71GF 世界からロベリアを向けられた者達の戦い
巨大な足は、雷風を地上へ蹴り飛ばした。雷風は顔の前で手でXを描き、蹴り飛ばされる時の威力を軽減した。
(咄嗟に防げたものの……。遠くから見たらあの巨体が12体もいんのかよ……)
雷風はビルの屋上に着地し、荒廃した釧路を眺めていた。
(釧路……、13年前に起こった大規模なテロで市民のほとんどは死亡したという、釧路大規模テロ抗争が起こった場所……)
釧路大規模テロ抗争。それは、13年前に起こった大規模なテロ活動であり、たった2日で釧路中にいる人達が殺され、釧路の都市機能を完全に停止させたテロである。警察や自衛隊も動員されたが、それも全て殺された。そのため、テロの全貌がまだ明らかになっていない事件なのである。
雷風は釧路大規模テロ抗争のことが、かなり先にいる12体の巨大な人造人間達を見た瞬間に浮かんだ。
「もしかしたら……、あいつらが……」
雷風はそう思うと、すぐに12体の巨大な人造人間達の元へ向かった。もし、これが日本中に解き放たれると日本中でテロが起こってしまい、後に日本という国が消失してしまうことを意味していた。それは何としても止めなければならない。だから、雷風は最優先で12体の巨大な人造人間達を殺しに行った。
「鬼頭 雷風を背後から確認した」
慧羅と話していた時とは打って変わって、感情の全く籠っていないロボットのように喋って他の巨大な人造人間達に伝えた。それを聞いた他の巨大な人造人間達は、雷風の跳んでくる方向を一斉に向いた。
(気づいたか……)
1番近くの人造人間は、雷風へ向けて手刀を放った。上から降り注ぐ手刀は、遠心力も相まってかなりの破壊力を誇るものだった。だが、雷風は巨大な人造人間の腕を全て斬り落とした。
(なんだと!?)
巨大な人造人間は少し前傾姿勢になって体のバランスが崩れた。それを元に戻そうと動いた時だった。雷風は上へ跳んでいた。上から急降下して切り裂いていく。核を完全に斬るまで切り裂いていくのだ。その斬撃は、残像が残るほどのスピードであり、核に到達するまでに3秒もかからなかった。
(一体討伐)
雷風は核を斬り、巨大な人造人間は灰となって消え、その灰すら消えていった。雷風は、巨大な人造人間が灰となる前に次の巨大な人造人間に飛び移り、核にたどり着くまでひたすら切り裂き、核を斬った。
(能力がないのか……?)
雷風は薄々感づいていた。これほどのパワーを持っているのに、何故能力を使わないのか。この巨体と能力を組み合わせれば、雷風相手でももう少し善戦出来るはずなのだが、何故か能力を使用としない。そこで雷風は考えた。能力がないのだと。実際、この人造人間達には能力がない。それは、この人造人間達は製造する時に不具合が起こり、不良品となってしまった人造人間だからであり、能力を与える時間がなかったのだ。
「……討伐完了」
雷風は巨大な人造人間達を全て倒し、ビルの屋上へ着地すると、次に現れたのは偵察兵から生まれた人造人間の群れだった。
(雑魚の群れ……。……まあ、後回しでもいいか)
雷風がそう思うと、上空から慧羅が降ってきた。
「あの不良品達が勝手をしたせいで再試合が遅れた。それに関してはすまない」
「そんなことどうでもいい。俺はお前を殺す。それだけだ」
慧羅は空間を削って雷風と距離を一気に詰め、殴ろうとした。だが雷風にその動きが読まれ、回し蹴りを腹に入れられた。為す術もなくビルの外壁に叩きつけられた慧羅は、雷風の強さに驚愕した。
(これが真祖の力……。いや……、これは力など関係ない……。戦闘経験の差だ……)
慧羅は体勢を整え、壁を蹴って勢いをつけた後に空間を削り、再度雷風と距離を詰めた。そして勢いを保ったまま殴る予備動作に入り、雷風に放った。だが、それは首を横に動かすだけで簡単に避けられた。
