90GF 天涯孤独を満たした存在『文化祭』
探知をしていた雷風の後ろから、楓はバックハグをした。
「雷風がどんな過去を送ってきたのかわかったよ。雷風がどんな顔をして今を生きているのかはわからない。けど、拠り所ぐらいはあった方がいいでしょ?」
「拠り所……、……か」
雷風は今までの過去を振り返った。姉である風月が攫われてから、雷風は13年間孤独であり続けた。他人の温もりというものを忘れていた。人に親切にされるということが、優しさを齎してくれることの嬉しさが。それは楓も同様だった。他人から優しくされたことはなく、優しさを齎してくれる者はいなかった。だが、自然とわかってしまう。雷風がどうしてほしいのか。雷風が何を考えているのか。それがわかった上で、楓は最善の行動を取ったのだ。
「ありがとう。……楓」
雷風は右手で楓の頭を軽く撫で、優しく言った。雷風は微笑んでおり、嬉しそうだった。
「……うん」
楓もまた、微笑んでいた。
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2日目の夜、伊舎那天と月天は大きめの路地で話していた。
「私は少し上の方で準備をしておきます。用があれば通達を」
「わかった。……失敗するなよ?」
「わかってますよ。誰だと思ってるんですか」
「頭が回るチビ」
「あんたがデカすぎるだけなんですよ」
月天は上空へ飛んだ。
ビルの屋上。そこには、伊舎那天を見ている風月がいた。
「敵……。この雨なら気づかれることはそうない……。……潰すなら今が好機」
風月は刀を抜き、伊舎那天に向けて斬撃を放った。およそ15kmの距離を音より速い速度で移動する斬撃は、ギリギリのところで伊舎那天に気づかれた。槍を生成して斬撃を弾く。その時に鳴った金属音は周囲に大きく響いた。
(足音は聞こえねぇけど、場所はだいたいわかった)
風月は気づかれたと思い、走りながら伊舎那天に向けて斬撃を放ち続けた。それを全て槍を使って弾き続ける伊舎那天。そして、風月が伊舎那天の近くのビルにまで移動した時、伊舎那天はビルの屋上まで跳んだ。
(敵は近い。断罪者であることは確実なんだが……、戦い方がちょっと面倒くさそうだな……)
伊舎那天は風月の背後を取り、突きを浴びせようとした。突きを浴びせようと槍を前に出した瞬間、どこからか斬撃が飛び出して槍を切断した。それを伊舎那天が視覚で確認した時、既に両腕が切断されていた。
(どういうことだ……?)
(応用でこういうことができるのは知ってたけど、初見殺しには丁度いいね)
風月の能力である斬撃。それは、斬撃を飛ばすだけではなく、斬撃の色、斬撃を飛ばすタイミングを調整できるため、あらかじめ飛ばす方向に刀を振って斬撃を作り、色を無色透明にした上で任意のタイミングで飛ばすように設定すれば、今のような初見殺し技ができてしまう。それを全く知らない伊舎那天は、混乱していた。
(どうなってるんだ? 周囲に敵はいない。ということは確実にこいつが攻撃をした。なら何故動いていないはずなのに攻撃が当たっている?)
(……今こんなこと考えても仕方ない。初見殺し技は回避すればいい)
風月は振り返りながら伊舎那天の核に向けて刀を振ると、伊舎那天は高速で左腕を再生させて槍を生成、刀を間一髪のところで止めた。伊舎那天は続いて体全体を再生し、後ろへ跳んだ。同様に、風月も後ろへ跳んだ。
(この女……、まあまあやるな……)
(この人造人間……、身長高い……)
風月と伊舎那天は同時に着地し、伊舎那天は正面から突っ走った。それを見越して、風月は後ろへ下がっている途中に斬撃をある程度設置しておいた。
(一斉発射)
風月は設置した斬撃を一斉に発射させた。それを1つ1つ弾きながら速度を保って突っ走ってくる伊舎那天に、風月は少し尊敬の念を抱いていた。
(……すご)
伊舎那天はもう片方の手にも槍を生成し、上へ飛び上がってから急降下し、槍による高速斬撃を浴びせた。だがその直前に上へ跳んだ風月には当たらず、槍を振っただけになった。
(とりあえずあのクソデカ人造人間とは距離を取れた……)
すると、目の前から光線が飛んできた。それをギリギリで確認した風月は、光線を弾き飛ばした。
(この光線は雫の能力じゃない。ならもう1人の月のやつ?)
光線を飛ばしている元を見ると、月天がポケットに手を入れて風月を見下していた。月天の後ろには小さな月があり、その月から大量の光線が放たれていた。
(こんなに量があるならちょっと大変だなぁ……)
風月はビルの屋上に着地しても尚、後ろへ下がりながら光線を弾き飛ばしていた。
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「よぉ、また会ったな」
「お前は……」
「月のやつはいねぇのか」
「生憎用事でな」
「それは残念。じゃ、とりあえずお前殺す」
「やってみろ。昨日の俺とは違う」
雷風と伊舎那天は戦闘態勢に入った。そしてその瞬間、雷風がものすごい速さで距離を詰めて伊舎那天を蹴り飛ばした。
「何のために力を使うのか。ようやく決まった俺は強いぞ」




