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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第4章 グラジオラスは存在を明確に表し始める
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72GF 覚醒した者が見る1つのアイリス



 雷風は周囲にいる人造人間を殲滅すると、慧羅の逃げた方向を向いて前傾姿勢を作った。そして、雷風は地面を強く蹴って走った。



 (近づいてきてる……。それもすごい速さで……)



 逃げている慧羅でさえも気づいた。ロストエネルギーとブレイクエナジーを混ぜたものに触れてはいないが、それによって感じられたレベルの違いすぎる圧倒的な敵の存在。そう、慧羅は怯えていた。



 (強さのレベルが違いすぎる……)



 釧路市役所に着いた慧羅は、自動ドアが開いたのを確認すると中に入り、ネイソンの向かった方へ走った。



 (見つけた)



 雷風は、自動ドアが閉まる直前にとてつもないスピードで中に入った。その体制は、スピードを活用して足裏から蹴りを放つ、いわゆる飛び蹴りの体制だった。

 一方、慧羅は雷風がすぐ側に来ていることに気づいた。だが、気づくタイミングが遅すぎたのだ。慧羅が後ろを向いた瞬間、雷風の飛び蹴りが慧羅の腹に直撃した。雷風は蹴った瞬間に後ろに跳んだためその場に着地したが、慧羅は蹴りをまともにくらってしまったため、壁に叩きつけられた。



 (これが……、真祖の本気……)



 慧羅は壁に叩きつけられたと同時に、口から血を吐いた。背骨は折れ、内臓にもダメージを負った。そのまま慧羅は床にうつ伏せに落ちたが、雷風を襲おうとする気はあった。



 「そろそろ本気を出させてくれ。裁断 慧羅」



 雷風は慧羅を上から見下ろしていた。それは慢心ではなく、侮っているわけでも、卑しめるわけでも、蔑んでいるわけでもなかった。雷風は、慧羅が全力を隠していると思い、早く全力を出させるために煽ったのだ。つまり、言葉の通りである。



 (マイマスター、すまない……。ここで全力を出さないと、私は私でいられなくなる……)



 自身の存在意義である強者との戦闘行為とネイソンの意思を天秤にかけて尚、自身の存在意義である強者との戦闘行為を優先した慧羅。それは、マイマスターと呼んでいるネイソンヘの裏切りと大差なく、更にネイソンへの冒涜でもあった。



 「殺す」


 「そうか」



 慧羅は能力を使用し、雷風のすぐ前まで瞬間移動した。そのとき、殴るモーションには既に入っており、拳は雷風の目の前にあった。だが、雷風はそれすらも簡単に避けた。避けたと同時に刀を抜き、慧羅の(コア)に突き刺した。刀身は慧羅の(コア)を貫き、床に刺さっていた。



 「どうやら、殺されたのはお前だったようだな」



 雷風は勢いよく刀を抜き、ネイソンの後を追った。



 (あの部屋に奥があるとはな……)



 すぐ前までネイソンがいた部屋には、4体の人造人間がいた。



 「誰が行かせるかよ」


 「お前は絶対に抑えないといけないんだよ」


 「ここより奥は通さん」


 「さて、殺すか」



 4体の人造人間は雷風を囲むように立っていた。そして、一斉に雷風の方へ走った。



 (一斉に殺した方がマシか。俺も楽にこいつらを殺せる。それに時間の短縮にもなる)



 雷風は、同時に襲いかかってくる4体の人造人間を、そこから足を動かすことなく(コア)を切断した。残像すら残さない速度であり、それに(コア)だけを綺麗に切断していた。

 雷風は奥の方へ走った。すると、意外に近いところにネイソンはいた。ネイソンの手元には6個の装置があり、それの最終調整をしているようだった。



 「何をしている」



 ネイソンは雷風に向けてそう言った。ネイソンの気配察知能力は、常軌を逸したレベルに研ぎ澄まされていた。それは、気配を消していた暗殺者の異名である雷風ですら気づかれるほどである。



