61GF マリーゴールドは世界全体に存在する
「肝心なところですか?」
「ああ」
雷風はスマホを取り出し、盾羽にデータを送った。文章の量が通常では尋常でないものであり、速読術を会得している盾羽であってもすぐに全てを読むことは不可能であった。
「これは……」
「まとめるのには時間がかかったがな、とりあえず書けることは全てここ書いた。とりあえず目を通してくれ」
盾羽はそのデータを読んでいくと、あることに気がついた。
「これ……、まさか……」
盾羽は書かれている部分を雷風に見せると、雷風は何かを伝えたいような顔をして言った。
「慧羅が俺を襲いに来た理由、死体を使って人造人間を作っている理由、そして俺の正体について。これが全て一致してる可能性が高いんだよ」
「可能性が高い……」
「それに、姉さんと出会う前の記憶がすっぽり抜けてるのもおかしい。姉さんは俺の記憶に直接入って記憶を調べた。雫も協力してくれた。けど、姉さんと出会う前の記憶が全くないんだよ」
「記憶っていうのは記憶回路に深く刻まれている。それは今も刻まれている。自分が死ぬまで刻まれ続ける半永久的な存在だ。けど、それが一部消失していること。それに俺が人間じゃないこと」
「お前らが改造された時には記憶を取られた。それと同じように、俺も実験前後の記憶を全て取られている。俺の場合は生まれてすぐに改造された可能性が高いから、俺は姉さんと出会う前の記憶が全て抜けてるんだと思う」
「実験は長期間行われた。その果てに何があったのか。俺を改造したやつは何がしたいのか。それが今、一番知りたい情報だ」
「……あ。その事なんだけどさ、慧羅が何か言ってたよ」
違うソファで横になっている慧彼が、雷風と盾羽に向けて言った。
「喫茶店に行ったら慧羅に会ったんだよ。そこで慧羅は「鬼頭 雷風に会うために来た」とかどうとか言ってたよ」
「そうか。情報提供ありがと」
雷風は考えた。慧彼の情報を元に、今持っている全ての情報の整理を始めた。すると、雷風は1つの結論にすぐにたどり着いた。
「慧彼。ひとつ確認していいか?」
「何?」
「慧羅の上にいるやつって確か、ネイソン・ブラッドレールだったよな?」
「そうだけど……」
「……なら全てが合致する」
雷風は小声でそう言うと、雷風は急に立ち上がった。
「裁断 慧羅。奴は俺達にとって始末しなければいけない存在になったかもしれない……」
「……え?」
慧彼は動揺した。
「なんで? 慧羅を殺さなきゃいけない?」
「そうだ」
「慧彼さん。多分ですが、雷風君の言うことは合っています」
「何で殺さなきゃいけないの?」
「ネイソンは、俺を何かの計画に利用するために死骸を人造人間に変え、大量に作ってる。それは単なるロストエネルギーの塊。それだけであの人造人間は稼働している。そのロストエネルギーを使って何かを起こしてみろ。この世界がやばい事になることは確実だ」
「だからその前に殺して地球の核に戻そうって?」
「残念だが、そうするしか選択肢は無い」
「慧彼さん……、現実は非情ですよ……」
慧彼は迷った。断罪者として愛する妹を殺さなければならない。それは愛する妹である慧羅の意思ではない。自分の意思なのである。正直嫌だった。殺したくなかった。だが殺さなければいけない使命。慧彼は今にも叫びたい気分だった。
(どうにかして殺さずに済む方法はないの……?)
慧彼は思った。そう願った。だが、この世界は残酷であり非情だ。幸せが訪れれば必ずそれ以上の残酷や絶望が押し寄せる。慧彼はそれに気づいていた。このようなことになることも薄々気づいていた。だが、慧彼は信じたくなかった。勘づいていても認めたくない。知っていても信じたくない。現実を否定していたのだ。
「……信じたくない」
「……わかった。探してみる。お前の妹を殺さずに済む方法を」
「……え?」
慧彼は耳を疑った。だがすぐにそれは本当のことになった。
「もし、それでも殺さないといけなかった場合、少なくともお前の妹は殺すことになる。それでもいいか?」
「え……、あ……、……うん」
「私も探します。慧彼さんに泣いてほしくないですからね」
「けどまあ、第一は平和だがな」
雷風は自分の部屋へ向かった。盾羽は雷風の後を追って雷風の部屋へ向かった。
(方法を探す……)
慧彼はどうすればいいか考えていた。すると、ゲームをしていた白夜が慧彼の方を見た。
「ゲームする? 慧彼」
「え?」
「ゲームする? って聞いてるんだけど……」
「あ、うん。するする」
「難しいこと考えずにさ、今は息抜きすることが大切だよ」
「慧彼さんだっけ? 難しいことはあの2人に任せておいた方がいいよ」
雫も息抜きをすることが大切だと慧彼に言った。雫も息抜きをせずに、どんどん自分を追い込んだ経験があるからそう言った。辛いことは辛いままにしておくとしんどくなることを、雫は嫌だと言うほどわかっている。だから伝えた。慧彼にはしんどい目に遭ってほしくないと思ったからだ。
「心に余裕を持って過ごす。それが今、慧彼さんのやらなければならない使命だと思うよ」
「う、うん……」
慧彼はスマホを取り出し、ゲームに参加した。




