久々の友人
長期休暇を終えて学園にもどるとなんだかとても懐かしく感じて、寮の部屋がとても落ち着くような気がした。
翌日のはじめての登校日にフィリスは戻ってきて初めてジゼルに会った。彼女は長い前髪を横によけるようにしてピンでとめていて、なんだか少しだけたくましくなったような気がする。
「お、おはよう! フィリス」
「おはよう、ジゼル。久しぶり」
胸に抱かれているジェラルドは長期休暇が始まる前よりも毛がふさふさしていて、いつものような間抜けな顔をしてへっへっへと口を開けてフィリスを見た。
『なんかいい事でもあったか~? 顔がにやけてるぞ!』
おもむろに聞かれて、キョトンとする。そんなつもりはなかったので口元に手を当てて確認してみた。
「そそ、そうだね。なんだかスッキリ? してるように見えるかも」
『ま、そんなことはど~でもいいから、さっさと魔力よこせってんだ!』
「あ、ジェリーまって、実家にいるときに約束したでしょ。魔力は私がフィリスにお願いして量とタイミングを決めるから」
『めんどくせぇな!』
「大事な事なんだよ」
……スッキリ? はたしかにしてるかな、お母さまとの関係も良くなったし……。
それに自覚なくにやけていたのは、多分久しぶりに友人に会えるからだ。
自分自身あまり楽しみにしていたという自覚は無かったけれど、いざ会ってみると二人のやり取りを見るのがどうにも嬉しい。
しかし、こんな風に浸っている場合ではないだろう。ジゼルとジェラルドの魔力の問題はフィリスにとっても重要なことだ。
隣に座ったジゼルはいつものように机にジェラルドを置いた。
「私は別に魔力は多い方だからいくらでもあげられるよ」
彼女たちを見ながらフィリスが言うと、ジゼルは少し驚いた顔をして、ジェラルドは『だから言っただろ~、底なしなんだ!』と犬のくせにしたり顔でジゼルに言った。
そんなジェラルドにジゼルは頬をふくらませて怒ってから人差し指を立ててジェラルドの口元に充てる。
すると彼は途端に黙ってそのままきょろりとフィリスを見た。
「そ、そうはいってもフィリス。やっぱりやり取りをする以上は働きと報酬は明確にしないといけないと思うの!」
「……??」
ジゼルは、フィリスにも真剣な表情を向けて、そんな風に言う。
「は、始めは絆を作ることが重要でお互いに認め合う為にコミュニッケーションを大事にするけど、やっていい事と悪い事を決めるためには、わかりやすい基準がないと駄目だよ」
「??」
「だ、だからね、魔力っていうのは魔獣にとってとてもおいしいごはんみたいなもので、良い事をしたら多く、悪い事をしたら最低限、そうして理解しやすい人間でいう所の善悪みたいな基準を作っていかないと、使役するのは大変なんだ」
「…………なるほど?」
心底真面目にフィリスに魔獣の事をとくジゼルだったが、フィリスはよくわからないままなるほどといった。
なんとなくジゼルは動物に対してあまあまなだけなのだと思っていたが、必要な躾があるらしい。
「それを人間が勝手に決めているんだから、に、人間がきちんと混乱させないように常に正しく与えていかないといけないよね、だから、もしよければ魔石に魔力を込めてくれると嬉しい」
ジェラルドは所詮は獣なのでそんな面倒くさいことをわざわざ毎日考えてやるのはごめんだと思うし、結局心の奥底では人間を食べようと思っている気持ちは変わらないのだからやる気もない。
しかしジゼルはその面倒なことをやろうとしているらしく、フィリスの魔力もジゼルがそのために有効に利用するらしい。
それはそれでいいし、言われれば魔石にでもなんでも魔力は込めるが、こんなにはっきりジゼルが主張をできるようになるだなんて長期休暇中に彼女も何かあったのだろうか。
「わ、わかった。……放課後にでも適当に街に行って魔石を買いに行こうか?」
「! ……う、うん。お出かけだね」
「そうだね。ところでジゼルも随分……その、強くなった? っていうか……どんな長期休暇だった?」
なんとなくあまり指摘しすぎても良くないかと思い、フィリスは彼女にふんわりと長期休暇の話を聞いた。
するとフィリスの言葉にジゼルは苦笑しながら、ジェラルドを撫でて「そ、それはもう、いろいろ!」と口にする。
それからフィリスたちは二人と一匹で、どんなお休みだったかを報告し合うのだった。