64GF 明らかになる真実、仄かなままのオジギソウ
盾羽は巨大なイージス艦を大量に生成し、大量の人造人間を1体1体丁寧にロックオンをして、ロストエネルギーによる細いレーザーを放っていた。その1つ1つが核を正確に貫き、周囲にいた人造人間が2分で全て消滅した。その数なんと、15万体である。
(とりあえずこの区域は全て殲滅しましたけど……、慧彼さんとか無理してませんかね……。殲滅作戦においては1番優秀な能力ですからね……、こういう臨時作戦で1番努力して無理して体壊しそうですね……)
盾羽の予想は見事に当たった。ビルの屋上で立っていた盾羽は、車道を跳びながら走っていた慧彼を見ていた。周囲を常に見ているような体の動かし方であり、青葉区全体をあのように行こうと思っているのだろうと一瞬で気がついた。
〔慧彼さん、少し無理しすぎでは?〕
盾羽は慧彼に向けて言った。だが、慧彼は止まらなかった。盾羽はその姿に半分呆れていたが、止めようと慧彼の後を猛スピードで追った。
10秒後、盾羽はすぐに慧彼に追いついた。慧彼は人造人間を探しながら走っていたため、一直線に走る盾羽より速い訳がなかったのだ。
「慧彼さん。流石に止まってください」
盾羽は慧彼を無理矢理止めた。すると、慧彼の瞳はマルーンの瞳からアンバーの瞳へと戻った。
「……盾羽?」
少しだけだが、意識が朦朧としていた。盾羽はおんぶをして慧彼を落ち着かせた。
「落ち着きましたか?」
「う、うん……」
「無理のし過ぎです。どうせ無線通信も聞いていなかったんでしょう?」
「全く聞いてなかった……」
「まあ、こうなることは薄々わかってましたよ。自分のキャパをわからずに最初から勢いつけて、最後までやろうとする。シャトルランで言う最初から全力で走るようなものですよ。とりあえず、余裕を持ってやってください。途中から本気を出さざるを得ない状況になるんですから。」
「だから、その状況まで体力は温存するべきです。いいですか?」
「わかった……」
盾羽はおんぶをしながら走り、人造人間を殲滅しているのを見ていた。慧彼の瞳には、車も自転車も、人も通っていない道路が映っていた。普段の人で賑わっている光景と比べると、目の前の現実から虚しさを感じさせた。
(活気がない……)
たくさん車線があるにも関わらず、車やバイク、自転車、歩行者が一切通らない不思議な道路。人の声も、エンジン音も聞こえない、活気が全くない道路。だが、確かに人はいる。建物の中で息を潜めている。だからこそ、その静けさは異様で、異質で、異常で怖かった。
盾羽は慧彼を背負ってしばらく走っていた。慧彼も落ち着き、体力も回復していた。そして、殲滅を止めることなく続けた。だが、人造人間の量は増えていた。
「降ってくる数が増えてる……」
そう、上から降ってくる人造人間の量が明らかに増えたのだ。慧彼達が倒した人造人間の数はほんの一部分に過ぎない。そして落下するポイントも絞られていた。
「あれは……」
「うん……、青葉城跡だ……」
伊達政宗が建設した青葉城。その跡がある青葉城跡に人造人間達は集中していた。何かの罠かと思った。だが、人造人間の殲滅が今のすることだと思った2人は、そこへ向かおうとした。
「降りるよ」
「わかりました」
「行くところはもちろん青葉城跡だよね?」
「もちろんです」
盾羽は慧彼の要求通り下ろし、青葉城跡へ向かった。
(やっぱり多い……)
2人は青葉城跡に着くと、10万を超える人造人間を目の前にした。だが、2人は一切驚くことはなかった。自分たちがすることは目の前の人造人間の殲滅。数が多くても殲滅するだけ。他のことは考えなくてもいい。そう考えると、自然に驚かなくなっていた。
慧彼と盾羽は能力を発動させた。慧彼の瞳はアンバーの瞳からマルーンの瞳へ変化し、盾羽はイージス艦の主砲を大量に生成し、宙に浮かせた。
「北側は任せましたよ」
「じゃあ南側、誰1人残さないでよ?」
「当たり前じゃないですか……」
慧彼と盾羽は、10万という大量の人造人間達を相手し、たった5秒で瞬殺した。その姿は何も感情を抱いていない、無機質なロボットのようだった。血が跳ねてほほにつくが、人造人間の消滅に伴ってそれは消える。慧彼は目をつぶって血がついたほほを軽く手でさわり、さわった手を見た。
「まだ人造人間は残ってる……」
慧彼は次の場所へ行こうとしたが、盾羽に止められた。
「待ってください」
盾羽は街が一望できるところへ移動し、街の様子を見た。すると、人造人間はほとんど消滅していた。遅れて慧彼も見たが、ほとんど人造人間がいなかった。降ってくる人造人間が風月の斬撃で殺され、地上にいる人造人間は霞と雫が各個撃破している。そしてビルの屋上では、白夜が戦闘をしていた。
〔雷風。今どこ?〕
慧彼は、視界に雷風がいないことにいち早く気づいた。
〔釧路だ〕
その時、慧彼と盾羽は驚いた。どういうことなのか全く想像がつかなかったのだが、盾羽は少し考えるとこの状況を理解した。
「慧彼さん。もしかすると、この騒動を仕組んだのは慧羅さんかもしれません」
「慧羅が……」
慧彼は考えると、全てのことに辻褄が合うことに気づいた。仙台に来た理由は本当なのか、雷風の本当の存在というものをなぜ知っているのか、学会はなぜ人造人間を作った論文を世間に公表していないのか、ネイソンと学会は何故それを隠蔽しているのか、そして、なぜドイツが戦争をしているのか。そこまで辻褄が繋がった。
「慧羅はネイソンに意図的に近づいている? そして、この戦争はネイソンが作った人造人間が元凶?」
「そういうことです。よく考えたらこの事実が全て繋がるんですよ」
「私たちが考えた仮説が全て正しかったら……」
「……そうです。この戦争の発端は、雷風君です」
「このことを雷風君がもし知ったら……」
「……落胆するかすぐに戦争を終わらせにいくでしょうね」
「ですが現状、ネイソンは今生きています。そして、雷風君がわざわざ荒廃した釧路へ向かったということは、ネイソンは釧路にいる可能性が高い。そして、そこへ誘導しているのは慧羅さんの可能性があります」
「これが慧羅を殺さなきゃいけない状況……」
「そうです。全ては向こうのシナリオ上で動いていたんですよ。どう調べようとも、私達はネイソン陣営の手のひらの上で転がされていたということです」
「……なら慧羅は殺さなきゃいけない。たとえ私が愛したたった一人の妹だとしても、戦争勃発の発端に関わって、更に協力した」
「わかってくれて嬉しいとは言いません。ですが、後で後悔しないでくださいね」
〔雷風君。その場に裁断 慧羅はいますか?〕
〔ああ、いる〕
〔では裁断 慧羅にこう伝えてください。「裁断 慧彼はあなたを殺す決断をした」と〕
〔わかった〕
慧彼と盾羽は、風月の元へ向かった。




