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傍観者




 話が終わると、へらへらと軽薄な笑みを浮かべた男がフィリスたちに近づいてきた。


 彼は、如何にも世の中の何もかもを真面目に考えてはいませんというような顔つきをしている男であり、友人関係も悪く、クラスメイトから距離を置かれている人物だ。


「さーすが! 聖女様じゃん、だてに国を守って戦ってないってことっすか?」


 驚くことに声をかけてきた彼は、フィリスが視線をあげるとやはり軽薄そうな笑みを深めた。


 ……チャーリー。


 彼はブルースの大の友人である。しかし今は、どういう関係なのか正直分からない。ブルースは今のところ学園には戻ってきていないが、退学したわけではないらしい。


 なので長い事欠席している扱いになっていて、ダイアナの友人だった二人もそれぞれ、クラスになじめない事によって退学していき、フィリスとジゼルをいじめていたグループの中で今残っているのは彼ぐらいだ。


 そう考えるとチャーリーはとてもタフな男なのかもしれない。


 フィリスが話しかけられたことにより、レアもドミニクのそれからさてそろそろ帰ろうかと考えていたクラスメイト達も少し警戒するような雰囲気になる。


 しかし、フィリスは話しかけられたからには無視するわけにはいかない……というか反射的に応答していた。


「それほどの事なんて言ってないし、それほど大きな声で話をしていたわけでもないと思うんだけど」

「いやいや、クラスの皆、なんだかんだ言って試験対策になるかもって思って聞いてたから!」

「……それは、チャーリーの憶測でしょ」


 どういう会話をするのが正解かわからずにフィリスは、困った顔のままチャーリーに思ったことをそのまま返した。


 すると、彼は少し驚いた顔をして想像していなかった返答だったのか少しぎこちなく笑みを見せながらもフィリスに言った。


「いや……ははっ、やっぱ、ノリ悪る」


 つぶやくように発された言葉は一番近くにいたフィリスにだけしか聞こえていない様子で、誰も反応しない。


 ……そんなこと言われても……ノリて言ってもあなた一人しかいないのに乗っかってどうしろと?


 集団で囲まれた時には恐ろしかった言葉も、一人になると一段と意力が下がるものだ。


 無理にノリを合わせたいとも思わない。


「ま、いいや。……そんなことないって! だってホントはあんた達も聖女様の魔獣対策聞きたいと思ってるっしょ?!」


 呟いた言葉をなかったことにするように彼は大きな声で周りのクラスメイト達へと視線を向けた。


 どう考えても無理がある話題の振り方にフィリスは困惑していた。


 クラスメイト達の表情もどこか固くて、急にいじめをしていたチャーリーがフィリスに接触している事にも突然振られた話題にもすぐに反応は返ってこなかった。


 しかし、それでもクラスメイトのうちの一人が申し訳なさそうにフィリスに視線を向けて「そりゃ聞きたいけど……」と小さく言った。


 その言葉にすぐにチャーリーは反応して笑みを浮かべてフィリスを見た。


「ほらな! 俺も聖女様に対して態度悪かったけど改めようとおもっててさぁ!」

「……」

「謝るから、この通り!フィリス様に対する侮辱を見て見ぬふりしてたのは皆同じだから、引け目があってお願いできなかったんだ!」


 そういいつつもチャーリーは何故だかクラスの代表のような顔をしてフィリスに気軽に謝って続けて言う。


「せっかく入学したからにはできるだけ進級もしたいし、後悔してるんだって、頼むよ! 聖女様、ここは慈悲をさ!」


 気軽に言ってくる彼は置いておいて問題はクラスメイト達の事だ。本当に見て見ぬふりをしていたからと言って負い目を感じているのならばあまりにも申し訳ない。


 ブルースとダイアナとの関係性については、フィリスにも悪い所があった。彼らに対する……普通の子供に対する尊敬と憧れがあったのだ。だから底抜けに合わせようとしてしまった。


 そうして彼らに対してフィリスが好意を示している以上は、いじめではなかったと思うし、それを見て見ぬふりをされて助けてもらえなかっただなんて思っていない。


 しかし、チャーリーの言葉にクラスメイト達はましてやドミニクとレアまで、申し訳なさそうに俯いてしまった。


 そんな風に思って欲しいわけじゃない。


「……わ、私は、全然、むしろこのクラスの調和を乱すというか、面倒を引き起こしてしまって、それでも普通に接してくれて、すごく……嬉しいし、役に立てることなら、出来る範囲で……やりたいと思う」

「うわっ! マジ? じゃあ、さっきの話もっと詳しく聞かせてくれよ! アンタらも聞きたいだろっ?」


 チャーリーは何の遠慮もなくそう言ってフィリスのそばまで来て机に手をついた。正直今の言葉の中にチャーリーは含まれていないのだけど。


 それでも彼をきっかけにクラスメイト達は申し訳なさそうにフィリスに声を変えた。


「都合いいときばかり頼ってごめんなさい!」

「黙って見ているだけですみませんでした」

「私たちもフィリス様とお話してみたかった」


 と口々に言いながらやってくる。いつの間にか机の周りには人だかりができていてなんだか人気者にでもなったような気分だ。


「気にしないで、それより私に話せることなら、これからも何でも聞いて」

「わはっ、流石聖女様、気前よくね!」


 クラスメイトと和解できるのはうれしいが、チャーリーが合いの手のように言葉をはさんで、なんだか皆、少し微妙な顔をするけれど、それでも試験前の忙しい時期ということもあって切羽詰まったような様子で、クラスメイト達は魔獣の事について聞いてくる。


 それにフィリスは、やっとこれで教室で浮くこともなく無くなりそうだと思いつつも、できるかぎり試験の魔獣についての対抗策をクラスメイト達と考えるのだった。




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