 「とりあえずここへ来い。お前にとって有意義な話をする」



 雷風は疑ったが、ネイソンのすぐ近くへと向かった。



 「俺を呼んでどうする気だ」


 「とりあえず話を聞け」



 ネイソンは、6個の装置につけられていたケーブルなどを全て外し、それを雷風に渡した。



 「これはフェイルチーターと言う。人造人間の(コア)をこの中に入れることで、その人造人間の能力を使用することが出来る。それと同時に、フェイルチーターを持っている者と、そのフェイルチーターに入っている(コア)の所有者のロストエネルギーは共有される」


 「フェイルチーター……」


 「それがこれだ。これは全てお前の分だ」


 「爆弾とか入ってないだろうな?」


 「俺はお前を殺そうとしているわけじゃない。その逆だ。奴らは俺の言うことをまともに聞かない欠陥品だ」


 「欠陥品か……」


 「そう、欠陥品だ。実際、100万もの死体人形(ネクロマンス)を作ると欠陥品は生まれるだろう?」


 「死体人形(ネクロマンス)?」


 「説明していなかったな。仙台と釧路で戦闘した、お前らが人造人間と言っていた奴らは、全て死体人形(ネクロマンス)だ。まあ、口で説明するよりもこれで見てもらった方が早いな」



 ネイソンは雷風にデータの入ったタブレットを渡した。



 「これが死体人形(ネクロマンス)に関するデータなのか?」


 「そうだ。わざわざタブレットごと渡したのにも理由がある。そのタブレットは他の物をすべて拒絶する。だからデータの転送ができないんだよ」


 「そうか」



 雷風はタブレットの画面に映っているデータに目を通した。



 『死体人形(ネクロマンス)。人間の死体にロストエネルギーを循環させることで、欠損した部分を完全に回復させて生まれる存在。その時、記憶回路や思考回路すらも完全に回復するため、生き返ったような感覚に陥る。そして、ネイソンに対して忠誠を誓うように強制される。基本的には人造人間と同じものだが、生きた体が死体かで変わるのだ。

 ひとつ、欠陥品が生まれやすいことがネックである。体が巨大化してしまった個体が12体、忠誠を誓わずに好き勝手に行動をする個体が4体。

 死体人形(ネクロマンス)を作る一番の要因は、真祖である鬼頭 雷風の覚醒のためである。死体人形(ネクロマンス)の死骸は全て専用の機械に回収され、数多くの戦闘データやロストエネルギーをブレイクエナジーと融合させることで器を最大にまで強化し、それを真祖の力で満たす。そのための部品であることが、死体人形(ネクロマンス)の存在意義である』



 雷風は一通り読み終えると、一つ質問をした。



 「……真祖っていったいなんなのか。それを教えろ」


 「真祖か。確かに真祖本人が真祖についてわかっていないといけないからな。それと同じくブレイクエナジーについても伝えないとな」



 ネイソンは、ブレイクエナジーと真祖について書かれているページに飛んだ。



 「これで読めるだろう」


 「ああ」



 『ブレイクエナジー。ロストエネルギーをηシステム型ロンガルトブレストと電気融合させることで生まれる物体である。主に真祖化に必要なものであり、産まれて半年以上1年未満の人間の体にロストエネルギーを馴染ませた状態で脳に注ぎ込むと真祖化に成功する。産まれて1年以上の場合、擬似真祖として真祖になれなかったアナザーの存在となる。単位はロストエネルギーと同じくGF(ゲアフロー)である。もし、ロストエネルギーの馴染んでいない体にブレイクエナジーを流した場合、体は瞬く間に消滅する。

 追記:ブレイクエナジーには物の威力を増幅させる効果を持つことがわかった。(2013年8月3日)

 真祖。人造人間の王として君臨する存在する者であり、鬼頭 雷風が該当する。それと同時に、真祖の姫が同時に存在する。それには美澄 楓が該当する。真祖は(コア)を完全に破壊されるまで死ぬことはなく、寿命は存在しない。癌細胞はロストエネルギーで破壊され、健康な細胞が新たに保管されるため癌で死ぬこともない。病気の元になるものもロストエネルギーで破壊されるため、病気になることもない。半永久的に生き続けることが出来るのだ。

 真祖はブレイクエナジーを体に流されており、それで人造人間を圧倒的に凌駕する力を手に入れている。だが、それは初期的な強さでしかなく、更に強くなることは可能である。その代わりに能力はなく、フェイルチーターを使用することでその弱点をカバーすることが出来る。真祖の姫である美澄 楓には、自然の能力が与えられている』



