75GF 真祖へのオトメユリ
9月8日。神月自ら率いた、総数700万体の義勇軍がドイツに侵略した。大きく3つの師団に分かれており、毘沙門天が統率する400師団と、日天が統率する400師団、そして、神月が統率する600師団である。
(俺の擬似真祖化は完全に成功している……。期間は短かったが、ブレイクエナジーが体にどんどん馴染んでいる。毘沙門天も日天も、体のあらゆるところを調整してセフィロト程の力はつけた……。まあこれが限界だが。攻め込むなら今しかない)
「今から、全面的にドイツに侵略する。三銃士はイギリスの方を相手しているから共闘は困難だ。だからこそ、ドイツ側を降伏させることで西側からの圧力を少しでも減らす」
「これは世界戦争だ。世界での地位を考えながら戦わなければならないのが普通だが、俺達はどこからの義勇軍なのかわかっていない。だから、俺達はフランスのことだけを考えて戦えばいい」
「つまりはだ、お前らはドイツを潰すためなら何をしてもいい。だが、敵を見つけたら全力に殺しに行くのではなく、戦略を練った上で戦え。もしドイツ軍が何の戦略を取らずに武力一筋で来た場合は、罠を張り巡らせろ。いいな?」
「了解」
義勇軍全体は、神月の言葉に賛同した。そこから戦闘態勢を保ったまま進軍するスピードは速く、パリからドイツ国境にまで着くまでに2日もかからなかった。
ドイツのザールラントにあるザールルイザー山の頂上にいたビナーは、日天が率いる400師団の人造人間が進軍しているところを見つけた。そして、先頭にいた人造人間がドイツ領土に入った瞬間、ビナーは頂上から消えた。
(あれが敵……。1体は結構強いけど……、あの人造人間以外は雑魚かな)
ビナーは能力を発動させると、土を限界まで固くしてドリルを大量に作った。そのドリルを高速回転させた状態で、400もの師団に向けて放った。縦横無尽に放たれるドリルに、成す術もなく殺されていく人造人間達。だが、日天と4体の高度能力兵はドリルが放たれる前に上へ跳んでいたことから、襲撃から逃れる事ができた。
日天達は、ただただ無惨に死んでいく人造人間達を見ると、少し離れたところに1人、自分たちの方向を見ている者がいた。
(あいつ……、何者だ……?)
日天達がそう思っていると、上から突然雷が落ちた。積乱雲はできていないのだが、何故か雷が落ちたのだ。雷は4体の高度能力兵に直撃し、地面へと落ちていった。
(好機)
ビナーは、宇宙で最も硬い物質と呼ばれている核パスタを原料とした刀を生成し、ロストエネルギーとブレイクエナジーの混ざった物質を流した。
(もうこれ腰にさしててもいいかな……?)
(刀か……? なんでドイツ軍が……)
日天がそう思っていると、視界の中心に捉えていたはずのビナーが姿を消した。
(は!? 消えただと!?)
