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限界突破 2





 様々なものが飛び散って、ブランシェール伯爵夫人もダーナも驚いて目を見開いていた。


 騙される方も確かに悪い。しかし、あんな風に同じ価値観の人間が山ほどいて同じようにずっとお茶会ばかりしていたのならば、妄信的にもなるし、人間は誰しも心が歪んでいるときがある。


 そんな人間をこんな話で食い物にする人間がいていいのだろうか。


 というか、こんなもの普段の母だったら絶対に信じなかった。つけこんで、それらしいことばかり言って。


 ……バカにするのも大概にしてほしい。


「っ、バカにして……お母さまをバカにして!!」


 フィリスは気がついたら謎に怒っていた。


 そして怒鳴りつけていた。


 お茶会に杖を持っていくのは駄目だと言われて置いてきたので拳を握って感情を抑えようとしたが、ガツンと音を立てて岩石がブランシェール伯爵夫人の方へと飛んでいった。


 普段はあまり感情的になる方ではないのに、なんだか我慢が利かなかった。


「何が、魔力が滞ってる! 魔獣の魂がだ!! 適当なことを言って騙せるからってそんなのって侮辱してる!! 」

「な、なんなの、この子」

「まともに口論するのすらバカバカしいッ!! たしかに素直に言う事を聞いてしまう方も悪いかもしれないッ!! でも騙していいわけがないでしょ!!」


 ここ半月、素直で弱っている夫人や令嬢たちと出会ってきたフィリスの怒りは爆発してしまって、地表から大きな棘のような岩がいくつも飛び出して、たくさんの悲鳴が聞こえてきた。


 怒鳴りながらフィリスは堪えられずに泣いてしまって、フィリスはジゼルと割と似た者同士だと思いながらも続けていった。


「適当言って騙せるからってくだらない事ばかり口にして!! お母さまはたしかに今は弱っているけど立派で、優しくて、私にとって唯一のお母さまなの!!」


 口にできなかった恥ずかしい言葉も勢いに任せてしまえばどんどんと言うことが出来たが、ブランシェール伯爵夫人にそんな主張をしても意味はないが止まらなかった。


「他の人たちだってきっとそう!! 搾取されていい人間なんていない!! 困っていて、助けが必要で、悩んでいる人間に付け込む人間なんて私は大っ嫌い!! 私のお母さまを馬鹿にしないでよ!! 帰ってきたらきちんと話し合いをしてお母さまが寂しくないように、するつもりだったのに!!」


 声を大にして言うフィリスは駄々をこねている子供とそう変わらなかった。見苦しいので一旦、逃げ帰りたかったのだが、ここでそうしては母がまた騙されるだけだ。


 そんなわけにいかない、守らなけば。


 ここ半月ずっと一緒にいてみて、フィリスは母の望みを正しく理解して知ることが出来た。


 母が魔素パワーに願っていることは、父がフィリスに望んでいたのとは真逆のことだ。フィリスも良く知っている願い。しかし女の子らしい子になってほしいというよりも少しだけ違う。


 母はただ、同じ立場の人間が欲しかったのだ。


「私はお母さまの期待には応えてあげられない!! だから出来ることを探していたのに!! 悲しんでいる人間に自分の欲望を向けてつけこんで!! 人として恥ずかしいことだとは思わないの!!」


 すでにブランシェール伯爵夫人はフィリスの前にいなかった。彼女はフィリスからの縦横無尽な攻撃に怯えて後ずさり後ろの壁まで逃げていた。


 母はフィリスに女の子らしくあってほしいのではない。


 ただ、母は”フィリス”ではなく自分の子供が可愛い女の子であって、同じ貴族の普通の令嬢として育って、当たり前にお茶会を楽しみにして、当たり前に嫁に行く普通の子育てと親子関係が欲しかったのだ。


 フィリスがお茶会で会ったのはそういう親子ばかりだった。


 たしかにとても素敵だ。


 フィリスだってなれるならそうなりたい。でもなれない。だからこそ知っているからこそ、フィリスはもう守られるだけの子供ではない。


 親が期待する道ではなく自分の望みをかなえるために歩き出した。


 しかしだからこそ、もう親として責務を果たし続けて、フィリスだけを愛してくれる必要などないのだと言いたかった。


 今からでもやり直していいし、できないというのならば何か別の寂しさを埋めるための新しい場所でも物でも探していきたい。それを一緒に探すことが出来るはずだった。


 しかしすべてが拗れて魔素パワーが炸裂しすぎて意味が分からなくなっていた。

 

 そうなった原因はブランシェール伯爵夫人にある。


「あなたみたいな人間を私は許せない!! どうしたの?! 魔素パワーで反撃して来たらいいでしょ!! そんな隅で縮こまって!! さっきまで偉そうにしてたくせに!」


 フィリスは言いながら一歩踏み込んだ。


 応接室は床に穴が開き、壁には岩石がめり込んでいて、酷い有様だ。


 まるで獣でも暴れたのかというような具合で、フィリスはまさしく獣そのものだった。


 このまま彼女につかみかかって痛い目を見せてもう悪い事はできないようにしてやろうと考えていた。


 しかし、そっとフィリスの拳に指先が触れて、拳を包み込んだ。そのまま手を引かれて初めて母の方を振り返った。


 彼女は隣に座ったまま呆然とフィリスを眺めていて、突然怒り出したフィリスに困惑している様子だった。


 それでもなんだか少し優しい顔をして、やっと休暇に帰ってきて以来うつろだったダーナと目が合ったような気がした。


「……そんなに怒って……だめよ。フィリス、あなたは特別なんだから」


 力なく放たれた言葉にすぐに言い返そうと思うが、それはフィリスを否定する言葉ではなく親らしいニュアンスが含まれていた。


 彼女はゆったりと立ち上がって、ふいにブランシェール伯爵夫人へと視線を向ける。その瞳にはもう妄信的な熱はなく、ブランシェール伯爵夫人は意味も分からず無様にフィリスの魔法に怯えて頭を抱えて小さくなっている。


 本人が大したことなければ弱みに付け込んだ洗脳など解けるのは一瞬の事で、ダーナは、無言のままフィリスの手を引いて応接室を出た。





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