80GF 再会の場『文化祭』
9月26日、夜。夜になると、文化祭の仕事をしていた生徒達が祭りを楽しむ。そのため、歩いている人の量が倍増するのだ。
雷風は歩行者の行動全てを把握し、怪しいと思っている者を予めマークしていた。そして今、その者が治安を脅かす行動を始めようとしていた。
(若林区側か)
雷風は目に止まらない速さで、避雷針の上からそこへ向かった。この護衛任務において、犯罪者や人造人間には慈悲を与えず、迅速に、的確に始末しなければならない。慢心など以ての外。雷風はそれがわかっており、楽しむ時間や知り合いと話す時間、立ち止まって悩む時間、他のことを考える時間を作らなかった。
(誘拐事件か……? 人造人間はいない感じか。よくある誘拐事件だな)
人気の少ない路地で女性3名を車に乗せようとしている男6人組が見えた。人造人間かどうか確かめるために、探知用のロストエネルギーを男6人組に放った。だが、男6人組はそれに反応することなく、犯行を続けていた。それで男6人組は人造人間でないことがわかり、雷風はその路地に着地すると、男6人組に向かって走り、首を切り落とした。
「人気の多いところを歩け」
雷風はそう言い残し、ビルの屋上まで跳んだ。避雷針から飛び降りてから、たった3秒の出来事だった。その時間の2.9秒を、喋っている時間に使っていたのだ。その一瞬のことに、女性3名は唖然としているだけだった。そして、死体を見た時にそこを離れて大通りへと走って逃げていった。
(やっぱり……、夜になるとこういう犯行は増えるよな……。警察も動いているらしいが、俺たちがいなかったらこの犯行はほぼ確実に成立してたな……)
(こんなに反抗が起こるってわかってるなら最初からすんなよ……)
雷風は改めてこの任務の重要さに気づき、それと同時にこの祭りの中止を願った。
雷風はまた避雷針の上まで戻ってくると、気配察知を再開した。
(犯罪ってのはだいたい連続して起こるものだ。綿密に行っている犯行時刻は被る。だから……)
〔警戒しとけよ。これから犯罪が増え出す〕
〔了解〕
雷風は無線で全員に伝えると、気配察知に集中した。
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ドイツ軍最高戦力であるセフィロト。それは圧倒的な力で、世界各国に圧力をかけれる程の力である。その1人であるビナーこと美澄 楓は、宮城県仙台市宮城野区にいた。その目的は、仙台市全体で行われる文化祭に参加するためである。毎年この祭りに参加している楓は、休戦の期間にたまたまこの祭りの日程が被ったために、ドイツ軍の最高司令官であるマルクトの許可を得て参加しているのだ。
そして今、屋台で食べ物を買った楓は、少し人気の少ない公園でそれを食べようとしていた。
(おいしそう)
「いただきまーす」
まず初めに食べたのはたこ焼きだ。至って普通のたこ焼きなのだが、祭りの時に食べるたこ焼きは何故かおいしい。それを楓は、身をもって体験していたのだ。
(やっぱり、こういうところで食べるものって何でも美味しく感じるんだよね)
楓は1人で味に浸っていると、あっという間にたこ焼きがなくなってしまった。
(あ、もう無くなっちゃった……。やっぱり8個入りじゃなくて12個入りの頼めばよかったかな……)
楓はチョコバナナを持ちながら立つと、着ていた着物にシワがついていないか確認した後に、屋台が沢山ある大通りへと向かった。
(祭りの醍醐味って、やっぱり食べ歩きできるところだと思う。普通だったら食べ歩きって行儀が悪いみたいなイメージあるけど、祭りとかだったらみんな食べ歩きしてるから、周りの目を気にすることなく食べ歩きできるんだよね)
(けどなぁ……、なんでか周りの目が全部私の方を向いてる気がする)
楓は周りから見られていた。それは軽蔑でもなく、特異でもなく、共感性羞恥でもなかった。周りから「美しい」と見られていたのだ。それに気づいていない楓は、恥ずかしいと思いながらも歩いていた。列に並んでいる時は、そこから逃れることが出来ないためいちばん恥ずかしい時間であった。
(……にしても見られすぎだって私。恥ずかしいんだけど……)
楓が買う番が来た。そして焼きそばを注文すると同時に、店員に小声で聞いた。
「あの……。私の見た目、何かおかしいところでありますか?」
「いや、全くないよ。唯一おかしいとこと言えば、べっぴんさんってくらいだね」
「いやいや、そんな事ないですよ」
「ピンクのロングヘアーが着物とマッチしててさ、スタイルもいいからモデルさんかと思ったよ」
「本当にそんなことないですよ」
「ほら、焼きそば」
「ありがとうございます」
楓は400円丁度払い、その場を急いで去った。
(私がべっぴんさん? モデルに見える? そんな事ない……。私は戦場で1人孤独に戦ってた女……。それに真祖の姫。雷風を見つけるまではただの戦闘マシーンにしかなれない……)
着物で走りにくくなっているため、本来のスピードが出せなかった。それを追いかける4人組の男がいた。それはいやらしい目で楓を見ているわけではなく、ただの道具として使うことしか考えていないような目であった。
「あいつは使えそうだな」
「そうだな。これで月天様に認められそうだ」
「鬼頭 雷風を誘い出す餌としてなあの女を使う。いい作戦じゃねぇか」
「でしょ? 兄貴」
「とっとと捕まえろ」
「人が邪魔なんですよ……」
「ここで殺るのは良くない。避けて行くか」
小声で話しながら走る4人組の男。その男たちの標的である楓は、少し人気の少ない路地へ移動していた。
(走りにくい……。流石にこの服装で走るのは疲れるね……)
膝に手をついていた楓の前に、4人組の男が現れた。
「おい、顔見せろや」
「……誰ですか?」
「呑気か。まあとりあえず、お前には人質になってもらう」
「人質?」
(軍人の私が人質……。この男たちは全員人造人間……。まさか……、ね……)
楓は考え事をしていると、なんの音沙汰もなく目の前に1人の男が現れた。服、ズボン、髪、瞳、コート、靴、手袋、靴下、その全てが黒で染まっており、唯一黒くなかったのは顔の皮膚だけであった。顔の皮膚は白く、それ故に異質だった。腰には刀があり、一瞬にして4人組の男の核が斬られて消えた。
「ちょっと待って!!」
「……どうしました?」
その男は止まった。
「名前だけ聞いてもいいですか?」
「……鬼頭 雷風」
雷風は目の前から消えた。
(雷風……、ようやく会えた……。)
楓の心は、雷風に会えたことでできた嬉しさと、雷風が何をしているのかということを知ったことでできた安心感で埋め尽くされていた。
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雷風は先程助けた1人の女について、疑問があった。
(なんで俺の名前を聞いた?)
不思議で仕方なかった。