日天はすかさず高度能力兵の方を見ると、そこには視界から消えたはずのビナーがいた。刀で4体の高度能力兵の核を同時に貫いており、ドリルに使った土を使って空中に足場を生成していた。
「死ぬ準備、できました?」
ビナーは構えた。それに応えるように日天も構えた。
「できてるわけねぇだろ。俺は死ぬつもりで来たんじゃねぇんだよ」
「なるほど。なら少し『遊びます?』」
「戦争舐めてんじゃねぇよ!!」
日天は地面に着地すると、ビナーも土を柔らかくして降下し、着地した。すると、日天は右手で殴りかかった。ビナーは殴りかかってくる腕を、自分から離れるように右手を使って逸らすと同時に、左手でみぞおちを殴った。
(遊びって言いましたけど……、死ぬ準備をさせるまでの前座なんですけどね……。ドイツ軍の通例は他の軍には通じないんですね……)
ビナーはすかさずしゃがんだ体制になり、足を伸ばしてから日天の足元を蹴った。日天はそれによって足元をとられ、転けそうになった。
(地面にはつかせませんよ)
ビナーはその体制のまま、日天の背中を上へ蹴り飛ばした。ビナーは、毘沙門天が率いる400の師団がいると予想していたかのように北へ飛ばした。
(これなら……、毘沙門天さんと共闘できる……)
「あなたはこう思いましたね? 『援軍と戦える』と」
その時既に、日天の目の前にはビナーがいており、毘沙門天が通るはずの道路へと空中から蹴り飛ばされ、叩きつけられた。
(嘘だろ……。こいつ……、何者なんだ……)
「私が何者なのか……。ですか?」
心を読んだかのように日天に話しかけるビナーの姿は、日天からすると不気味で仕方なかった。それには感情が全く籠っていなく、心の中が空っぽのように喋りかけられているからだ。その状態で心を読まれ、会話させられるのだ。それはもう、不気味以外の何者でもなかった。
「『真祖の姫』ですよ」
(真祖の姫だと!?)
日天はその瞬間、負けた。ビナーの持っていた刀は、日天の核を突き刺していたのだ。
「まさか……、敵だとはな……」
日天はそう言い残し、灰となって消えた。ビナーはその意味を探ろうとしたが、目の前には合流していた毘沙門天と神月の合計1000師団の大軍がいた。
(私があの子のことについて考えようとするといつも邪魔が現れる……。……とりあえず今はただただ邪魔だから『とっとと殺す』)
ビナーは土を限界まで固くして巨大なドリルを生成した。それを一直線上に放つと、一直線上に並んでいた人造人間達は全員灰となって消えていった。そして、毘沙門天と神月だけは上へ飛んだことでドリルによる被害を回避していた。
「あれは真祖の姫か」
「能力が物語ってますね。あれはやばすぎます」
「やれるか?」
「多分、私だけでは無理だと思います」
「なら俺も戦う。なんせ、真祖の姫に対抗するために俺の体を擬似真祖に改造したんだからな」
「そうでしたね」
毘沙門天は巨大化し、すぐに着地した。
「おい!! 巨大化はするな!!」
神月の忠告は遅かった。ビナーは毘沙門天の体をバラバラに切り裂き、核すらも切り裂いていたのだ。
「あなたが擬似真祖ですか。試させてもらいますよ」
ビナーは能力を発動し、強制的に天候を雨に変更した。そして、雨水を音より速いスピードで神月の体に飛ばした。飛ばした数は分からない。だが、神月は成す術もなく体が穴だらけになっているのだ。
「確かに強い……。だが、これで真祖の姫を名乗るには早いんじゃないか?」
神月はブレイクエナジーを使って、体の再生速度を速くした。そして体に穴があこうと関係なくビナーに突進した。
(動きは素人。ですがスペックは確かに擬似真祖……。この戦争のためだけに擬似真祖に改造した……、という感じですかね……)
「もう悪足掻きはやめてください。惨めです」
ビナーは、神月が走ってくる地面の土をドリルにし、核めがけて放った。すると、見事に神月の核に刺さった。
「最後に1つ、質問いいですか?」
「なんだ」
擬似真祖の死に方は至って普通の人間と変わらない。それは真祖も真祖の姫も同じである。だが、死ぬ前に痛覚がないのが擬似真祖の特徴である。つまり、死ぬ前であってもスラスラ話すことが出来る。
「日本に『真祖』はいますか?」
「ああ。いる。圧倒的な力をまだ自覚せず、人間として生活をしている男だ」
「なら名前を教えてください」
「……わかった。コードネーム、暗殺者。鬼頭 雷風だ」
そう言うと、神月は力尽きた。ビナーは神月が力尽きたことなど見ず、人間として生きている雷風の存在に興味が湧いていた。
「真祖である鬼頭 雷風……。それがあの子……。会ってみたいな……」
ビナーは、いや、美澄 楓は、雷風と会うことを第1目標とした。




