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被害妄想だったと? 4



 そんなことでは、ブライトウェルの名に恥じない人生は送れない。


 だからこそ、ここは耐え忍んで、彼らの評価を変えるために戦うべきなのかもしれない。


「ね。こんなに言ってあげてるんだから、早く戻ろうよ。フィリス。あんたがちょっと馬鹿でも、私は見捨てないであげるから」

「被害妄想も大概にして、前に進めよ。フィリス、逃げても何も変わらないだろ」


 ……被害妄想。何もかも、全部私はそもそも、あんな風に言われて当然で、彼らはまったく悪くない。今までも……これからも……?


 そう考えるとふつふつと怒りがわいてきた。


 フィリスは小さな震え声で言った。


「何もかも、私の被害妄想だった……と?」


 苦しくてたまらない、涙がまた出そうになって俯きそうになる。しかし、隣にいたカイルがフィリスの頭をボスボスと撫でた。


 驚いて視線をあげると、彼はフィリスの方を見ていなくて、ブルースとダイアナを厳しく見つめていた。


 その目は騎士として仕事をしている時同様にギラギラとした光を纏っており、フィリスでもぞくりとするほど恐ろしいものだった。


「フィリスの言う事を聞いて黙ってれば、散々言ってくれたな」


 地を這うような低い声で彼が怒っているのだとわかる。


 普段からニコリともしないし、感情を表に出さないので意外なこともあるものだと思う。


「っ」


 今まで黙っていたので、まったくカイルを気にしていなかった二人は、突然の彼の声に驚いて視線をすぐに向ける。


 驚いている様子だったが、フィリスを詰っていた要領でブルースが勢いづいてそのままカイルに言う。


「い、いや、フィリスの兄上殿は、関係ないだろ」


 ぎこちない言葉だったが、たしかにその通りだと思ってカイルを見ると、彼は、攻撃対象を定めたようで鋭い瞳をブルースに向けた。


「そもそも、敬意が足りなさすぎるだろ。君、ブルースとか言ったな。跡取り息子らしいがこんなに世間知らずのお坊ちゃまだとは呆れた」

「な……なんだと」

「聖女が何たるかも知らずに、こき下ろして、君たちこそ一度も本当の戦闘に参加したこともない癖に何を偉そうに言ってるんだ」


 ……カイル。


 彼はフィリスの為に怒ってくれている、その気持ちがうれしい。


 しかし、フィリスだってそういったことを彼らに言った事はあった。それでも態度は変わらなかったし、ダイアナには偉そうなことを言うなと言われてしまったのだ。


 ……だから、説得しようとしても……。


 フィリスはうれしいので無駄ではないが、彼らには伝わらない、。きっとあれこれと理屈をこねて自分に正当性があるのだと主張してくるに違いない。


 そう思ってブルースの反応をみる。


 しかし彼は、言葉に詰まって、しばらく考えてからやっと口を開く。


 いつもならすぐに言い返すダイアナも今だけは静かで、口を開かなかった。


「お、俺らまだ、学生なのに知ってるわけ、ないじゃないっすか」


 ブルースが気弱に反論した。それにすぐさまカイルは返す。


「知らないなら、身を粉にして国を守っている人間に敬意を払え! 自分の無知を自覚して謹んで生活をすべきだろ」

「え、えらそうに。こいつが、そんな大それたことできるわけ━━━━」

「偉そうにだと? 少なくとも安全な国の中でのうのうと毎日勉学に励むことを許されて労働もせずに、聖女を捕まえて常識が云々と講釈を垂れる君らよりも自分はよっぽど重要な立場にいる」

「っ、」

「そちらの君も、何故、フィリスに施しを与える側のようなつもりでいるのか意味が分からない。たしかに勉学に励む時間がほかの同じ年の子供よりも少ないかもしれないが、どうしてそれだけをみて他人よりも劣っていると判断する」


 黙り込んだブルースから視線を外して、カイルはダイアナにも同じように高圧的に指摘した。


 魔法学園の教師でもこれほど強く言う人はいないので、彼らもたじろいでいる様子だった。


「フィリスは君らよりよほど優秀で、君らよりも重い役目を背負っているだけだ。決して劣ってなどいない。友人として接するならばいいが、その幼い自尊心を慰めるために立場の違う人間を引きずり込んで貶めるな」

「……」


 カイルの言葉にダイアナは黙り込んだままだったが、睨みつけるように彼を見て、すぐさまカイルに「言いたいことがあるなら言え」と言われて視線を逸らした。


 あっという間に彼らはすっかり黙ってしまって、フィリスはどうして自分が懇切丁寧に話をしたときと違っているのだろうと思う。


 カイルほどにきつい言い方をしたわけではないが、それでもきちんと言ったのだ。


 けれども茶化されたり馬鹿にされたりしてまともに取り合ってもらえなかった。


 それなのに今日ばかりは違う。彼らはまた、カイルに反論しろよとお互いに発言権を押し付け合っていた。


 そのうちにダイアナが吐き捨てるように言った。


「不利になるって思ったからって怖そうな人連れてくるとか卑怯でしょ……」

「卑怯なわけないだろ。君らこそなんだ、二人してフィリスを貶めて、婚約まで引き合いに出してたな。同じ年頃の子供同士から見てフィリスがどう映ってるか知らないが、フィリスと結婚したいと思ってる人間なんて山ほどいる」

「いや、いないし。皆、フィリスはむかつくって言ってるし」

「それは、君の周りの仲間内での皆だろ。国に貴族がどれほどいると思ってるんだ。騎士見習いの奴らなら全員、フィリスの婚約破棄を聞いたら自分がと手をあげる」

「妹贔屓とか……キツいんだけど」

「黙れ。それにフィリスが望めば公爵の地位だって手に入る。そもそも君らとは身分も格も違うんだ。ダイアナとブルースといったな、この件は騎士団の中で共有させてもらおう。君らの領地に魔獣が出た時が運の尽きだと思え」


 カイルはダイアナの言葉を一蹴して厳しく言い放ち、騎士団までも引き合いに出して彼らに脅しをかけた。


 カイルは騎士団長の地位を継ぐ人間だ。今もそれなりの地位にいる。


 そんな彼がいえば騎士団は思いのままに動く。しかしそれではブルースとダイアナの問題なのに彼らの家族を巻き込むことになってしまう。


 そんなことをしていいのだろうか。


 フィリスは、難しい気持ちになった。しかし、カイルを止めるつもりもない。


 ダイアナが言っていた怖い人という言葉を聞いてようやくわかったのだ。


 彼らはただカイルの外見が恐ろしいから、話も聞くし反論もしないし、ふざけた態度も取らない。


 所詮は外見だけで判断して強そうな人には従って自分よりも下だと思う人間の言葉は聞かない弱い人間なのだ。


 そう考えれば彼らのことをフィリスは途端にしょうもなく思えた。


「話は以上だ、帰れ。実家に帰って自分のやったことを話して素直に謝罪をするんだな。少しは、自分たちの小さな価値観でなく周りの大人からの他人と自分の評価を感じればいい」


 学園という小さな世界では彼らは絶対的な存在に思えたのに、今ここにいるのは大人に怒られて不服そうにしているただの二人の子供だ。

 

 彼らはフィリスに視線を向けてそれから「あんたなんかもう知らないッ」と捨て台詞を言って去っていく。





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