86GF 2日目開幕『文化祭』
2日目、台風が接近していた。そのため、文化祭は中止になると思われた。だが、仙台市は決行することを発表し、異例の2日目が始まった。
(……バカかよあの市長)
もちろん、外に出る人など誰もいなかった。風は強く、雨が降り、地面は濡れて、服も濡れるリスクもある。その中を歩きたいとは誰も思わず、家に篭っていた。
だが、雷風達は外に出て護衛を継続していた。昨日話した会議、その内容が外へ出させる要因になっていた。十二神がこの文化祭で暗躍していること、そして交戦したことで得た情報、それがあって何故家に篭っていないといけないのか、不思議で仕方がなかった。
〔敵を見つけたら即座に殺せ。例えどんな敵であっても躊躇うなよ。今日は人気がない。だから今のうちに数を減らしておけ。いいな?〕
〔了解〕
雷風達は担当区の中で適度に散らばり、ロストエネルギーを使った探知を開始した。だが、太白区にいた風月と霞は違い、密集した状態でいた。
「まず、雨だからこの区内は完璧に守れる」
「確かに。じゃあ私何もしなくても……」
「いや、もし十二神の槍使いが来た場合、私の遠隔操作だけじゃ倒すことはできない。だからその時に動いて」
「なるほどね。とりあえず、私は万全の準備をしてればいいってことね」
「そういうこと」
霞は自身のロストエネルギーを球場に広げ、太白区を覆った。
(準備は完了。後はセンサー用のロストエネルギーと能力用のロストエネルギーを散布するだけ……)
霞は太白区全体に、自身のロストエネルギーを放ち、探知を開始した。
(人造人間が873体で全員離れている。この行動は……、全部単独行動。つまりは誰からの指揮を受けていない状態の人造人間。一気に殲滅してしまっても問題は無いか)
霞は873体の人造人間のいる地点を確認すると、その近くにあった水分を使って核を貫いていった。それはほんの一瞬にして行われたことであり、周囲から浴びせられる不愉快な目がなかったことで、霞は大胆に人造人間を能力を使って殲滅することができた。
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一方、楓はピンク色の長い髪を後ろで1つに縛り、全身を黒の服に着替えて黒のコートを着ていた。雨なため空は薄暗かったため、地上やビルから楓の姿が見えることはなかった。
(人造人間がいるとしたら話は別。真祖を失う事態になったら、この世界が歪んだ結末になっちゃうからね)
楓は右ポケットに右手を入れると、その中に入っていた1つのフェイルチーターを取り出した。
(私のフェイルチーター……。なんで私が持ってるんだろ……。フェイルチーターは真祖にしか使えないパーツ。そのパーツを私のような部品が持っても意味が無い……。いや、私はこの計画には必需品か)
(そんなこと考えてても仕方ない。私は私でできることをするだけ……)
楓は目を閉じ、人造人間がいる場所を探った。ロストエネルギーをソナーのように展開し、人造人間の場所、人造人間の数、行動が手に取るようにわかった楓は、それの殲滅にあたった。
(ここは確か若林区。太白区にも人造人間はいるみたいだけど……、すぐに反応は消えた……。誰かが人造人間を殲滅している……。ならするべき区は若林区だね)
楓はホテルの屋上から飛び降り、音なく地面に着地した。
(雨の操作はできるけど……、それで無駄な犠牲が生まれちゃうのも嫌だから……。それに私はドイツ軍の指令がない状況で行っている……。だからそれほど責任は自分で負わないといけない……)
楓は考えながら走っていると、あっという間に人造人間達が屯っている路地裏に着いた。
「何!? 断罪者か!?」
「早く戦闘体勢に入れ!!」
(ここは非情に……)
「残念だけど、今のあなた達の存在の価値では自由は手に入れられない」
「……は?」
人造人間達は楓の言葉に疑問を持った。存在の価値という言葉、その真意が何を表すのかが理解できなかった。だが、そんなことを考えている時間はなかった。
「考えるなら考えなよ。どっちにしろ、あなたたち全員の死は確定しているわけだからね」
楓は腰に携えてあった刀を抜き、一瞬にして30体程の人造人間の核を1つずつ斬った。
(次の場所は結構離れてるけど、だいたい100体くらいかな……?)
楓はビルの屋上まで一瞬で移動し、次に襲撃する場所に向かってビルを伝って移動していった。
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雷風は昨日と同じく、避雷針の上に立って宮城野区、若林区を同時に護衛していた。すると、ある者が1つの人造人間の集団を殲滅したのだ。それを不思議に思い、その者の動向を注力して探知するようにした。
(やっぱり……、人造人間をありえない速度で殺し回ってる……。これはいったい、どういうことだ……? 人造人間だという識別もない、かと言って人間の出せる移動速度じゃない。それに人造人間を殲滅するほどの力があること。これがどうにも不思議で仕方がない……)
100体程集まっていた人造人間を、その者はまた一瞬で殲滅したのだ。それに違和感を持った雷風は、その者の元へ向かった。その選択は正解なのか、それとも不正解なのか。それは、本人たちの心に問うことでしか確認することはできない。




