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行動の対価



 彼の提案にフィリスはお願いしますと答えようとしてからハッと気がついた。


 カイルがとても優秀で良い人で助かったような気持になっていたけれど普通はそうではない。


 今まで、カイルはこの家の養子に貰われて父や母と親子関係を結び、家を継ぐ立場にあったからフィリスの家族の事にも真摯に向き合って当然だった。

 

 しかし今、カイルはフィリスの婚約者という立場であるだけで、未だに結婚もしていないし、いろいろと準備を進めてくれてはいるけれど本来は彼にはまったく責任がない事だ。


 これをあたり前のように受け入れるのはきっとフィリスが後継ぎとなったこの状況では正しくない。


「……」

「何か不満な点があったか?」

「え、あ……その、私の家族の事なのに沢山気を使わせてしまって、今も嫌な顔一つしないで、この家の為に仕事をしてもらって、私、跡継ぎになるって言ったのにこんなんじゃ、駄目だと思って」

「……なるほど」

「あなたにばかり負担をかけるのって平等じゃないし、カイルも忙しいんだから、私も開いている時間を使って手伝いをさせて」


 自分にできそうなことを提案して彼に聞いてみる。もちろん、こんな子供がいたら邪魔だろう。


 フィリスは言葉はうまくないし別に頭だってよくないが、恩だけはいろんなところに売っている。


 なんとかその伝手を使って彼の役に立てないだろうか。


「……」


 フィリスの申し出にカイルは少し考えてそれから、少し目を細めて笑みを浮かべた。


「自分は、この家の為に働いているわけじゃない。君が安心して仕事に励むことが出来るようにしているだけだ。幸いこんななりでも、書類仕事が苦手ではないし、なにより自分は大人で君はまだ子供だ。頼ってなにが悪いんだ?」


 優しい笑みと思いやりの籠った言葉に、彼から言われたフィリスが大切だという言葉を思い出す。


 大切だと思ってくれているからこその言葉と行動はとてもありがたいし、たしかに大人に頼った方がいい場面もあるだろう。


 けれども大切だという言葉だけでは、とてもじゃないがこなせる仕事量でもないし、普段の仕事や、剣の鍛錬、騎士団の引継ぎなどいろいろな仕事があるはずだ。


 フィリスが分からないだけで外注したりしてうまく回している可能性もあるけれど、忙しいことに変わりはないだろう。

 

 簡単には納得できない、しかし反論も思い浮かばない。そんな気持ちで彼を見つめているとさらにカイルは言葉を重ねた。


「無償で頼ることはできないというなら、ことが終わった後に、一つだけ素直に答えてほしい質問がある。それを偽りなく答えるという約束をしてくれ」

「……質問?」

「内容はその時に言うから、今はうんと頷いておけばいい」


 カイルは珍しく有無を言わせないような言い方で、ちょっとだけ警戒しそうになったが、フィリスは答えられないことなどない。そんなことはお安い御用だ。


 それに頼れないフィリスへの助け舟として今の提案をしただけの可能性の方が大きい。それならばそこまで言ってくれた彼の優しさに報いるべきだろう。


「わかった、約束する」

「よし、これで休暇の過ごし方は決まったな」

「そうだね」


 お互いにやることの多い休暇になりそうだが、大変なのはカイルの方だ。フィリスもいつか学園を卒業したら彼に頼られるような人間になりたい。


 しかし不得意なことを伸ばそうとしてもうまくいかないのでもっともっと強くなる方向で行こうと思った。




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