92GF 2日目終了『文化祭』
2日目の護衛は終了し、街に人気が無くなった11時30分頃に雷風達は家に集合した。雷風が帰ってくると、既に全員家に集まっていた。
「あ、ようやく帰ってきた」
「遅れてすまんな」
雷風がソファに座ると、リビングは糸がピンと張り詰めたような、緊迫とした空気に包まれた。しばらく静寂に包まれた後、慧彼と盾羽が報告を始めた。
「青葉区は人造人間がところどころで出没してたくらいかな。それ以外は何も無かったよ」
「逆に人造人間がいるということは、昨日に引き続き十二神が別のところで出没しているということです。雷風君なら何か知っているんじゃないんですか?」
盾羽は雷風の方を向き、質問をした。純粋に質問をしている顔をしており、盾羽の持つ碧眼は凛と煌めいていた。雷風はその姿を見ることなく、下を向きながら盾羽の質問に事実を話した。
「知ってるっていう程度じゃねぇよ。今日も戦闘した」
「その件なら私も戦闘したよ」
風月は全員に語りかけるように、全員の姿を見て戦闘した相手と結果を伝えた。
「まずは3m位の巨体の人造人間。昨日雷風が言ってた槍使いだと思う。それともう1体、宙に浮いてて光線を常に飛ばしてくる人造人間。人造人間の後ろにロストエネルギー状の球体があって、そこから剣出したり光線が無数に出てくる感じ。実体があったから、原理は雫の能力と一緒だと思う」
「姉さん。ちょっといいか?」
雷風は何か聞きたそうにしていた。それも口頭で質問するということは、周囲にそれを明確にさせようとしているということ。風月は雷風の質問に応じることにした。
「どしたの?」
「ロストエネルギー状の球体って、月みたいな見た目だったか?」
「まあ、月と言われればそうなのかな……?」
すると、雷風は疑問に思った。風月の回答からするに、昨日に雷風が見たものと類似している。そこから、昨日見た者と、今日風月が戦った人造人間を同一人物だと考えて考察した。
(小型の月はロストエネルギー状の球体。そこに引力を設定したり、そこから光線を放つことが出来る。原理が同じってことは、光線は実体を持ったロストエネルギーってことだ。……待てよ? ロストエネルギーってことは絶対に量が減るはずだろ……。しかも小型ってことはそれほどロストエネルギーは多く出せないはず。前に見た大きさだったら、強力な光線を数多く出すことは絶対にできない……。じゃあなんで姉さんと対等に戦える程の光線を連発できた? それに光線は小型の月から出ていたってことだ。なら月はどんどん小さくなっていくはずだ……。それを聞かないとな……)
「姉さん。もう1つ」
「いいけど……、何?」
「その小型の月ってさ、大きさ変わってたりしてなかったか?」
「どーだったっけなぁ……。確か変わってなかった気がするけど……」
「ありがと」
「あ、うん……」
雷風はまだ何か引っかかるものがあった。それを聞くために、元十二神である雫に質問した。
「なあ雫」
「ん?」
「今の情報、十二神の中に当てはまるやつはいたか?」
「いるよ」
雫は即答した。
「じゃあそいつの特徴とか言ってくれるか?」
「わかった」
雫は昔に仲間だった者の情報を、躊躇いもなく雷風達に暴露した。
「まず、そいつの名前は月天。能力名は月。ロストエネルギーで月を生成して、月に関する様々な超常現象を起こす。口調は丁寧だけどかなり凶暴。何かやばいことをしそうな雰囲気があった。そして1番大きな特徴、月天は能力発動の時、必ずと言っていい程月を生成する」
「わかった。だいたい分かった」
「何か分かったの?」
慧彼は雷風に聞いた。すると、雷風は自信満々に返事をした。
「ああ。データにしてお前ら全員に送る。だからちょっと待っててくれ」
「あ、うん。わかった」
その後、全員は人造人間と少し交戦した位で、有力な情報を何も得られなかったために会議は終了した。
雷風は自室へ向かうと、現時点で語られている情報を組み合わせ、月天の情報を全員に共有するためのデータを作っていた。そのため、雷風以外の全員はリビングで待機している。
(月天か……。あの人造人間……、かなりやばいことするかもしれねぇな……)
雷風は考え事をしていると、入力していた手が止まっていた。
(真面目にしねぇとな)
2分後、データは完成した。そのデータをスマホに入れると、雷風はスマホを持ってリビングへ向かった。
「待たせたな」
雷風は、ゲームをしていた慧彼と霞をソファに座らせ、会議を無理矢理再開させた。先程とは違い、ゲームが盛り上がった時にできる特有の空気が流れていたため、喋りやすい雰囲気であった。
「今、お前らのスマホに月天に関するデータを送った。雫、何か違うところがあったら言ってくれ」
「わかった。ビシバシ言うけどいいの?」
「ああ。構わん」
『月天。十二神の1人であり、ロストエネルギーで月を生成し、月に関する様々な超常現象を起こすことができる月という能力を所持している。自分から行動を起こそうとはしなく、周りの者を諌める者として数少ない常識者として十二神としていると本人は思っているが、月天はかなりの異常者である。それは性格から察することができる。基本的に口調は丁寧なのだが、実はかなり凶暴な性格である。何かを企んでいる可能性があり、見つけたら様子を伺うことを勧める。
能力である月に関する超常現象。それの例は引力操作、光線の射出に光線の弾道操作、更には月から剣を生成する。これでは終わらないと思っている。ロストエネルギーでできている小型の月からロストエネルギーを消費し、更に小型の月であるロストエネルギーの球体が小さくならないことから、ロストエネルギーをかなり凝縮したものを使っているのか、それとも自分の体内にあるロストエネルギーを使ってそう見せているのか、このどちからかであることが推測される』
データが一瞬にして送信され、その中身を確認して言った雫は、雷風にグッドサインを送ってこう言った。
「いいねこれ。ちゃんと事実が述べられてるし、それより一番大事なのが、「読みたいと思わせる」かどうか。この両方を見事に体現してくれてる文だと思うよ」
「ならよかった。あとさ、お前は評論家かなにかか?」
「批評家って呼んでくれる?」
「知るかそんなこと」
雷風のデータをじっと見ていた慧彼は、口が半開きになっており、盾羽は完全に理解したような顔をして待機中、白夜は経過と同様のリアクションをしており、霞、風月は盾羽と同じリアクションをしていた。
「だいたい内容はわかりました。頭に入れて明日は動きましょう」
「最後に1つ。月天は多分、大規模な行動を始める。それを頭の片隅に置いた上で行動しろ。もし、近くにいるようならすぐにそこへ向かって討伐を開始しろ。そして白夜」
「はいなんでしょうか」
急に話を振られたため、白夜は焦り、雷風に対して接客のように返事をしてしまった。
「お前は常時アクセルモードになっとけ。それ用にアトミックアニーも改造しておく」
「あ、ありがと」
「ちょっとパスは切るけど、それは気にすんな。改造済ませたらすぐにパスは繋がるはずだ」
「それならいいや」
雷風は白夜からアトミックアニーを渡され、部屋へ戻った。白夜は任せたと言わんばかりな顔をしており、雷風はそれほど信頼されていた。
「さて、私達も寝よう」
風月の声で、全員が歯を磨きに行った。




