被害妄想だったと? 3
「それで、自分の妹に何の用か?」
カイルが眼光を鋭くして言うと、目の前に座っていたブルースとダイアナは口をつぐんでお互いの事を見つめた。
それはあからさまにお互いに、早く話せと発言を押し付け合っているように見えて、フィリスは何故そんな風になっているのかよくわからなかった。
確かにカイルは年上で多少なりとも鍛え上げられたたくましい体つきをしている。
しかし、怒っているわけでもないのだから普通に話をすればいいのに彼らは顔を青白くさせていた。
もしかすると、フィリスに会いに来たのに何故かいる大人の男性に抗議の意思を示しているのかもしれない。
それにフィリスも彼がこの場所にいることはたしかに謎だった。
事の始まりは学園の休日の日に、ダイアナとブルースが二人そろってやってきたことである。
休日だというのに制服に身を包んでいて、突然の訪問してきて、喧嘩をしてへそを曲げてしまったフィリスを学園に連れ戻したいという彼らに母は騙されて屋敷に上げてしまった。
たしかに母に言われた期日の一週間は今日で終わってしまうし、じれったく思っていた母にとって丁度良い訪問だったのだろうと思う。
そしてだまし討ちのような形でフィリスは応接間に呼ばれて、ブルースとダイアナと対面した。
しかし、会話が始まる前に唐突に我が物顔でカイルが入室し、フィリスの隣へと座ったのだった。
「何か言ったらどうなんだ。一応、魔法使いを目指しているんだろう」
「……」
「……」
「返事もしないなんて、学園の教育はどうなっているんだ?」
彼らに当たり前のようにそう言うカイルにブルースもダイアナも黙ったままで、このままでは一向に話を進めることができないとフィリスは思って、隣に座っているカイルの服の裾を引いた。
「あの、お兄さま。……私の友人と婚約者だから私が話すから……」
「……そうか? なんだ、もう二度と顔も見たくない相手なのかと思ったがそういう事なら、席を外すか」
「え、いえ。別にいても問題はないから」
「わかった。フィリスの言う通りにしよう」
フィリスが、要望を口にするとカイルは意外にも快く対応してくれて、ダーナよりも、少しは学園になじめなかったフィリスに同情してくれているらしかった。
養子だというだけでフィリスを悪く思っているだろうなんて考えていた自分が情けない。
ただの心配でここに来てくれたのなら、居てくれた方がいい。
それに、自分の味方が一人でもいると思えると、怖くなくなる気がした。
「……それで、どうしてこの屋敷まで? ……私はもう学園には……」
戻りたくないともやめたいとも、まだダーナと話し合いをしていないので言えなかった。
ただここ一週間考えても、彼らの事は好意的に思えないし、話すことも特にない。
フィリスがそういう思いを込めて言うと、カイルから彼らはフィリスへと視線を向けて、いつもの気弱なフィリスの状態にダイアナもブルースもしばらくしていつもの調子を取り戻した。
「学園には戻らないって事? せっかく私たちが誘ってあげて友達も紹介しようとしてあげたのに?」
「……それは……」
「あの後、俺たち、フィリスは悪くないからと話をして謝罪までして、次のお茶会の約束をしてきてやったんだぞ。そんな努力も無駄にするつもりか?」
彼らは、どうしてかフィリスを学園に戻したいらしく、恩着せがましい事を口にして仕方のないフィリスを諭すように言った。
学園にフィリスが戻ったとしても、今までと同じようにフィリスは浮くだけだし彼らも嫌な思いをするだろう。
「でも私がいると、面倒くさいでしょ。聖女の仕事のたびに外泊もするし、当てつけみたいだって言っていたし。戻ってきて欲しいなんて思ってないはず」
わかり切った事なのでフィリスは、気後れせずに口にした。
あの時は疎まれているという事実を受け止めきれずに言葉が出てこなかったが、こういう状況ならば話は別だ。
するとフィリスの言葉に、ダイアナとブルースは少し目を見開いた。
しかし、はっきりとした言葉が彼らの癪に障った様子でダイアナがすぐにイラついた様子でフィリスに返した。
「そりゃ確かに、色々思うのは当たり前じゃん? それともフィリスの事全部認めてくれるママ、パパみたいな人としか付き合えないって事?」
「ハッ、勘弁してくれよ。俺らお前の親じゃないんだぞ」
「そういう、ことじゃなくて……」
うまく切り返したいと思うのに、どう否定したらいいのかわからない。
完璧に好いてほしいだなんて思っていない。ただ単に一緒にいて不快ならば離れればいいと思っていると言っているだけだ。
「そうやってさ、守られないと潰れちゃう弱い子ですって態度もやめた方がいいよ、フィリス」
「聖女だから仕方ないって思ってやれるなんて俺らぐらいだよな。ダイアナ」
「ね~、本当にそう。こんなに優しくしてあげてるのに被害者ぶって、皆からも嫌われもするよ」
彼らはテンポ早く二人でまくし立てて、フィリスの悪いところをあげつらって馬鹿にしたように笑った。
聖女だからと言って守られているつもりもないし、自分でできることはなんでも自分でやっている。
フィリスは、うざったいと思われながら側にいてほしいだなんて思わないし、嫌ならばもう学園に戻って来いと誘わないでほしいと思っているだけだ。
しかし、その問題をどうしてこんな風にすり替えるのだろう。
意味が分からなくて理解が出来ない。
「だからこんな風に、わざわざ説得しに来てあげるのも私たちぐらいなんだから、ちょっとは素直になったら?」
「それならな、俺たちだって駄目なお前が学園でもやってけるように引っ張ってやるから」
最後に彼らは優しい顔をしてそう口にする。否定するなという強い雰囲気を感じて流されそうになってしまうけれど、フィリスはぐっと拳を握って口にした。
「だからそういう話をしてるんじゃなくて、あなた達に嫌だと思われながら一緒にいたくないって、言ってるんだけど」
「……なにそれ、空気読めない発言しないでよ」
「これだから、世間知らずの聖女様なんて笑われるんだぞ」
しかしフィリスの真面目な言葉にも彼らは、まるで叱責するように返した。
それにフィリスが押し黙ると、とても楽しそうに二人は視線を交わしながら笑みを浮かべて、さらに続けた。
「そもそも、婚約者のブルースと親交を深めるために学園に入ったんでしょ? それなのにブルースにこんなわがまま言って婚約がどうなってもいいの?」
「そうだ、婚約破棄されたらお前なんて行く場所ないんだろ」
「ほんとそれ、 それなのに聖女だからって調子に乗ってさぁ」
「まったくだ。聖女の仕事なんて言っても騎士たちに守られて女神の加護を使うだけのくせに。大変ぶって、お前が授業を抜けてくたび皆しらけてるぞ」
……そんなこと、言われても。
他にやりようなどない。そう思うのならば最初から学園になど誘わなければよかったのではないか。
それに、今やっと気がついた。
彼らは、こうしてフィリスを下げているとき終始ずっと楽しそうなのだ。
本当の理由など正しくはわからないかもしれないが、こうしてフィリスを連れ戻そうとするのは、皆とそうしてフィリスを下げて貶めて笑うためなのかもしれない。
「そりゃそうよね。だってあんたみたいなのが危険な魔獣と戦ってるとか無理有り過ぎでしょ」
「それにこんなに熱心に学園に戻るように言ってやってんのに、意地はって子供かよ」
……子供、……なのかな。
ダイアナとブルースに言われてフィリスは反論する言葉を考えた。
しかし、周りからそう見えていると彼らがこんなに自信を持って言えるならばフィリスへの評価はこれからもずっとそうなのかもしれない。