93GF 思いは歪に絡まって解けない『文化祭』
会議から2時間後、雷風は白夜の部屋に入った。静寂の中、ドアを開ける音は白夜を起こした。白夜は目が覚めると、暗闇の中でドアの向こう側に雷風が立っているのが見えた。
「アトミックアニー、改造終わったぞ」
「あ、ありがとう」
「機能の説明はアトミックアニーがしてくれると思うから、行動中に聞いたりしてくれ」
「わかった」
「あと1つ、今日の行動中は、会話する時以外はずっとアクセルモード使っててくれ。まあ、アクセルモードの連続時間を20時間にまで延長したってくらいだから、そこまで気にはしないでくれ」
「よくわからないけど、とりあえずありがと」
「じゃ、失礼した」
雷風はドアをゆっくり閉めた。白夜に対しての配慮なのか、歩く音も消していた。それに気づかない白夜は、そのまま眠りについた。
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文化祭3日目、最終日である9月28日。台風は仙台からかなり離れ、仙台は再び日の光を浴びた。昨日外に出れなかった大多数の観光客は、今日に全てをかける勢いで学校の中へ入った。守る人数が増えれば、雷風達はより動かなければならない。
「……多すぎんだろ」
雷風は、ビルの屋上から観光客たちを見ていた。その数の多さに少し驚いたが、目を閉じて1度深呼吸すると心が落ち着いた。自分のすることは、文化祭の安全を守り、危険となるものを排除することである。
「……行くか」
雷風は一瞬にして、その場から姿を消した。
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鍵政組本部。そこでは、方俊の怒号が鳴り響いていた。
「おい!! どういうことだ!!」
「いえ……、それについてはよく分かっていなく……」
「……わかっていない? 月天!! どういうことが説明しろ!!」
「そんなのわかりませんよ。勝手に死んでたんですから。それより、計画を実行するなら今日がラストチャンスな気がするんですよね」
「……ああ!! 向かえよ!!」
方俊は後頭部を強く掻きながら月天に向けて言った。すると、月天は何事も無かったかのように部屋を出た。
「終焉の理計画……、そっちは進んでるんだろうな?」
「はい。順調です」
「進んでるならいい。そのまま作業を進めろ」
方俊は幹部たちを解散させた。
(人造人間は消すべき存在だ……。そのためなら何だってやってやるよ……)
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月天は、人造人間を吸い取ってロストエネルギーに変換していた。見つけてはロストエネルギーに変換し、蓄積していっている月にロストエネルギーを詰め込んでいっていた。
「後は自分のロストエネルギーで賄える……」
月天の中にあった計画は、鍵政組の考えていた計画とは違った。鍵政組は仙台から人造人間を消し、月天の養分にすればいいと思って月天を使ったのだが、月天自身は鍵政組の思い通りになるのは嫌だった。月天は能力を使って超巨大な月を生成し、仙台に落とそうとしていた。つまり、月天は仙台を破壊しようとしていた。
「鍵政組、奴らはどうにも気に入らない……」
月天は能力発動までの時間を作るために、一時仙台を離れることにした。
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夜、月天は視界に入った遊撃兵以下の人造人間を、片っ端から吸収していった。たとえ何をしていようとも吸収し、迎撃用に使うロストエネルギーとして補充していた。
(月は完全にできた。後は……)
断罪者が、月天の作った巨大な月に気づいたため、月天に近づこうとしていた。
(撃ちましょうか……)
月天は極太の光線を、近づいてきている断罪者達に向けて放った。
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楓は、屋台でたこ焼きを買っていた。
「ありがとうございます」
「500円です」
楓は500円玉を出すと、たこ焼きを受け取って人混みの中へ入った。
(あの月って……)
楓は、上空にある異常な程に大きい月を目にしていた。明らかに異常だと思い、人造人間がなにか関係しているのかと推測した。今日、楓はただの私服で文化祭を楽しんでいたため、戦闘に参加することはできた。だが、楓は一旦雷風に電話をした。
〔どうした?〕
〔上にさ、異常にでかい月あるでしょ?〕
〔まあ、あるな〕
〔あれの対処、私がやろうか?〕
〔いや、もうそろそろ終わるみたいだぞ。見てたらわかる〕
〔え?〕
雷風は何か分かっているかのように楓に伝え、月を見続けることを勧めた。それに従い、楓は月を見続けていた。すると、月は前兆なく降下を始めた。どんどん大きくなっていく月だったが、突然として超巨大なガベルが現れた。ガベルが月を海のある東の方向へ叩き飛ばし、海の上で超巨大な月は爆発した。月だった石は光り、海へ落ちていく。その姿はまるで花火であった。1発限りの超巨大な花火は、観光客達全員が見ていた。
〔な、言ったろ?〕
〔あ、うん……〕
〔そんなに驚くなよ。楓もやろうと思ったらできるんだろ?〕
〔できないって言ったら嘘になるけど……。……あんなの飛ばせるなんて思わないじゃん〕
〔まあ、俺も楓と同じ考えになると思う。けど、俺たちとは違って断罪者は頭ぶっ飛んでるヤツらが集まってるからさ、ああいうことを平然とやるんだよ〕
〔ぶっ飛んでるって……。……普通に酷いね〕
〔そうか?〕
〔間違いなくそう〕
〔いいものは見れたか?〕
〔見れたよ。やりすぎだと思うけど〕
〔ならよかった。じゃ、切るぞ〕
〔うん、わざわざ出てくれてありがと〕
雷風が電話を切ると、楓は何か安堵したような顔をした。
(これで仙台はひとまず平和だね……。来年も来れたらいいんだけどなぁ……。そのためには、フランスとの戦争をどうするかだよね……。もし雷風達がフランス側に付いちゃったら……、その時は亡命も視野に入れないと……。あの軍、好きでいるわけじゃないし……)
楓は少し考えた後、たこ焼きを食べながらホテルへ帰った。




