいるというのは恐ろしいだろうし、なにより話題がよろしくない。


 ジェラルドを溺愛しているジゼルは、ジェラルドを傷つけられるかもしれないと思ったらパニックにもなる。


 フィリスが前段階で油断させていたのも原因だろう。


 とにかく、これ以上拗れる前に一旦、ジゼルを落ち着けよう。


 彼女のそばに寄ってフィリスは騎士二人……おもに空気を読まずに登場したリオネルに伝わるようにぐっと眉間にしわを寄せて杖を構えた。


「あ、フィリス様だ、って、俺何かしました? 副団長」

「……はぁ……いいから君も部屋に入れ話は後だ」

「はーい」


 そんな会話があってフィリスたちは四人と一匹でお茶会をすることになったのだった。






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