79GF 開幕した『文化祭』
9月26日、文化祭一日目が始まった。前日までは普通の町だった仙台市も、屋台が町中に設置されていかにも「祭りが行われる町」となっていた。通常の祭りは夜に行われるため、昼に屋台を設置をするのだが、この文化祭は朝から夜まで行われる祭りなため、深夜3時から用意しているのだ。その中を登校する生徒達は、かなり人混みに飲まれて移動がしづらくなっており、人混みに飲まれたくない生徒達は早く登校するのだ。
「さっさと食っていくぞ」
雷風は黒のコートを着て、全身が黒になるような服装になっていた。
「先出とく」
雷風は家を出ると、宮城野区に向かった。ビルの屋上を伝って走るのはいつも通りだったが、雷風の面構えが違った。十二神が文化祭で動くことが、火天から渡された焔摩天のフェイルチーターで明らかになっていた。
(運命を見る能力が入っているフェイルチーター……。だが実際は近い未来の予見。つまりは未来視。この能力は使いようによっては化けるが、能力しか使わないタイプのやつにとっては宝の持ち腐れになるやつだな)
(このフェイルチーターを使って見た未来、それにはこの文化祭についてはなかった。それより先の未来だったってことは、俺はこの先警戒しながら動くだけでいい……)
(だがこれは俺以外の行動で全てが変わる可能性がある……。もしかしたら、俺以外の全員が死んでいる可能性すらある。だからあいつらには何も伝えない。そうすればこれと全く同じ結末になる)
(つまり、この文化祭で俺たちが負ける可能性はない)
雷風はそう思いながらも、自分ができる最大限の行動はしていた。100mを超えるビルの屋上、その避雷針の上に立っていた雷風は、ロストエネルギーを使った探知を行わず、気配だけの探知を行った。今回の防衛は、単なる十二神からの襲撃を防ぐためだけではなく、観光客を守らなければならないのだ。祭りの最中に行われる誘拐事件を未然に防ぐために、雷風は人間の犯行を含むと考えて気配探知を行っているのだ。
(集中すれば2区くらいは行ける……)
雷風の気配探知は、宮城野区と若林区の合計の広さである約109km²をまるごと覆うほど広く、正確だった。
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白夜と雫は泉区の防衛をしていたのだが、夏休み中に改造したアトミックアニーは、人の気配すら感知できるようになっていたのだ。つまり、白夜はアトミックアニーに探知を任せ、文化祭を楽しんでいた。
白夜と雫は、非常に完成度の高いお化け屋敷にいた。また、ストーリー性のあるお化け屋敷なため、怖さが倍増していた。
「ううああぁぁぁ……」
裏から呻き声を上げると……。
「うぅぅわあぁぁぁ!!」
無意識でビックリしてしまうのだ。それを後ろから見ている雫は微かに笑っていた。
「驚き方やっぱり面白っ……」
「しょうがないじゃん」
「しょうがないにしても面白いってそれは」
白夜が驚く姿をからかう雫。雫からするとお化け屋敷を巡っている時間は短かったが、白夜からすると果てしないほど長かった。
「ああぁ……、やっと終わった……」
「どのくらいしんどかったの?」
「人体実験並み……」
「しんどいのレベルとうの昔に越してるじゃん」
床に手を着く白夜を、どうにかして引っ張って動かそうとする雫。まるで全く動かない犬を動かそうとしている飼い主のようだった。それを想像した雫は、白夜に話しかけた。
「おーい、行くよワンちゃーん」
「ワン!! ……って言うと思った?」
「言ったじゃん。しかも結構犬っぽく」
白夜達は、アトミックアニーからの警告を待つのみだった。
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青葉区にいる慧彼と盾羽は、仙台駅前にいた。仙台駅前にはたくさんの企業がブースを設置しており、サイン会なども行われているのだ。コミックマーケット的なものもできる空間でもあり、売れている同人誌や同人漫画は、この仙台駅前のブースで売られているものがほとんどである。
「買いたかったものあるんだけどさ、いい?」
「まあ、いいですけど……。青葉区上空からは監視してますから……」
「まさかこんなところまで応用できるなんて思わなかったよね」
「霞さんのお陰ですよ。私の能力の幅がここまで広がったのは」
「あー、例のアレ? 能力増強とかいうやつ」
「それです」
「あれね、とっくの昔に盾羽以外やってたんだよ」
「……え?」
「盾羽のやつは能力の相性的に迷ってたんだって」
「意外と考えてたんですね……、あの人……」
「じゃ、行ってくる」
慧彼はある同人作家の元へ行った。そして同人誌を買ってきた。
「なんですか? これ」
「最近ハマってるんだよ。この同人誌」
「『荒波の方舟』って言うんですね」
「そうそう。オススメだから読んでみて」
「わかりました。違う日に読んでみますね」
慧彼と盾羽は仙台駅から離れ、青葉区の様子を見に行った。
「人、多いね」
「いつもならありえないですもんね。これも1つの非日常っていうものなんでしょうかね……」
「自分から人気が少ない場所に行くんじゃなくて、周りが沢山自分達の住んでいる町に来る……。何もかもが真逆じゃん」
「それもまたひとつの楽しみなんでしょうかね……」
ビルの屋上から歩いている人達を見ていた2人は、人気のないところに着地すると、そこから大通りに出た。
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風月と霞は、太白区の商店街にいた。そこにも大量の人がいたが、大通りほど多くはなかったため、移動には困ることは無かった。だが、多いのには変わりないため、多いことについて話し合っていた。
「人が多い……」
「確かに多い……」
「一旦出る?」
「そうしよう」
商店街から路地に出た風月と霞は、探知について話し合っていた。
「私たちってさ、唯一探知とか出来ない組じゃん? だからさ、広さじゃなくて精度で差をつける?」
「なるほど。ならそれでいいんじゃない?」
「よし決定。じゃあ今から気配探知は常時でOK?」
「OKOK」
2人は、遊ぶよりかは遊ぶ子供を見ている方が好きな人種であった。




