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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第5章 陰謀包む『文化祭』
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95GF 巨大な影『文化祭』



 雫は犯罪者を取り押さえながら、月天の動きがないか見ていた。何か動きがあればすぐに行動へ起こそうとしていたが、全くと言っていいほど動きがなかった。

 ビルの屋上に移動した雫は、ロストエネルギーを使った探知を行い、月天のロストエネルギーのバターンを探った。



 (このパターン……。自動迎撃か……)



 自動迎撃の識別信号が月天から流れていたため、雫は精度を確かめるために光線を放った。すると、半径500mの球状に展開されているロストエネルギーは光線を自動で防ぎ、月から雫の方向に向けて光線を放った。防いでから光線を放つまでのタイムラグは全くなく、同時に行われていた。



 (精度はかなりいい……。これだったら白夜が近づいても光線の雨に晒されるだけ……。……向こうの計画だったら、もしかしたら自動迎撃は消える……)



 そのまま白夜が突撃したら死んでしまうと思った雫は、白夜に無線による通話を始めた。



 《ちょっとごめん。いい?》


 《あ、いいけど……》


 《今、月天に突撃するのは良くない。光線の雨に晒されて身体中穴だらけになると思う》


 《……マジ?》


 《光線を違う方向から数発撃ってみたんだよ。じゃあ月天は自動迎撃を使ってタイムラグ無く迎撃してきた》


 《自動迎撃か……。……ありがと》


 《気をつけて》



 雫は無線による通話を終え、もう一度月天を見た。



 (月天は確か……、味方がいればロストエネルギー量が増加する変な習性があったはず……。もし仲間がいたとしたら……。……もしいなかったら、どうやってこれほど大量のロストエネルギーを集めた……?)



 そう、明らかにロストエネルギーの限界値を超えていたのだ。ロストエネルギーで出来ている密度の大きい巨大な月、自動迎撃で使っているロストエネルギーのセンサー、そして月から放っている光線。確実に800000(80万)GFは超えている。そのロストエネルギーの量は、地道に集めていない限り絶対に集まらない量である。



 (月天……。お前はもう、人の心はないんだね……)



 雫は月天に軽蔑すると同時に、殺意の籠った雫の目は月天の方を向いていた。



 (お前はいったい……、何がしたいんだ……?)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 慧彼と盾羽は、仙台駅に接続しているペデストリアンデッキの上にいた。ペデストリアンデッキの手すりに手を置き、黄昏ているように仙台駅周辺を見ている慧彼に対して、盾羽はペデストリアンデッキに両肘を置き、慧彼の向いている方に背を向けていた。盾羽は上空に存在する巨大な月を見ており、同時に光線を全て跳ね返す白夜の姿を、少しだけだが捉えていた。



 (あの量を全て1人で……)



 盾羽が動こうとした瞬間には、視界にある限りの光線は既に消えていた。その速さに驚きながらも、盾羽は常に探知を続けていた。



 (この反応……。1日目に戦った槍使いとはレベルが違う……)



 ロストエネルギーだけでわかった。伊舎那天より体がかなり小さいのだが、その体内にある凝縮されたロストエネルギーはとてつもない量だった。上空に存在するロストエネルギーで形成された月。それを極限まで凝縮された量が、その人造人間にはあった。

 その人造人間がペデストリアンデッキの階段に足をかけた瞬間、盾羽は慧彼に声をかけた。それは焦りを伴っており、それほどの強敵なのだと慧彼を震撼させた。



 「慧彼さん。敵が来てます……」


 「え? 普通に気づかなかった……」


 「とりあえず戦闘態勢に入ってください」


 「あ、うん。わかった……」



 慧彼と盾羽は戦闘態勢に入り、その人造人間の接近に備えた。近づいてくる。足音がひとつ聞こえる度に警戒心は強くなっていき、動物の威嚇のような次元はとっくに超えていた。



 「さて……。君達さ、警戒しすぎじゃない?」


 「……え?」



 慧彼と盾羽は、開いた口が塞がらなかった。それほどに、この人造人間の言っていることに驚きを隠せなくかった。警戒していることを不思議に思っている人造人間は、慧彼と盾羽の目の前で手を振り、「おーい」と声をかけていた。



 (あれ? 固まった?)



