83GF 戦闘重ねる『文化祭』
「……あれが断罪者か」
伊舎那天は脅威的な視力により、避雷針の上に立っている雷風を視界に捕捉した。路地裏に移動した伊舎那天は右手に槍を生成し、跳び上がりながら槍を投げる体制に入った。
(50km先、高度は117m。この力と向きなら空気抵抗と重力の関係を利用して直撃させれる)
伊舎那天の右手から放たれた槍は、まっすぐ雷風の元へ向かっていった。投げた際に入れた力はとてつもないほど強く、槍の向かう速さで衝撃波が生まれていた。
雷風は伊舎那天が跳んだ際に気づき、刀を抜いていた。そして直撃する直前に、雷風は後ろを向きながら槍をはたき落とした。
(この威力……、十二神の誰かだな)
雷風は投げられた槍の速さ、向きから推測して、伊舎那天のいる地点へと直行した。その際、雷風の姿を見ている者がいた。
(雷風……? あんなに急いでるってことは……、この仙台で何かあった……? 向かった方がいいかな……?)
(いや、今接触したらドイツ軍に戻った際何か問われるかもしれない……。私はなるべく関わらない方がいい)
楓は酷く冷静だった。
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伊舎那天が着地すると、雷風は伊舎那天の目の前まで来ていた。伊舎那天は左手に槍を生成し、雷風が放つ斬撃を槍を右から左に振って躱した。それと同時に伊舎那天は後ろへ跳んだ。
(こいつはヤバい……!!)
伊舎那天は防衛本能で後ろへ跳んだのだ。その癖はある程度の実力に達したものなら1回は体験するものであり、自分より圧倒的に上のレベルの者と相対した時に、無意識に行ってしまうだ。
(この人造人間……、確かに強いが癖が抜けてない戦闘だな。多分、理性と本能が混合した深層心理がこの体を支配している……。ということは……)
雷風はその動き1つ1つから、伊舎那天が行う次の行動を予測していた。
(こいつの能力は槍を生成する能力だと思う。それに対応する次の行動は、右手に槍を生成して、さっき槍を振った時の勢いを利用した突きの攻撃……)
雷風の予想通り、伊舎那天は右手に槍を生成し、雷風の放つ斬撃を躱すために槍を振った勢いを利用し、右手にある槍を雷風へ突こうとしていた。雷風は左手に刀を持っていたため、刀を槍に沿わせて突きを回避した。
(なんなんだこいつ……、強すぎる……!!)
伊舎那天は、今まで体験したことのなかった強さを体験すると同時に、無表情で攻撃を続ける雷風の行動を予測することができなかった。
雷風は着地すると、前傾姿勢をしたまま居合の体勢を作った。伊舎那天が着地すると同時に、雷風は刀を振った。それに対応するように、伊舎那天は防衛本能により瞬時に上へ跳んだ。伊舎那天は着地からコンマ1秒もかからずに跳んだのだが、それでも両脚を膝下まで切断させられた。
(居合の速度が……、……速すぎる!!)
(防衛本能がこいつの邪魔をしている……。なるほどな。つまりはこいつ、改造される前から戦闘が身についている、根っからの戦闘狂か)
上へ跳んだことで少しの猶予が与えられた伊舎那天は、月天が近くにいることに気づいた。月天は伊舎那天の脅威的な聴力を利用し、話しかけた。
「何をしてるんですか。伊舎那天」
「悪い。けどあいつ、強いぞ」
「空中なら引力には敵わないよ」
月天も同じく、脅威的な聴力を持っていた。
雷風は伊舎那天を追いかけようと全力で跳んだ。だがその時、雷風は地面に叩きつけられた。突然叩きつけられたため、雷風は一旦思考を停止してしまった。
(……は?)
雷風は思考を開始し、能力だということはわかった。だが、何の能力なのか全く予想ができなかった。地面に叩きつけるだけなら地震の速度を極限まで上げることで自身の姿を見えなくし、雷風へ蹴りを入れることで可能だ。だが、蹴りを入れられたような痛みはなかった。殴られたような痛みもない。あるのは地面に叩きつけられた痛みのみだ。そして、地面から全身を引っ張られているような感覚だった。
(……引力? なら斥力も可能なのか……?)
ニュートンが発見したニュートンの法則。そこから推測される引力と斥力は、日常生活の中にもある。それには地球が発している重力が関係しているのだが、それを操作する能力だと雷風は予想した。
一方、伊舎那天と月天は会話をしていた。
「宮城野区は諦めてください。暗殺者がいる限り侵略することは不可能です」
「じゃあ他の区に飛ばせよ」
「わかりましたよ……。じゃあ、青葉区でいいですか?」
「ああ」
月天は小型の月を青葉区の空中に生成し、伊舎那天に対して全力で引っ張るように設定した。すると、伊舎那天は一気に青葉区へ飛んだ。月天は小型の月を消滅させ、伊舎那天を最初に引っ張った力だけで青葉区の中へ侵入させた。
雷風はそれの一部始終を見ており、自分を地面に叩きつけた能力に確証を持つことができた。
(小型の月を生成して、引力を設定したりできるのか……)
伊舎那天は青葉区の路地裏に着地した。周りを壊すことなく着地した伊舎那天は、周囲の探索を開始した。
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「……聞こえた?」
「はい。着地する音ですかね……?」
「多分そうだと思う……」
「そう遠くないはずです。急いで向かいましょう」
慧彼と盾羽は、着地する音に発生する微かな音を聞いていた。その音の発生源へ向かった2人は、能力を発動しようとしていた。
(……誰か来るのか? しかもこの速さ……、敵の人造人間なのは確定だな。……ってことは、これは断罪者か)
慧彼と盾羽が音の発生源に到着すると、伊舎那天がいた。
「さて、ラウンド2か」
「私たちはラウンド1だけどね」
慧彼は能力を使用して大量に槍を空中に生成し、盾羽は右手に大剣を生成した。軽いがとても硬い性質の金属を採用しているため、意外に振りやすい大剣なっている。
(相手は量産性の槍……。しかもひとつひとつがちゃんと設計されている……。そしてあの大剣。軽々と持ってるから軽いんだろうが、見た目から考えるとあれは硬い……。これはちょっとやべぇな……)
伊舎那天は右手に槍を生成した。