 (真祖の姫……、美澄 楓……。それがあの……、女の子の名前……)



 雷風は、あの時の女の子のことを考えていた。何か引っかかるのだ。それが何かなのかはわからないのだが、何かが引っかかるのだ。とりあえず、雷風は考えないようにした。



 「まあ、さっきはすまなかったと思っている。お前の命を売ってこれを探していたんだ」


 「ほぼ死なないとはいえ、それは普通にヤバいやつのすることだ」


 「やばいという自覚はある」


 「なら抑えてくれ」


 「まあ、真祖の姫をドイツ軍に売った理由はわかるか?」


 「わかるわけないだろ。わかりたくもない……」


 「私は当初、真祖の力を使って世界統一を目指した。ドイツ軍を乗っ取り、真祖と真祖の姫という圧倒的な兵を味方につけたらどれほど楽に統一できるか。だが、そんなに甘くはなかった。お前が脱出したからだ。お前が脱出をしたから全ての計画が無に帰った。だから俺は、少なくとも真祖の姫だけはドイツ軍を売り、そして最高指導者を俺にすることで実質的なドイツ軍の統治を行った。そう、大統領の力でだ」


 「それに俺も行けと?」


 「そういうことだ」


 「バカかお前」


 「生憎だがバカになる気は毛頭ない」


 「そうか。なら死んでくれ」



 雷風はネイソンの心臓に刀を突き刺し、殺した。刀を抜くと、そこからは大量の血が。そして雷風は、首を切り落とすことで確実に殺した。顔には返り血がついた。



 「さて……」



 雷風は、目の前にあった死体人形(ネクロマンス)消滅装置を発動させた。そして、自身は真祖として覚醒を終えると、この世界に残存している死体人形(ネクロマンス)の数がどんどん減少していることがわかる。それは数値で、1の位まで正確に表されている。



 (こんなに早く減少するものなのか……、これ……)



 あっという間に0になった。死体人形(ネクロマンス)は完全に消えた。仙台にいる死体人形(ネクロマンス)も、釧路にいる死体人形(ネクロマンス)も、世界中にいる死体人形(ネクロマンス)も。

 


 [全部終わった。今から戻る]



 雷風は慧彼達にそう伝え、データの入ったタブレットと、フェイルチーターを持って仙台へ帰った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方、ドイツ軍最高司令本部にて。11体の人造人間がいた。



 「えーと、出席を始める」


 「学校か」


 「気にするな。じゃ、ケテル」


 「いる」


 「コクマー」


 「さっき突っ込んだだろ。いるわ」


 「ビナー」


 「ここにいます」


 「ケセド」


 「うぃーっす」


 「ネツァク」


 「呼んだか」


 「ティファレト」


 「この私呼ぶとはァ!! さあ!! 私がここにi」


 「ゲブラー」


 「はい」


 「無視をするなァ!!」


 「ホド」


 「呼んだか?」


 「イェソド……、は私だな。ではマルクト」


 「ああ。ここにいる」


 「最後にダアト」


 「いるっす」


 「早速本題に入る。……フランスに義勇軍が来たらしい」


 「まあ、すぐに潰せばいいだろう」


 「まあそうだが……。それでダアト、お前はここ待機な」


 「何でなんすか」


 「お前はまだその時じゃないんだよ。いざとなった時に呼ぶ」


 「なるほど。待っとくっす」



 ダアトは会議室から出た。



 「このタイミングで義勇軍を派遣するとはな、それもこっちにバレるほど豪快にしているんだろう。今のうちに実力を確認しに行くのもありだ。お前らはどうする?」


 「マルクト様、私は向かうことを所望します」


 「同じく私も所望します」


 「そうか。なら行ってこい。始末できるなら始末してもいい。だがケテル、ケセド。お前らにひとつだけ行くための条件がある」


 「条件ですか?」


 「そう、条件だ。それは、向こうより派手にやることだ」


 「……わかりました!!」


 「……わかりました!!」



 ケテルとケセドは戦場へ向かった。



 「あれでいいんですか? マルクト様」


 「あれでいいんだよイェソド。どちみち始末する者達だ。殺すなら派手にやりたいだろう?」


 「まあ……、そうですけど……」


 「そういうことだ。まあ、好きにやらせておけ」



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