 その人造人間が心配そうに2人の顔を見ると、慧彼は息を吹き返したように動き出した。



 「えーと……。……どちら様で?」



 慧彼はまだ警戒心を解くことはなく、反感を買わないように物腰が柔らかい態度で話した。それに対し、その人造人間は何かおかしな顔をして返答した。



 「まさか……、……雷風から聞いてない感じ?」



 慧彼は何も言い返すことなく、頷いた。だが、今の発言の中で慧彼はひとつ疑問に思った。



 「何故雷風の名前を?」



 慧彼は警戒しながらも、純粋な疑問をその人造人間にぶつけてみた。すると、意外にも簡単に答えがわかった。



 「雷風が仙台市役所から出てきた時、たまたま遭遇したんだよ。こっちは元十二神だから、断罪者全員のデータが脳にインプットされてるんだけど、まさか遭遇するとは思いもしなかったから、千載一遇だって思って話しかけたんだよね」


 「えーと……。話の内容が私の頭じゃ追いつかない……」


 「待ってください」



 いつの間にか動いていた盾羽は、その人造人間に発言を止めさせた。急に会話に入ってきたため、その人造人間と慧彼は意識外からの声に驚いていた。



 「……いつから聞いてた?」


 「「まさか……、……雷風から聞いてない感じ?」からです」


 「全部ってことね……」


 「そんなことはどうでもいいんです。あなたは元十二神なんですよね?」


 「そうだけど?」


 「名前を聞いてもいいですか?」


 「火天」


 「なるほど……」


 「じゃあこっちからもひとつ。私は十二神を離れる形になった。そして自動的に裏切る流れに今なってる。けど、最終的にあなた達と天城達がしようとしていることは同じ」


 (同じ……?)



 盾羽は疑問に思ったが、話を途切れさせる訳にはいかないと思い、疑問をぶつけることをやめた。



 「ここで問題。今、ヨーロッパでは大規模な戦争が起こってる。アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシアの5ヶ国が植民地を巡って対立関係にある。これは国連で定めた条約に反してて、この5ヶ国は国連から脱退させられてる。この裏で、何が動いているでしょうか?」


 「……難しくない?」



 慧彼は少し考えたが、結論に辿り着く気配が微塵もなかったため潔く諦めることにした。だが、盾羽は考えた。盾羽はまず、考える前に話していた内容を整理した。



 (私達と天城達がしようとしていたことは最終的には同じ……。ヨーロッパで起こっている戦争、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシアが植民地政策を始めて対立関係。そこから考えると巻き込まれているのはフランス……。そういうことですか……)



 盾羽は色々な考察を踏まえ、ひとつの結論にたどり着いた。それを自分の答えだと、火天に向けて話した。



 「わかりましたよ。まず、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシアの5ヶ国が植民地政策を始めて対立関係にある。そして、ヨーロッパの今起こっている戦争はドイツとフランスによるもの。つまり、フランスは完全に巻き込まれている立場。私達は自分達が義勇軍としてフランスに加勢するという仮説で行くと、日本にいた人造人間の数が激減した理由と合致します。つまり、天城達は自分とほとんどの十二神、そして大半の人造人間を率いてフランスに義勇軍として加勢した。これがあなたがこの問題で考える前提として出したこと」


 「おおぉ。そこまでは完璧だよ」


 「そこで質問の意味がわかってきます。ヨーロッパで起こっている対立関係。そしてフランスとドイツの戦争。そこに何故人造人間を派遣したのか。あなた、まさか義勇軍としてフランスに向かったんですか?」



 火天は黙り込んでしまった。それを盾羽は肯定と捉え、話を続けた。



 「あれほどの力を持った存在であるあなたがここまで逃げてきた。いや、逃げさせられた程の力、人造人間しかできない。つまり、急に国会を脱退して植民地政策に乗り出したのも、ヨーロッパで植民地を巡って対立し、派遣を求めて戦争を起こしているのは、全て人造人間が行っていること。そういう事ですか?」


 「……文句なしの正解。護神 盾羽だっけ? 君前衛より参謀の方が向いてるんじゃない?」


 「人が不足してるんですよ」


 「なるほど、ならしょうがない。それと……」


 「そうですよね……」



 盾羽と火天は、まるで石のように動きが止まっている慧彼を見た。そして声を揃えて言った。



 「大丈夫?」


 「大丈夫ですか?」



 2人の声で正気に戻り、動き出した慧彼は2人に問うた。



 「それで、難しい話は終わった?」


 「終わりましたよ」


 「じゃ、あれどうするかだよね」



 慧彼は上空にある、巨大な月を指さした。



 (月天……。まさかあの計画を……)



 火天は何か考え事をしていた。それを見ていた慧彼は、火天に聞いた。



 「何か困り事でもあるの?」


 「いや、月天の計画を知ってるからさ……。本当にあれを実行するとは思わなかった……」


 「どういうこと? その計画、話してみてよ」


 「わかった……」



 火天は慧彼と盾羽に、月天が何をしようとしているのかを話した。その計画の内容は、かなり非人道的で、普通の人間では考えもつかない程重いものであった……。



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