決戦の時 1
しばらく観戦を続けていると、待ちに待ったジゼルとジェラルドの出番がやってきた。彼らは二人そろって可愛い青チェックのリボンと首輪をつけていて見ているだけで微笑ましい。
普段はジェラルドを見ても可愛いとは思わないのに、流石のフィリスもここまでのそこそこ凄惨な戦いを見ていて疲弊していたので、ほんわかとしている彼らを見ると心が休まるような心地だ。
だってそうだろう、使い魔同士が殺し合ったり、魔法使いが実力に合わない使い魔を使役しようとして負傷したりと色々なあまり楽しくない様子を見せられて疲れ切っていた。
その中でのジェラルドは愛らしく思えたし、ジゼルは言わずもがなだ。
「ついに来ましたね! ジゼルとジェラルド、いったいどんな戦いとコンビネーションを見せてくれるんでしょうか!」
「がんばってほしいけど、無理はしないでほしいよぉ」
隣にいるドミニクとレアは序盤からずっと興奮しっぱなしであり、よく気力がもつな、と思いつつ、フィリスも背もたれから起き上がって彼女たちを前のめりで見つめる。
ジゼルたちが定位置につくと、対戦相手が控室から連れてこられて、対面に向き合うような形が初期位置になる。
その相手はジゼルが予想していた通り、彼女の兄であるアンドレだ。
こういう場にジゼルを引っ張り出すからには、必ず自分が対戦相手になるように仕組んでくるだろうと言っていた。
その予想は正しかったらしい。
「もしかしてあれはジゼルの実の兄であり、ルコック男爵家の跡継ぎと目されているアンドレ・ルコック様ではないですか?」
「兄弟対決になっちゃったのぉ?」
「そうみたいです。しかし流石はルコック男爵家の方です堂々としてますね、見てくださいあの使い魔、ウサギさんですよ」
「よく調教されてるねぇ」
ウサギの魔獣は人間に対して牙を向けることも少なく使役しやすい上に、動きが素早い。ウサギの使い魔はアンドレにとてもよく服従している様子だ。
となれば長年連れ添った使い魔なのかもしれない、自ら調教して自ら使役している使い魔はそれだけ服従度も高い。
付け焼刃では対応できない可能性もある。
彼らはお互いに革製のボールを渡されて、にらみ合うようにして見つめ合っていた。
いつもはおどおどしているジゼルも、若干俯きながらも戦闘に備えて目線を外さずにいる。彼女も覚悟を決めているのだと思う。
彼らは、教師が定位置について試合が始まるまでの間、向かい合って何やら話をしている様子だったが観客席の方までは聞こえてこない。
しかし、態度や表情からアンドレにまた酷い言葉を言われているらしいということは理解できる。
血のつながった兄弟なのだから、もう少し仲良くできるのではないかとフィリスは思うけれど実際に居たことがないのでなんとも言い難い。
「あ、もうすぐ試合が始まるようですよ! 一体どんな戦いになるんでしょうか」
「楽しみだねぇ」
教師が彼女たちの丁度間に立って手を高く上げる。それからジゼルとアンドレとそれぞれの使い魔を見つめて、準備が整っていることを最終確認して、その手が下ろされる。
ついに戦いの火ぶたが切られた。
その瞬間から二人と二匹は同時に行動を始める。
使い魔の二匹はお互いに向かって突っ走っていく。
まずは使い魔同士の対決になることはどの試合でも大体同じだ。
しかしイレギュラーはジゼルだ、魔法使い同士の戦いだと自分の魔術を使わないジゼルは、学年の違いもあるしジゼルに勝ち目はない。
そういうわけでジゼルもどうにか走って中央で衝突した魔獣二匹の戦いの陰に隠れるように移動していく。
どうにも見ていてどんくさい動きに、フィリスはひやひやしていたが、何とかジェラルドの後ろにいることが出来ている。
アンドレが魔法道具を使ってジゼルを攻撃しようとしても、必然的にジェラルドが邪魔をして、ジゼルはどうにか避けることが出来ている。
本当ならば有利な状況からジゼルは自分の魔法を撃ち、アンドレを攻撃するべきであるしフィリスならそうするが、今の彼女にはこれが精いっぱいの戦いらしかった。
「ジゼル、がんばってますね!ジェラルドも相変わらず可愛い!ウサギさんと戯れているようにも見えます!」
「いいねぇ、いいねぇ、私も混ざりたいよぅ」
隣にいる彼女たちは興奮して実況をするが、そんなにかわいいものではない、ウサギの使い魔もジェラルドも素早く動いて重い攻撃を繰り出している。
ウサギが地面をけってジェラルドにとびかかると地面はえぐり取られたように穴が開き、ジェラルドが前足でひっかき攻撃をすればブオンと風切り音が鳴る。
あそこに生身で突っ込んだら大変なことだ。
しかし、今のところジェラルドが優勢とみていいだろう。
ウサギは多少なりとも炎の魔法を使うらしく手数が多い、アンドレからの攻撃も相まってジェラルドはさばくのに徹しているが、あの様子では小手調べをしているのだろう。
このままいけば簡単に形勢逆転できる。ジゼルさえ守ることが出来ればあの小さな体のままでもジェラルドは十二分に戦える。
「……よし、このまま……」
フィリスは手に汗握って彼女たちの戦闘を食い入るように見つめた。