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 ジェラルドはジゼルとともに試合の控室にいた。一階にある試合会場から出たところにある共有のスペースだ。


 そこでジゼルの膝の上に乗って試合に備えた勝負首輪を一緒に選んでいた。


 今までも、いくつもの可愛い首輪をその日の気分によってつけられていたが、今日は特別な日なのでジゼルとそろいの柄のものをつけようと提案されたのだ。


「今日の為に特別に作ってもらったんだ、ジェリーが気に入るものを選んで」

『いいぞ!』


 控室には多くの魔獣と飼い主がいる。彼らに配慮した声量でジゼルはジェラルドに言った。


 ジェラルドとしては、こんなものつける意味などまったくわからないし、いらないし、なぜそろえるのかもまったく理解などしていなかった。


 しかしジゼルが言うのだからそういう物なんだろうと適当にテーブルの上に並べられた首輪の中から青いチェックの柄を選んだ。


 前足で示すとジゼルはそれだけでものすごくうれしそうな顔をして、ジェラルドに頬ずりをする。


「今日は青の気分? とっても素敵、私もこうしてほら、お揃い」

『だからなんだ!』

「すごくうれしいって事。それにこれなら、わかりやすいと思って……フィリスがジェリーは器用なことは出来ないって言っていたから、守りながら戦うんじゃなくて、こうして私のつけている物を覚えて、ちょっとでも意識してもらえたらいいかなって思ったの」

『意味わかんねぇ~ぞ!』

「そうだね。それでもいいんだ」

『ジゼルは変だな~!』

「そうかなぁ」


 ジェラルドはジゼルのことを舐めまくっていた。もう正直なところ言う事なんか聞いてやらなくてもいいんじゃないかと思っている。


 だってそうだろう。この娘は阿呆だ。人間相手にはものを強く言えないし、急なことにも対応できない。同族とうまく会話ができないなんて野生だったらすぐに死んでいる。


 強いわけでもなく手足は細く、まだなんだか甘ったるい子供のにおいがする。


 きっと血液も肉も脳髄も甘い風味がするだろう。それって最高においしい。


 ジェラルドは、いろんな肉を食べてきたが、魔力を持っている子供が一番好きだ。


 本当は特別濃厚で繊細でフルーティーな味わいフィリスをいつか喰らうことが目的だが、警戒心が強くて油断も隙もない。


 なのでそれは一旦おいておいて、今回はジゼルを食ってしまおうと思っている。


 肉が柔らかくて、甘ったるいうちに牙をうずめて骨を砕いて欲望の赴くままに嚥下したい。それほどジェラルドは魔力を持つ子供が好きだ。


「……ねぇ、ジェリー」


 この試合が終わったら、魔力を戦闘で消費した上に、さらに使役した使い魔であるジェラルドに魔力を注ぎ込む。そうして抵抗できなくなったところをがぶりといただく。

 

 そういう算段を、目をギラギラさせながら立てていると、ふいにジゼルが髪につけた青いチェックのリボンを揺らしてジェラルドの事を呼んだ。


「この戦いが終わったら、あなたには沢山報酬をあげる。私が出来ることならなんでもしてあげる」

『なんでも?』

「そうだよ。なんでも」

『いいのか?』


 ……そんなこと言ったら、食っちまうぞ!


 いいのかなんて聞く必要もなかったか、とジェラルドは思う。そうジゼルが言っているんだから約束だと言っておけば良かった。


 しかしそれでもなんとなく聞いてしまった。


 ジェラルドの確認にもジゼルは深く頷いた。これなら食っても問題ないはずだ。


 ジェラルドは嬉しくなってへっへっへと舌をだして彼女を見た。


 ジゼルがどんな想定をしてそう言っているのかはわからないけれど、それでも食べられるつもりなんてなかったとは言わせない。


「うん。だから、がんばって戦おうね。きっと勝とう、私ね。魔獣を愛してるんだ。だから何が何でもルコック男爵家を継ぎたい」

『人間って面倒くせ~な!』

「そうだね」


 魔獣になんでもしていいなんて言うほど、やりたいことがあるなんて酔狂だ、狂っている。


 それにそんなことを言わなくてもジェラルドは負けない。そもそも練習相手がフィリスだったのがいけないのだ。


 そうでなければ簡単に魔法使いの子供など殺してやる。


 ジゼルにはまだ本来の姿も実力も見せていないからこんな風にいうのだろう。


 しかし、それも丁度良かった、そのおかげでジゼルを喰らうことが出来る。


 この温かくて柔らかくていい匂いがする生物をかみ砕くことが出来る。


『楽しみだな~!』

「うん。練習の成果を出そうね」


 ……何言ってんだ、お前を食うのが楽しみだって話だ。


 こころの中でジェラルドはジゼルに言い返した。しかしぎゅうっと抱きしめられて、誰かに包み込まれる感覚は心地よくて、小さな体も悪くない気がしてくる。


「愛してるよ、ジェリー」


 耳元でささやかれる、優しい声色の美しい音色は、鈴のように聞き心地が良くて、とたんに人間のように泣いてしまいそうなほどなのだ。


 それほど何か得体のしれない気持ちがジェラルドの中にはあったのだった。

 




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