(嘘……)
雷風は何も無かったかのようにコートのポケットに手を入れて慧羅の方を向き、見下ろしていた。
(この戦闘が始まってからずっと、鬼頭 雷風は両手をポケットに入れている……)
そう、慧羅との戦闘で雷風はまだ、手をポケットに入れたままで使っていなかった。それは一種の縛りか。または使いたくないのか。それはわからなかった。実際、本人もなぜ使っていないのかわからなかったからだ。だが、1つだけ雷風にわかることがある。それは、使わざるを得ない状況ではないからだ。
慧羅は着地すると同時に、雷風の顔めがけて殴りかかった。その時にも空間を削って一瞬で近づき、殴ろうとした。
(さっきはこれで読まれた……。なら……)
慧羅は空間を削って下へ移動し、雷風を下から突き上げようとした。だが、雷風は動じることなく上へ跳んで避けた。その時、ポケットから右手が出た。
(下にいる……。ブレイクエナジー……、どれほどの力なのか、試させてもらうぞ)
刀に自身のロストエネルギーにブレイクエナジーを混ぜたものを纏わせ、ノールックで慧羅の方へ投げた。能力を発動させる隙が全く無かった慧羅は、腕に刀を刺されてしまった。だが、刀を投げた時の威力はまだ残っていたため、慧羅を道ずれにしてどんどん下へ落ちていった。床を壊して落ちていく刀に引っ張られて、床は慧羅とぶつかって壊れる。そして慧羅は更に下へ落ちていく。
一方、それを雷風は上から見ていた。予想以上の威力に雷風は驚いていたが、決して顔には出さなかった。地面と激突する姿を見た雷風は、慧羅に更なる追撃を与えるために降下した。
(来た!!)
慧羅は、雷風が降下してくるのを待っていた。刀にかかっている下へ行く力がないことを確認した慧羅は、空間を削って雷風の目の前まで瞬間移動した。
(予想外の行動だな……。だが、これで俺の武器が帰ってくる)
雷風は慧羅の左肩に右足の踵を勢いよく叩きつけて、慧羅を自分より下の場所へ追いやった。そして、刀を慧羅の腕から抜く時と同時に、慧羅を自身より上の場所へ引き上げた。
(何がしたいの!?)
慧羅はそう思っていた。雷風は壁に刀を刺し、下へ行く力を限りなくゼロにした。そして、壁を蹴ってタイミングよく慧羅を蹴り飛ばした。その動きはほんの一瞬の間に行われたものであり、慧羅にはその動きが見えなかった。
(何が起こったの……!?)
慧羅は理解する間もなく、ビルを突き破って吹き飛ばされた。10棟程飛ばされた時、壁に勢いよく叩きつけられた。壁には大きなヒビが入っており、慧羅にも相当なダメージが入った。
(少し回復しないと……、本当に死ぬ……)
だが、そんな慧羅を雷風が待つことは無かった。雷風は着地すると同時に、慧羅を飛ばした方向へ一気に走って向かった。
(体が温まってきた)
雷風はスロースターターであった。
雷風はすぐに慧羅の元へ追いつき、慧羅を地面に向けて蹴った。慧羅は為す術もなく叩きつけられた。
「終わりだ」
雷風は倒れている慧羅の上に立ち、みぞおちを足裏で踏んでいた。
「まだ終わりじゃない」
慧羅は雷風の背後の空間を削り、雷風を上空まで瞬間移動させた。その隙に慧羅は釧路市役所まで走った。
(逃げたのか……)
雷風は着地すると、すぐに追いかけようとした。だが、周囲には偵察兵が生み出した大量の人造人間がいる。人造人間達は完全に壁になっており、その人造人間達を殲滅しないと先に進めなくなっていた。
(時間はかかるが、やるか)
雷風はその場にいた人造人間達およそ5万体を、ロストエネルギーにブレイクエナジーを混ぜたものを放出し、たった10秒で殲滅した。(内訳。ロストエネルギーとブレイクエナジーの合成が7秒、放出から死亡確認が3秒)




