98GF 終了『文化祭』
慧彼が仙台駅のペデストリアンデッキに着くと、盾羽と火天が既にいた。楽しそうに話していたところを見て、慧彼は何かから解放されたように盾羽と火天のところへ走った。
「おーい」
慧彼はランニングくらいのスピードで走りながら盾羽と火天に声をかけていた。盾羽と火天は慧彼のいる方を向き、微笑んでいた。
「ほんとに疲れた……」
慧彼は膝に手を置き、下を向いて話す。息切れしているため、それほど大変だったのだろうと盾羽と火天は思っていた。
「おぶっていきますよ?」
「マジ? ありがと」
盾羽は慧彼をおんぶし、火天に改めて礼をした。
「協力してくれて、本当にありがとうございます」
「いや、あいつと私は完全に別の思想を掲げて行動してたから……。……これはして当然のことだよ」
「それでもですよ」
「このことは雷風に伝えといて。んで、私はしばらく日本にいるから。それも伝えといて」
「わかりました……。……ですが、何故なんですか?」
「私が敵じゃないことの証明と、もうそろそろあなた達の家に手紙が来るはずだから……」
それだけを言い残し、火天はその場を去った。それを盾羽は止めようとしたが、声をかける前に消えてしまった。
「どういうことなんでしょうか……」
「さぁ……? 言葉の通りに捉えていいと思うよ」
「まあ、そうですね。今は私達の行動を伝えるだけですね」
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雷風達は全員家に帰り、最終日の会議が始まった。慧彼と盾羽、白夜、雫の4人はとても疲れたような顔をしており、風月と霞、雷風の3人は何故疲れたのかと言わんばかりの顔をしていた。
「……どうした?」
雷風が4人に聞くと、白夜が話し始めた。
「月天、私と雫で倒したよ」
「そうか。お疲れ様。……疲れたろ? とりあえず今日は寝ろ。」
雷風は疲れきった2人に、労いの言葉を授けた。すると、白夜と雫はすぐに自分達の部屋へ向かった。
「それで、慧彼と盾羽はなんでそんなに疲れてんだ?」
「みんなが花火だって勘違いしたやつ、あれ壊した」
「まあ……、薄々わかってた。とりあえずお前らも寝ろ」
「待ってください」
「どうした?」
「火天さんの件です」
盾羽は、火天に言われた通りのことを伝えた。
「火天さんと月天は完全に別の思想を掲げて行動していたみたいで、十二神の中でも対立していたみたいです。そして、火天さんはしばらく日本に残るみたいです」
「わかった。お前らも寝とけよ」
「ありがとうございます」
盾羽は再び慧彼をおんぶし、慧彼の部屋へ向かった。
「姉さん達は何してたんだ?」
「異常が全くと言っていいほどなかったから文化祭楽しんでたよ」
「同じく。じゃあ私達も部屋に戻る」
「ああ」
風月と霞が自分達の部屋へ戻ると、雷風は1つの手紙を見た。その顔はとても険しいものであり、リビング中には威圧が漂っていた。
『真祖、鬼頭 雷風へ。
これが無事見れているということは、月天も伊舎那天も死んだのだろう。そして、私はもっと前に死んでいるのだろう。
私は日本にいるほとんどの人造人間を連れ、フランスへ向かった。それは、仏独戦争へ義勇軍として参戦するためであるからだ。はっきり言って、私は君たちを妬ましく思った。だから私達は戦争を止めた者として、大義名分を果たそうとしたのだ。欲のままに地位と名声を求めた。だが、書いている今になってわかる。ドイツ軍は強すぎる。だから、私はスパイとして高度能力兵を数体送り、情報を手に入れた。それを伝えるために今、真祖であるお前に手紙を書いている。
まず、ドイツ軍には真祖の姫という強すぎる敵がいる。真祖であるお前と張り合うレベルの強敵であり、勝てるかわからん。そして、その真祖の姫が入っているドイツ軍最高戦力であるセフィロト。11のメンバー全員が強敵であり、十二神の6名が瞬殺された。もし放置してしまったら、ドイツはより強くなってしまう。そして日本に攻めてくる可能性がある。ドイツ軍は早く止めたほうがいい。ドイツ軍は、化け物揃いだ。
天城 神月より』
