チーム天馬
雪が積もり、歩けなくなる前に小屋に着いた。
師匠と2人、除雪が困難になる前に、ある程度雪掻きをする。少なくとも出入口を確保しておかないと、生き埋めになってしまう可能性があるからだ。
王国から見ても、大陸地図から見ても、南方に位置する場所のクセに、滅茶苦茶雪が降り積もる地域である。
序でに、裏口の方もやっておこうと、師匠に声を掛ける。師匠には、1人でやりますと言い、雪掻き用のスコップを持って、裏口までの道を雪掻きし進む。裏口分も合わせると、結構な量の雪が集まり、流石にこれは放っておけないと思い、火魔法を使って融かす事にした。ただ、火魔法は加減が難しく、火力を間違えたら、小屋も燃やしてしまうかも知れない。中途半端な火力だと、融けきらず結果的に凍るかも知れないと考えるが、融けきらないなら、繰り返せば良いだけだと考え直す。
魔力を集めて練り、火をイメージして力ある言葉を放つ!
「火よ!」
両手から、小さな火球が連続で放たれ、雪を融かしていく。雪が融ける音を聞きながら、融けた雪が蒸気となり辺りが真っ白くなり見えなくなった。集めた分の雪は融かしきったので、裏口周りの雪の残りを確認して、もう良いかなと判断し、裏口から小屋の中に入る。
水場を通り抜け、リビングルームに向かうと、全員が揃って食卓を囲んでいた。
「ボウズ、稽古と雪掻きお疲れ様!」
声を掛けてきたのは、リィズさんの所属する冒険者チーム【天馬】のリーダー、中年剣士のアレンさんだ。
天馬は、王国でも珍しい固定メンバーの冒険者チームである。
アレンさん自身も王国でも高名な剣士らしく、ここに来る前、師匠と手合わせをして完敗した。
ただ、アレンさん自身は、最初から負けると思っていたらしく、純粋な強さを感じたかったそうだ。
アレンさんは、赤茶色の髪を短く揃えている。その為か、40代には到底見えない。また、リィズさんの父親で、奥さんも冒険者だそうで、現在病気療養中であるため、今回は不参加だそうだ。一応、奥さんには、リィズさんの妹が2人付いて看病をしているらしい。
「今、朝食のついでに昨夜の出来事を共有してたんですよ」
同じく天馬の回復と支援系を得意とする魔法使いトルネオさんが、紅茶を飲みながら続ける。
トルネオさんは、アレンさんと同郷の弟分で、天馬結成当初からのメンバーであり、欠損すら治す回復魔法を使えるそうで、リィズさん曰く天才なのだそうだ。
「とりあえず、座って朝食を取りながらお聞き下さい」
促され、僕は空いてる師匠の隣の椅子に座る。
天馬の弓使いロンドさんが紅茶を僕達にも淹れてくれる。
「ありがとうございます。ロンドさん」
「朝から頑張ってたようだからな」
厳つい顔ながら笑顔で頭を撫でてくれる。
ロンドさんは視力、聴力、嗅覚に優れ、ダンジョン等での危機察知能力等も異常に高く、手先の器用さから色々出来る人で、僕の皮鎧を補修、改修してくれたり、作業を見ていた僕に補修や手入れのコツなんかを教えてくれた。
「それで、続きだが、昨夜は何か問題があったのかね?」
師匠がアレンさんに問う。
「昨夜はリィズとニール、タモンの3人で監視をしていたんですが、ニールの結界魔法に何かが掛かったらしいんです。最も、すぐに範囲外に逃げられたようなんですがね?」
ニールさんも、魔法使いだけど補助系や索敵系の魔法が得意な人だ。
索敵と補助魔法の応用で、広範囲の結界魔法を展開する事が出来、接触した相手の能力によるが、触れた相手をその結界に閉じ込めることが出来るそうだ。
今回は拡げすぎて、捕まえる所か、相手すら分からないらしい、但し夜間に関してはあくまでも警護の為なので、接近を阻めれば十分でもある。
「それと、オレの使い魔が何者かにやられている」
タモンさんが付け加える。
