59GF 真実に到達することは出来ないダンギク
慧羅は釧路にいた。釧路は荒廃しており、廃れたビルや使われなくなった道路に緑がどんどん絡まっていき、動物が街の至る所にいるのだ。その中を堂々と突き進む慧羅の姿を見た動物達は、慧羅に関わろうとはしなかった。
(動物か……。まあ、こんなに生い茂ったところには来るよね……。ここだけ人間滅んだ? ってくらいに荒廃してるし……)
慧羅は釧路市役所の自動ドアが開くと、中へ入った。
「今帰った。マイマスター」
ネイソンがいる部屋に入ると、慧羅はそう言った。
「おお、帰ったか」
ネイソンは慧羅の方を向くことはなく、パソコンにプログラムを打ち込んでいるようだった。肩の力は抜いており、リラックスしながらも集中はしていた。
「はい。そして、姉を確認することが出来た」
「それはよかったな慧羅。それでだ、姉をどうするかはお前に任せる。奴は俺には関係ない人造人間だからな。お前ら人造人間は単なるパーツに過ぎないのだ。それを忘れるなよ?」
「わかっていますとも、マイマスター」
「まあいい。とりあえず、鬼頭 雷風を何としてでも連れ帰ってこい」
「承知した」
「……まあ、お前も働かせすぎた。2日間休んでから行け」
「ありがとう。失礼した、マイマスター」
慧羅は部屋を出た。
「さて……、次は鬼頭 雷風か……」
釧路市役所を出ると、慧羅は人造人間製造工場へ向かい、現時点で完成している大量の人造人間を集めた。
(これが全部死体を改造した人造人間……。マイマスターはこれを全て生贄にしてあの計画を遂行させる気なのか……)
(……まあ、とりあえずマイマスターの言うことは我々にとっていい結果を残してくれるだろう……)
「お前らが集められた理由はたった1つ。マイマスターであるネイソン・ブラッドレールの意思を遂行させるためだ」
「2日後、私達全員で仙台市に上空から降下する。そして断罪者を見つけ次第殺しに行け。断罪者は全力で道行く人を守ろうと戦いに出る」
「マイマスターからの指令はこうだ。鬼頭 雷風をここへ連れてこい。この作戦を実行するために、お前達には犠牲になってもらう。鬼頭 雷風の誘導は私が行う」
「とりあえず、お前達は他の断罪者を誘うために道行く者共を殺していけ。無差別に殺せ。標的はない。ひたすら殺していくだけでいい。この釧路を崩壊させたように、仙台を歩く者を全て殺せ」
慧羅がそう言うと、人造人間は解散した。
(数は100万……、陽動には少し多すぎたか……? いや、このくらいがちょうどいいか。断罪者は集団を殺す能力だけはずば抜けて優れてる……。……ならもう、これでいいか)
慧羅は作戦決行の予定を考えた後、作戦決行までの2日間に何をしようか考えていた。
(上空から人造人間達を襲撃させるために、約100万体の人造人間を収容できる空中浮遊戦艦を調達しないとな……)
慧羅は釧路市役所の地下深くにある空中浮遊戦艦造船工場へ向かった。そこには、4機の空中浮遊戦艦があり、1機の空中浮遊戦艦には50万体の人造人間が収容できる。
(2機使うか……。それに、マイマスターの指令で妥協など絶対にしてはいけない……)
慧羅は2機の空中浮遊戦艦を確保した。
雷風が釧路に来た場合、防衛に使う人造人間を慧羅は探した。
(偵察兵は人造人間を半永久的に生成できる……。取り巻きとしてはそれで十分。……まあ、不具合が起こった奴らに頼むしかないか……)
慧羅は、人造人間として作られる時に不具合が起こり、異形の人造人間と化してしまった人造人間達の元へ向かった。
(幸い、全員が同じ形になっているだけいいと思えばいいか……)
「おい」
「なんだ? 慧羅」
巨大な人造人間が12体、慧羅を見下す形で見た。慧羅は見上げる形で異形の人造人間12体に向かって言った。
「鬼頭 雷風が釧路に来た場合、お前らで対処をしてもらう。雑魚として偵察兵をここには大量にある。まあ、鬼頭 雷風を戦闘不能にするくらいにしてくれ」
「わかった。だが、もし俺たちが死んだ場合、お前はどうする?」
「そのままマイマスターの元へ連れていく。例え私が死んだとしても」
「そうか。まあ、そう簡単にお前が死ぬとは思えんがな」
「その能力は強力だ。使い方によっては全ての生物を殺せる」
「私はマイマスターのために全てを尽くす。もしすごく愛していたお姉ちゃんを殺せと言われたら殺す。容赦はしない。だって、私に第2の命を与えてくれたマイマスターのためになら死んでもいいでしょ?」
「気持ちはわかる。だがな、お前は1番大切なことを忘れている」
「1番大切なこと?」
「そう。それは、自分の意思を明確に持つことだ」
「マイマスターに従うということが私の意思ではないと言いたいのか?」
「ああ、そうだ」
「今すぐ殺してやってもいいんだぞ?」
「それをすれば作戦に支障をきたすんじゃないのか?」
「……クソが」
「そんな直情的になるなよ」
「俺達はお前を理解しようという心がないんだからな」
「そうか……。不具合が起こった不良品とは話すだけ無駄か」
「そう、無駄だ。俺達は戦闘することしか脳がないんだからな」
慧羅はそこから離れた。そして、ネイソンの元へ再び戻った。
「マイマスター。2日後、鬼頭 雷風をここへ連れてくる」
「そうか。楽しみにしているぞ、慧羅」
慧羅は振り向きもせず、ただただパソコンを触っているネイソンの後ろ姿を見ていた。
「失礼した」
慧羅はネイソンのいる部屋を出た。そして、荒廃した高層ビルの屋上に立った。そして、上弦を少し超えた月を見た。
(さて、鬼頭 雷風……。……お前は必ずここへ連れてくる……。必ず……、絶対に……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、雷風は皿洗いをしていた。
(……風邪か? すんげぇ寒い……)
風の噂とはこのことである。
「どしたの? 手が止まってるけど……」
白夜が雷風の異変に気づき、声をかけた。
「いや、何も無い。大丈夫だ」
「そう? いや、さっきの話について何か思ってるのかな? って思ったからさ」
「まあ少しは思ってる。けどさ、今悩んでも何も起こらねぇ。だからあのことは考えないようにしてる」
「なるほどね。変なこと聞いてごめん」
「謝ることじゃない。とりあえず今はゆっくり過ごせよ」