伝えたいことはわかった。そして、神月の欲望がそれほどまでに強いのだとわかった。死人の欲望はどうでもいいが、世界は今、かなり由々しき事態なのだということが文面の殴り書き具合から予想できた。
(……明日、フランス行くか)
雷風は事前に触っていたスマホから、楓に電話した。
(繋がらない……)
すると、折り返しで電話がかかってきた。
〔ごめん、さっきまで機内モードにしてた〕
〔なるほどな。んでお前、今ドイツにいるのか?〕
〔いるよ? なんで知ってるの?〕
〔お前がドイツ軍に売られてからずっと、お前はドイツ軍所属だろ? そしてドイツ軍最高戦力であるセフィロト。その1人がお前だ〕
〔うん……〕
〔だが、俺はお前と戦う気は全く持ってない〕
すると、楓は何か言いたそうに話し出した。
〔実はね……〕
〔どうした?〕
何か困ったような声をしていた。困っている内容が気になったため、雷風は真面目に聞くことにした。
〔私、ドイツ軍抜けようと思ってる。そして、亡命しようと思ってる〕
〔お、おう……〕
思った以上にぶっ飛んだ話だったため、雷風は一瞬戸惑った。だが、楓はお構い無しに話し続けた。
〔前のドイツ軍はいい所だった。だから私もいてて楽しかった。けど、ここ最近は全く違う。急に大将より上のセフィロトっていう位が追加されたり、首相が変わって周囲は人造人間だらけになったし、人間を敵だって言って帝国主義にシフトチェンジしたし……。それで今、ドイツ軍がすんごい嫌なんだよ〕
雷風は気になった。周囲に人がいるところで言っているんじゃないかと。そうなったら、帝国主義なら間違いなく処罰される。それを雷風は危惧し、楓に聞いた。
〔お前、これ誰にも聞かれないところで言ってるんだろうな?〕
〔うん。誰もいないし誰にも聞かれない場所だよ〕
雷風は少し安心した。
〔けどさ、亡命って言ってもそんなに早く手続きできるものじゃないんだ。だからさ、バレずに亡命ってできるかなって聞こうと思って〕
〔亡命か……〕
亡命とは、主に政治的な事情で他国へ逃れることを言うのだが、楓は軍人であるため、ギリギリ亡命に当てはまることになる。日本に亡命する場合、日本政府が亡命許可をしないといけない。それには色々手続きがあり、とてもめんどくさいのだ。それを楓はしようと考えており、雷風もそれには協力しようと思っている。
〔こっち側はすぐに対応する。というか日本政府と繋がりがあるからすぐにできる。できるようになったら言ってくれ〕
〔わかった……。ありがと……〕
楓は電話を切った。
(……よし、とりあえず明日にはフランスに行くとして、手続きは火天にやらせるか。……とりあえず、今から火天探すか)
雷風は立ち上がると、1人で家を出た。無論、慧彼達同居人には連絡している。
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火天は、仙台駅に隣接しているペデストリアンデッキまで戻ってきていた。ペデストリアンデッキの壁に腰をかけ、いつもなら車通りの多い愛宕上杉通を見ていた。そこに、雷風が現れた。
「火天。ちょっと用がある」
「何? 日本に残るからってこき使う気?」
「こき使うってまではいかねぇけど、ちょっと頼みたいことがある」
「わかった。何?」
「日本政府に行って、真祖の姫の亡命を許可してこい。名前は……」
「ちょっと待ってちょっと待って」
火天は、当たり前のように雷風の口から出てきた真祖の姫というビッグネームに驚いていた。そして、真祖の姫の亡命という最も気になるワードを簡単に言った雷風の神経を疑っていた。
「真祖の姫を? 亡命させるから? それの手伝いのために? 日本政府に行って? 亡命させろってこと?」
「そういうことだ。だからそいつの名前を言う」
「そいつ呼ばわり……」
火天はもう、驚くことをやめて全てを諦めることを決めた。
「美澄 楓だ」
「わかった。その子を亡命させればいいんだね?」
「そういうことだ」
「任せといて」
雷風は、火天の「任せといて」に全てを託し、家へ帰った。そして、同時に慧彼達にメールを送った。
『明日から緊急でフランスに行く。準備して寝ろ』




