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口調の理由



 思う所はあるが、あまり重たい雰囲気で居続けてもいいことはないだろう。

 

 せっかくジゼルが自分の生い立ちについて話をしてくれたのだからフィリスもその話を聞きたい。調教の仕事を生業にしている貴族は実は多くないのだ。


「よ、よし! じゃあ、話もひと段落したし、せっかくだからジゼルの思い出話でも聞こうかな」

「わ、わわ私の?」

「うん……そうだね、例えば……あ、人とは、話しづらそうだけど、魔獣に語り掛けてるときは楽そうだよね、いつからそうなったの?」


 あまりアバウトに聞いても話題に困るだろうと思い、フィリスはここしばらくジェラルドとジゼルを見ていて気になったことを口にした。


 するとジゼルは顔をなぜか赤くして「ばばば、バレてたの?」と口元に手を当てて顔を隠しながら言った。


 バレてたもなにも、あからさまだったと思う。


 そしてだからこそ、彼女は素の状態ならきちんと話をできるのだと知っているし、人間に対してだけ、思う所があってそうなったのだと察した。


「人相手に、すると緊張するとか?」


 ついあがってしまって変な行動をとってしまう気持ちはフィリスもわかる。


 普通の令嬢、令息たちにフィリスはいつだってたじたじだし、そんな子たちにバカにされていると知った時には思わず泣いてしまったのだ。


「……さ、ささ、最初は、ちょっとだけ人より、噛みやすい、だけ、だったんだけど……」

「うんうん」

「アンドレ兄さまが、噛むたび、変な声だっていい、いろんな人に言いふらして、家族からも、わ、笑われて、気がついたら人と話すとき、喉が苦しくて何回もどもっちゃうようになってて」


 昼間に会った彼の事を思いだす。


 たしかにそんな風にも言っていたし、小さな妹にそんなにむごいことをしなくてもいいじゃないかと少し嫌な気持ちになる。


 ジゼルがやられたことなのにフィリスが憤るなんて変な話かもしれないが、まだ幼かったであろうジゼルを思うと腹が立った。


「そしたら、さらに笑われるようになっちゃって……でもそんなときでも魔獣はいつも、私のそばにいた。昔は、小鳥とかネズミとかとても小さな魔獣を練習として調教していたけれど皆とても優しい子たちだったの」

「へぇ……昔からやってたんだ、熱心だね」

「ううん。私はただ動物が好きだし、危険性の少ない魔獣だったから両親からも簡単な躾でいいと言われていて……でもそうして手伝っていたのは私だけじゃなくてアンドレ兄さまもだった」


 悲しそうに言う彼女はフィリスの方ではなくジェラルドの事を見ているので、きっとうまく話をできているのだろう。


 おかげで聞き取りやすいし、なんならずっとこれでも問題ないぐらいだ。


「そんなとき偶然同じ時期に売りに出した子たちがいて、偶然に兄さまが調教した方の子だけは、早くに死んでしまったの」

「……」

「そういう事が続いて、そもそも使い魔というのはそれほど長生きするものではないし、私が施している調教が良いとか悪いとかそういう話になって、それで……」

「お兄さんとの関係も悪くなってしまった?」


 ジゼルが言い淀んだので聞いてみると彼女はゆっくりと頷いた。


 ジゼルの口調を笑ったり、アンドレ自身との相性もあったのだろうが、やはり、拗れたのは家業の出来が評価に関わるからだろう。


 妹の方が優れているかもしれない、しかし自分の方が年上で、ジゼルのやり方は従来のものとは違う。


 淘汰してしまえば自分の立場は保証されるし、自分が妹よりも優れているということも証明できる。そんな思惑があって彼はジゼルをエントリーさせたのかもしれない。


「私はたしかに、魔獣を虐待して言う事を聞かせるのは反対。私はやりたくない、でもだからと言って否定しているわけじゃない、ただ可能性を示したいの……それがたとえ兄の望まない事だとしても」

「…………ジゼルは強いね」


 きっぱりと言い切る彼女に、フィリスはつい呟くように口にした。


 自分の信念があって、それをまっとうするために、誰かの望むことではなく、誰かを押しのけてでも自分の望みを通す。


 母や父の、期待に応えられるように、多くの人に好意的に思ってもらえるように、手に入れられそうなものすべてに手を伸ばしているフィリスとは大違いだ。


 今はそれで痛い目を見て、自分の得意分野でやることを意識しているが、それでも人の期待にそぐわない人にはなりたくないと心の奥底で思っている。


 そんなフィリスとジゼルは真逆で、傷ついても望む姿は気高いものに思える。


「あ、ありがとうっ、お世辞でも嬉しいっ」

「……お世辞じゃないよ」

「ふふっ、うん」


 しかし、フィリスの心からの言葉は、あまり正しく伝わらなかった様子で、何故だかジゼルは楽しそうに笑った。


 本当に強いと思っているのだけどなぁとフィリスは思いながらも、ぽつぽつとお互いに話をして夜を過ごしたのだった。





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