タモンさんは、精神系召喚系が得意な魔法使いで、精神系魔法で鳥獣を支配、使役出来るそうで、十数匹使役して結構な範囲を索敵している。
召喚魔法は、魔法生物等こちら側に存在しない生物を呼び出し、契約を結ぶ事により、使役出来る魔法であり、召喚出来る種族、数、能力は術者の能力は拠る。
タモンさんの精神系使役魔法で使役しているのは鳥獣ばかりなので、夜間は使えない種族も居るが、意識を同調出来て、見ているものもわかるそうだ。
また、同調する事で大体の位置が把握出来るそうだが、数体の反応がいきなり無くなり、他の使い魔に同調しようとしたところ、それらも倒されいるそうだ。
「能力的に恐らくは悪魔クラスとは思うんですが、それにしてはおかしいんですよね。悪魔が痕跡を残すって言うのは」
リィズさんが眉を寄せ考える風に言う。
「確かに妙だな。悪魔がそこまでしながら、此方に何もして来ないのは、他の使い魔も全滅のようだが、その辺りの他の鳥獣はどうなっているのか分かるかな?」
師匠が質問する。
「まさか、手当たり次第に鳥獣だけを狩っているとか?まさか悪魔ではなく?」
アレンさんが返す。
「精神支配というか、使役魔法は、如何すれば強制解除されるのか知りたい」
師匠がタモンさんに質問する。
「数十匹使役している簡易的な範囲支配魔法なので、時間経過や意識を失う、結界魔法での遮断等でも可能です、が、ニールの結界の中で結界魔法を使う奴が居れば、感知出来ますから分かるでしょうね」
「悪魔なら簡単に出来そうなイメージですね。そういえば、皆さん揃ってますが、今って誰が監視してるんですか?」
僕がパンを食べながら誰ともなしに言う。
「あぁ、俺たち2人だよ」
戦士のカイラスさんが、召喚系魔法を使える戦士のラインさんと交互に指差した。
戦士とは言え、カイラスさんは魔力がかなり高く魔法が使えないが、ラインさんは逆に幾つかの魔法が使えるが、魔力が少ない。その幾つかの魔法の中に魔力吸収があり、カイラスさんを魔力供給源として召喚魔法を使っているのだろう。
カイラスさん自身は、弓使いのロンドさん並みに視力も良く、敵感知能力も高く、師匠の様に多数の武器を使い、それぞれ専門職と違わない位に使える。
「召喚した使い魔と同調して見ているからね。今は何も見えないし、タモンの言う辺りは普通に鳥獣がいるようだ」
ラインさんが身振り手振りを交え教えてくれる。
「召喚魔法って、何を呼び出せるんですか?」
「今使っているのは、魔法の目と呼ばれる魔物でね、契約を結ぶことで使役出来るんだよ」
「契約を結ぶこと?」
「そう、魔物という括りだけど、魔法の目なんかは、単体なら無害の魔法生物だし、こうして魔力で繋がっている間は、魔法の目を通して周囲を視ることが出来るんだ。契約内容は、魔力供給時の使役だから、長時間なら私を通してカイラスから得た魔力を魔法の目にあげるんだ」
「カイラスさんは、魔力が有っても、魔法が使えないんですよね」
「まぁな、魔力自体は全ての人間種が持っているが、魔法使いの才能は別だからな。ボウズみたいに、無尽蔵な魔力持ちも居るしな」
僕は無尽蔵な魔力持ちという事にしている。
基本的にこの人達は良い人ばかりだから、話に参加しさせてくれるし、色々な事を
教えてくれる。
ふと師匠を見ると、アレンさん達と色々相談しているようだ。
結構な時間が過ぎ、朝食を終えた僕が皆の分をまとめて片付けていると、リィズさんが戻ってきて
「トモキウス君、お風呂お願いしたいんだけど、良いかな?」
と言ってきたので、先に魔法を使いお風呂の用意をして、片付けを再開した。
「本当、便利な魔法使いだなボウズは」とニールさんが言う。
トルネオさんも
「無詠唱で色々な魔法を使う10才児ですからね、末恐ろしい」とからかい気味に乗っかる。
構ってくれる気の良い大人たちと過ごし、師匠に計算の勉強を見てもらい、昼過ぎには夜番に合わせて眠る。