prologue/モブくんの今日の観察
この高校1年B組の教室にはリア充が多い。
もちろん、オタクの俺には全く関係のないことだ。
だがまあ、応援したいと思う二人もいるのだが。
普通恋愛小説とかで出てくるのはおどおどした子と学校1のイケメンが恋に落ちていくとか、恋に慣れない二人甘い青春のように紆余曲折あって付き合う…とかだろ?いや俺もそう思ってたっていうか。そっちが俺好みです、はい。
だけど!
このクラスの恋愛小説(付き合う前)の話は全然違う。
お前らなんで付き合わないのと思いつつ、そのツンデレとか普段とのギャップとかがいい…!と、周りが尊死しているカップルがいるんだ(付き合ってない)。
「あっ!い〜こ〜なちゃんっ。おっはよ〜」
と言って、伊古奈さんに抱きつく三嶋くん。
そう、彼らである。
ちなみに、さっきまで三嶋くんは他の男子と喋っていたが、変わり身の速さで甘い声を出して抱きついている。
伊古奈さんは最初こそはびっくりしていたのだが、最近はもう慣れたのか。ため息をつき、
「はいはい、おはよう。急に抱きついてこないで」
そう冷たくあしらい、肩に回っている腕を解いた。
「ちぇー、冷たいなぁ…、俺悲しいよ?泣くよ?」
「勝手に泣いててよ、」
全くしょうがない、という声音で三嶋くんを宥め(?)、自分の席へと向かい、仲のいい女子と話し始める。
三嶋くんも三嶋くんで、別の男子に絡まられている。
「三嶋〜、お前フラれたな〜」
「はぁ!?フラれてねぇし、伊古奈ちゃんはただ単に恥ずかしがってるだけだよ」
「なわけないだろ」
伊古奈さんの気持ちをわかっていない彼に、クラスメイトのほぼ全員がツッコんだと思う。
その彼の言葉をお返しする形で。
なぜなら、伊古奈さんは絶対三嶋くんのことを意識しているからだ。
「ぅ〜、三嶋くんに酷いこと言っちゃったよぉ、絶対嫌われたって〜」
クラスの端に座る伊古奈さんが顔をふせて言っている。
俺の場所からは顔が見えないが、耳が真っ赤なのは見てとれる。
ちなみに、一番伊古奈さんの言葉を聞いてほしい三嶋くんは友達とつるんでトイレに行ってしまった。
「もう、そう思うなら冷たくあしらわなければいいじゃないの」
「だってぇ〜、なんか恥ずかしいんだもん!」
「えぇ?なんで?」
「それは……わかんないけど」
伊古奈さんは剥れたように唇を尖らしている。
ちなみにその姿に何人かの男どもはかわいい…と呟いている。
近くにいた女子にその頭を叩かれているが。
「だから言ってるでしょ〜?その心は…」
「その心は?」
「こ…」
伊古奈さんの友達があの言葉を言おうとした瞬間、後ろから手が伸びてきて、その女子の口を塞いだ。
「もごっ」
「だめだよ!凛ちゃんがその心に気づくまで言っちゃダメ!」
伊古奈さんの仲いい女子トップ2が現れた。
「言ってくれないの?」
「うっ、そんな可愛い顔してもダメだからね!」
「ぇえ〜?言っちゃおうよ」
「ダメなものはダメ」
「酷いなぁ」
そう3人は笑いながら、別の話題に移っていく。
今日も高校1年B組は、生暖かい視線で伊古奈凛香さんと三嶋舜を見守るのだった。