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再生する吹奏楽のための祝歌  作者: 有楽一満
1/1

Overture

「それでウチに入ろうってわけ?君みたいな奴は掃いて捨てる程いるんだよ。悪いが入部届は受理できないよ。」

「このミキサーの使い方も知らないとか、そんなんでうち入ろうって訳?」

なんて酷い事を言うのだろう。僕はこっぴどい言葉で軽音部への入部を断ち切られた。しかし僕が心配したのはそんなことではなく[親になんて言おう]と言うことである。僕は音楽が好きだ。だからこそ高い部費がかかる軽音部への入部を希望し、親を説得したのだ。しかしこんな事では親に示しがつかない。しかし僕にはそれをどうにかする術は無かった。結局の所、家に帰るしかなかったのだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「俺を説得してそれか!」

やはりこうなった。しかし僕だって好きでこうなりたくてこうなったわけではない。負けじと反論した。

「それなら結果を見せろ!」

親の言う事だって一理も何理もある。しかし高校生を相手にそれは大人気無いのでは無いか。

もう嫌になってしまった。僕は家を飛び出していた。

「おい待て!」

親の声が遠く聞こえる。ここで僕は行く宛が無いことに気づく。そこで祖父の事を思い出した。小さい頃はよく逃げ出していたものだ。記憶を頼りに祖父の家を目指す。

程なくして祖父の家に着いた。あらかじめ連絡していないのにも関わらず祖父は私を歓迎した。

「夜遅くにどうした?何かあったか?」

僕は今日あった事、今の心情を吐露した。祖父はただ

「ちょっとそこでなんか飲んで待ってなさい。」

と言うばかりである。僕はもうそんなお子様じゃない。

「待たせたな、お前は本当に音楽をやりたいか?」勿論である。そう答えた。

「軽音がやりたい、と言うことではないんだな?」祖父の真意はわからないが私は頷いた。

「なら、これをお前に譲る。21世紀前半頃に作られた金管楽器『トロンボーン』だ。」

僕は正直、あまりこの物体に良い印象を抱かなかった。金色の光を写す曲線的なボディは現代の主流であるツヤ消しのされた高級感のあるブラック、直線的なデザインの電子楽器とはあまりにも剥離していたからだ。

そんな僕の考えを察したのか祖父は口を開く。

「『百聞は一見に如かず』、と言う言葉がある。一度吹いてみなさい。」

それを言うなら『百聞は一見によらず』ではないのか、しかしそんなことは後回しにできる程、この物体の演奏方法は謎だ。弦やパッド、キーが見当たらない。困惑する僕をさらに困惑させるように祖父はこれまた金色の物体を差し出してきた。

「これはマウスピースといってこの楽器の心臓だ。唇に当てて唇を“ブー”って感じに振動させてごらん。」

はしたない…そう思いながらも祖父の言う通りにする。変な音が出た。

「最初でそれとは、さすが我が孫、才能あるよ!」

ここまで活き活きしてる祖父もいつぶりに見ただろうか。そのまま祖父におだてられるようにして『マウスピース』を『トロンボーン』に装着する。

「それでこう持つ、そう、そうそう、そんな感じだ!じゃあさっきマウスピースで音を出したようにこれでもう一回音を出そう!」

私の中で祖父がキャラ崩壊を起こしている。あんな変な音が変わるとは到底思えない。しかし祖父の喜ぶ顔がなんだか心地よく、私は金色の物体に息を入れ、唇を、楽器を振動させた。

『パーン』

驚いた。この奇妙な物体から綺麗な音が出るのである。

「マジで才能あるぞ!」

祖父は相変わらず喜んではしゃいでいる。「マジ」ってなんだ。

なんてことだ祖母の遺影まで持ってきた。祖父がこの行動を取ったらもれなく祖父の奇行が始まる。

「すごいじゃないか、初見でここまで綺麗にチューニングBを出せる人はそうそういないぞ!婆さんも喜ぶぞ!よし音出た記念でお祝いだ!おじいちゃんがなんでも買ってあげるぞ!」

驚いた。いつもよりマシだ。

しかし音が小さい。本体スピーカーはイマイチだなと思った。祖父に接続端子はどこかと尋ねる。

「そんな物ないぞ」

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