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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第4章 グラジオラスは存在を明確に表し始める
63/206

63GF ヤブデマリは過去を切り捨てる



 慧彼達は雷風の無線を聞いた瞬間に分かれ、人造人間の殲滅を開始した。



 (……犠牲になってる人が多すぎる)



 慧彼は能力を発動し、人造人間の殲滅をしていた。慧彼の能力は殲滅することにおいて、1番優秀な能力であることは自分も理解していた。だからこそ、1番集中して人造人間の殲滅に貢献しようとした。慧彼は見落としがないかローラーのように青葉区中を走り回って能力を発動し続けた。



 (自分の能力、燃費良くてよかった……)



 慧彼の能力は、1箇所に集中して放つ場合においてはものすごくロストエネルギーの消費が抑えられている。槍をどんどん放つ場合でも、1つの槍で10体は巻き添えで倒せるため、かなりの節約になる。それを大きくまとめて放つと、より節約になるのだ。そして今、慧彼のしていることは、慧彼の能力の一つである内部破壊を、複数の人造人間を対象にしてまとめて放っているのだ。普通、1体1体丁寧にやっていくのが定石なのだが、能力の使用に安定してくると、まとめて放つことが普通になってくるのだ。ものづくりでいう、職人技というものである。

 慧彼は人造人間を殲滅している時に、1人の男にこう声を告げられた。「何してんだお前!! なんで殺してるんだ!! 人殺しが!!」と。その時慧彼は、「自分が死にかけているのに何を言ってるんだ? あの人馬鹿なんじゃない?」と言いそうになった。だが我慢した。自分のその立場なら言ってしまっているかもしれないから。実際、そう言っている人がいるのだから、自分も言うかもしれない。そういう罪悪感は少し持った。だが、今していることは大切なことであり、青葉区に住む人達を守るためにしているのだ。それが罠かもしれないと少しは思った。だが、人の命を守れなかったら慧彼にとって、自分は生きている価値がないと思っている。だから人を守る。色んな人に助けられた。そして今、それを使命としてやっている。人造人間を放った親玉が愛する妹である慧羅かもしれない。だが、今はそのようなことは考えなかった。考えたくなかった。それは守っている人に対しての冒涜。そして、自分が背負っている使命への裏切りとなると思ったからだ。自分が守ろうとしている人からの悪口を浴びたとしても、慧彼は決して止まることを知らなかった。それは、自分が止まりたくないと思ったからだ。



 (絶対に止まらない……)



 だが、慧彼は考えたくないことを考えてしまった。そう、慧羅についてだ。



 (もし慧羅がやったとして……、もしかしたら私が殺さなきゃいけないところに直面するかも……、殺せる自信があるか……? いや、殺さなきゃいけない。もう過去に囚われてはいけない。私は私の意思がある。妹のために生きるのは……、……あの時で終わりだ)



 慧彼は今、慧羅を殺すことを決意した。遅いかもしれない。だが、慧彼にとって大きな決断だった。過去の自分を見て、今することへ支障をきたしていることには気づいていた。だが、慧彼は決断することが出来なかった。愛する妹、慧羅を殺すことへの抵抗。愛する妹、慧羅を殺すことでの悲しみ。愛する妹、慧羅を殺すことで生まれる怒り。そして、愛する妹、慧彼を殺すことで自分へ向ける恨み。これが怖かった。慧彼は耐えることが怖かったのだ……。……だが、完全に心に決めた。慧羅を殺すと。慧羅を殺すことへの抵抗、慧羅を殺すことでの悲しみ、慧羅を殺すことで生まれる怒り、慧羅を殺すことで自分へ向ける恨みを、慧彼は完全に決別した。切り捨てたのだ。決していい決断ではない。決していい選択肢では無い。だが、それは慧彼に求められていたもの。慧彼はそれがわかった上で戦うのだ。自身を包んだ過去の因縁と別れを告げるために。



 (慧羅。私は殺すよ。慧羅と同じく、私も慧羅を殺せるほどの理由ができたよ)



 そう決意した慧彼の目は、覚悟を決めた目だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方、慧羅は2機の空中浮遊戦艦を繋いでいる連絡橋の中央にいた。すると、戦艦から2人の男が歩いてきた。



 「さて、俺達も降りるか。弟よ」


 「そうだな、兄貴。あいつはどんなリアクションをすると思う?」


 「知るか。まあ、俺達を殺した罪、しっかりと命で償ってもらうぞ。白夜」


 「待って待って。今降りるのは逆効果だ」



 降りようとしていた2人を、慧羅は止めた。何か策があるような顔をしていた慧羅を見て、2人は足を止めて話を聞くことにした。



 「何か策があるのか? 慧羅さんよ」


 「ああ。しっかり考えている」


 「なんだ?」



 兄貴と呼ばれている方が、慧羅に策を聞いた。それは、2人にとってとてもいいものであった。



 「あなた達の妹である満月 白夜。今、奴は徐々に疲弊していっている。そして、完全に疲弊しきったところをあなた達で殺す。いい?」


 「なるほどな」


 「ならそれで行くか」



 2人はその策を案外あっさり了承してしまった。白夜の兄であるらしい2人は、白夜を完全に始末するためにこの空中浮遊戦艦に乗り、この作戦に参加していた。その思惑は、全て白夜を殺すため。白夜に対して恨みを持っていたからである。

 恨みを完全に晴らすための策を共有した3人は、地上の様子を遥か上空から眺めていた。



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