62GF マンドラゴラは街を包み込んだ
「……では、作戦開始」
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7月23日、13時30分。上空には巨大な空中浮遊戦艦が2機飛んでいた。そしてこの時刻は、空中浮遊戦艦2機が太陽を遮り、仙台の地を暗黒に染めた時だった。
一方、雷風達は全員揃って名取市にある超巨大ショッピングモールへ向かい、買い物をしていた。そして今、屋上駐車場にいた。それは、霞が車の免許をいつの間にか取っていたからだ。
「……免許いつ取ったんだよ」
雷風は呆れながらも霞に聞いた。
「え? 結構前から。車は昨日納車した」
「……マジでいつかわからねぇ。昨日のいつ納車した?」
「雷風と盾羽が集中してる隙に、全員に「用事あるから家出る〜」ってサササァ〜ッ……。って行った」
「ルールは?」
「雫連れていったから大丈夫」
「連れていかれましたね」
「マジでわかんなかったわ」
「あの……、……今のこの時間は何をする時間ですか?」
盾羽が霞に聞いた。
「なんだろ……、……休憩かな?」
「まあ、スマホ触ってますもんね……」
すると突然、日光で照らされているはずの屋上駐車場が暗くなった。何が起こったのか全く分からない雷風達は、とりあえず上を見た。
「まさか……」
慧彼はあの日のことを思い出した。それは盾羽、霞、風月も同様である。雷風の元へ向かい、超巨大空中浮遊戦艦を消滅させた、忘れてはならないあの日を。
「小さいけど……、あの戦艦だ……。……あの真下にある都市は人造人間で埋め尽くされる」
霞は背中に翼を形成し、戦艦の真下まで直行した。それを追うように、雷風達も戦艦の真下へ向かった。
(あの戦艦の真下……、……まさか仙台市?)
雷風はそう思い、霞を抜かして仙台市へと直行した。
霞を抜かして数秒後だった。2つ目の戦艦が見えたのだ。雷風はその事に一瞬驚いた。だが、すぐに冷静になって走るのを継続させた。足を止めてはならない。その一心で、仙台市に入った。
(青葉区の上空に2つ固まってる……。戦艦と戦艦の間には連絡橋のようなものがある……。そして戦艦はそこで停滞をしている……。……あそこで連携をうまく取ってるってことか)
雷風はビルの屋上に飛び移ると、そこから跳んで更に向こうのビルへ移る。それを繰り返していると、1分も経たずに青葉区に入った。
雷風はビルの屋上から戦艦を見上げていた。すると、同じビルの屋上に一体の人造人間が着地した。ロストエネルギーで上手く衝撃を和らげ、ビルに対してのダメージはほぼなかった。
「コロス」
そう言うと人造人間は四足歩行になり、まるで狼のように雷風を睨み、戦闘態勢に入った。体は狼のように毛が生え、逆立ち、骨格も大きな狼のようになっていった。そのような人造人間には遭遇したことがない雷風にとって、目の前の人造人間は驚異であった。それと同じく、雷風は少し喜んでいた。
(こいつ……、ちょっと面白いな……)
雷風は手応えのありそうな人造人間だと一瞬思った。それは、戦闘態勢に隙がなかったからだ。一見、普通の戦闘態勢に見える。だが、それに隙はなく、精密な体の動かし方で臨機応変に対応できる、まるで黄金比のような体勢であった。雷風にとって、そのような戦闘態勢が無意識にできるのは、まともに戦える相手だという暗示であった。だからこそ、目の前の人造人間と雷風は戦えることに喜びを感じていたのだ。
(……よし、ぶっ殺す)
雷風が指の骨を一気に鳴らしているのを見て、狼の人造人間は突進をしてきた。その時、雷風の期待は一瞬にして無に帰した。突進しているその姿に隙がありすぎたのだ。さっきの戦闘態勢とは真逆であり、どこからでも攻撃してくださいと言わんばかりの態勢である。
(やっぱり人造人間には限界があるのか……)
雷風は前宙をして、突進してくる狼の人造人間を避けた。狼の人造人間は背中を取れたと思い、振り向いて雷風に再び突進した。雷風は着地すると、振り向きざまに刀を抜き、核を的確に斬った。
(待てよ……? 俺……、いつの間に腰に刀を?)
雷風は腰にある鞘を見て考えた。だが、全く結論がつかなかったため、その疑問は一旦保留にした。1番優先すべきことは、上空から降ってくる人造人間の殲滅であるから……。
雷風は無線で慧彼達に伝えた。
〔仙台市青葉区の上空に空中浮遊戦艦が2機。そこから大量の人造人間が現在降下中。普通の人造人間と同じく、人間の心臓部分に核は存在する。到着したら人造人間の殲滅を急げ〕
〔了解〕
雷風は周囲に降下しようとしている人造人間を見ると、跳躍して核を斬っていった。
(離れたところにもめっちゃいる……。……ここから一直線上に約50体。これで撃ち抜けるか……)
雷風は上着の中に装着してあった銃を左手で取ると、人造人間の核めがけて放った。弾丸は核ごと貫通していき、一直線上にいる最後尾の人造人間の核を貫くと弾丸は消滅した。
(自分で作ったけど……、これやっぱり破壊力高いな……)
雷風の放った弾丸による影響は、触れるだけで体が消滅してしまうほどの衝撃波を持ちながら、衝撃波の範囲は込めた弾丸に含まれるロストエネルギーの濃度によって変化するほどの繊細さを持ち合わせていた。もちろん、それは破壊力にも影響しており、弾丸の速度と込めたロストエネルギーの濃度で比例する。
(出力10%……、100%とかなったらやばいぞこれ……)
雷風は自身の体の構造について本能的に理解しているから、自身の体の構造を利用して武器を作っている。それは刀にも影響するものであり、雷風は無意識の間に刀を自由に腰に装着できるようにしていた。だから、本人には理解出来ていなかったのだ。もちろん、雷風はこのことは知らない。
(着地する前にちょっとでも倒しておきたい……)
雷風はそう思ったが、少し上を見ると瞬間にその気持ちは失せてしまった。雷風1人では平野でも数十分処理にかかりそうな量の人造人間が、仙台市青葉区のビル街に降下し、着地しようとしているのだ。これを1人で全て捌くのは不可能にも等しい芸当である。
〔霞。着いた。これは……、流石に多すぎる……〕
霞から無線による通信が来た。霞もこの人造人間の量を見て驚いていた。上を見ると、遥か上空に2機の空中浮遊戦艦。それが太陽光を遮断し、仙台市に暗黒を見せている。その戦艦を見て、人工的な日食だと霞は思った。
〔慧彼と盾羽、白夜。今着いたよ。霞の言ってることが目に見えてわかる。これは……、多すぎる……〕
慧彼から無線による通信が来た。慧彼と盾羽、白夜は同時に到着した。そのすぐ後に、風月と雫が同じところに到着した。
〔風月、雫。今着いた〕
〔全員着いたか。とりあえず人造人間を殲滅しろ。上の空中浮遊戦艦はそれから考える〕
〔了解〕
雷風はビルの屋上に着地すると、大通りに大量の人造人間。その光景は、パンデミックが起こったように見えた。車道に大量の人造人間が押し寄せ、通行する車を破壊した。その姿を見た人達は逃げ出したのだが、逃げた先にも人造人間が大量にいたため、瞬く間に通っていく人達は殺されていった。
(惨状だな……)
雷風はそう思っている間にはもう、大通りにいる人造人間の殲滅を開始していた。走りながら刀を精密に振り回し、的確に人造人間の核を斬っていく。その姿を見る人達は、雷風が救世主のように見えた。




