54GF At that moment the darkness was enveloped in light
慧彼達は仙台駅に着いた。仙台駅は既に改修工事を終えており、奇跡の再建と呼ばれた。そのためか、たくさんの観光客が仙台駅に訪れているのだ。仙台七夕まつりの時期ではないのに、仙台駅を見たいという観光客の気分が、慧彼にはよくわからなかった。
「この駅って……、何かすごいところある?」
「慧彼、そういうことじゃないよ。この観光客はね、奇跡の再建を一目見たいから来てるんだよ」
霞が慧彼にそう教えると、白夜は口を開いた。
「仙台駅……、私が壊したなんて言えない……」
小声でそう言うと、盾羽がそっと近づいて言った。
「あれは仕方ないですよ。安心してください」
「そう?」
「そうです。何も気に悩むことなんてありません。心は落ち着かせた方が、何かと物事に対して考える姿勢を保ちやすいですよ」
「なるほどね……。まあ、心落ち着いてるけどね」
たわいもない話をしながら家に帰ると、旅行をした記憶がふと頭の片隅に映る。それが思い出として残り、心の中に小さく刻まれていくのだ。
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一方、雷風と雫は家具を運んでいた。
「なあ」
「どしたの?」
「もうそろそろあいつらが帰ってくる。それでさ、最初にお前を見た時のリアクションでも考察するか?」
「それ、断罪者のこと知らない私とするの?」
「まあな。だって俺とお前って記憶回路と思考回路繋いでんだからさ」
「あ、そうだった」
ベッドに机、椅子など必要最低限の家具を置くと、ついさっき買ってきた装飾品などを部屋に配置していった。雷風はそこまで部屋について深く考えたことはなく、装飾品を飾る工程までは手伝うことは出来なかった。そのため雷風は1度部屋を出て、慧彼達が帰ってくるのをリビングで待っていた。
(あいつら……、流石に遅くね?)
時計を見ると、18時を回っていた。外を見ると黄昏時であり、通行人で歩道は埋まっており、車道には車が沢山あった。
その時、鍵を開ける音が聞こえた。ドアを開けてリビングに向かってくる。そして、リビングの入り口であるドアを開ける音が聞こえた。雷風はドアの方を見ると、5人の姿が見えた。
「おかえり」
「ただいま」
5人は声を揃えて言った。
「ちょっとリビングでくつろいでいてくれ」
雷風はそう言うと、雫のいる部屋へと向かった。
「帰ってきたぞ。顔、合わせるぞ」
「あ、ちょっと待って」
雫は最後の装飾を終え、リビングへ向かった。
雷風は雫とリビングに入り、慧彼達に雫の姿を見せた。
「なんでいるの……?」
風月は戦闘態勢に入った。雷風はそれを止めるように手を伸ばして、戦闘態勢をやめろというジェスチャーを出した。風月はそのジェスチャーを見て戦闘態勢をやめ、ソファに座った。
「言うのが遅れたな。……まあ、戦闘態勢に入るのもわかる。けど、こいつはもう家族だ」
「……雷風がそう言うなら、この子は私の妹なんだね」
風月は立ち、雫に近づいた。
「名前は?」
「鬼頭 雫」
雫はすぐに答えた。すると、風月は雫の頭に手を添えた。そして目を閉じ、雫と感覚を共有した。
「……記憶回路と思考回路を共有するんですか?」
雫は、自分と風月しかいない空間にいた。周りは漆黒に包まれており、周囲を見回した後に言った。
「そう。これをできてるのは私と雷風、雷風と雫だけ。……雷風はちょっと強引なやり方だけどね」
風月は少し離れた場所に立っており、そこから動くことはなかった。だが、目の前で話しているのかと思うほど鮮明に聞こえており、その異質な空間に戸惑いを隠せなかった。
「ここは雫の思考回路、記憶回路の中枢機関であって、雫の精神を形成してる核と言っても過言じゃない部分。つまりは心の中だね」
「心の中……」
「そう。私はさっきの行動をするとここに入ることができる」
だが、雫は思った。雷風はこんな行程をしていないと。
「雷風と思考回路を繋いだ時はこんなことならなかったけど……」
「それがさっき言った、『強引なやり方』なんだよ。普通、ここに入らないと思考回路と記憶回路の共有はできない。けど、雷風は何かしらの力でここに入ることなく、強制的に共有することができる。もちろん、雷風は相手の記憶を覗き、思考を読み取るという行為だけをして、共有をしないということもできる。けど、雷風はそれをせず共有を選んだ。この意味がわかる?」
「……わかった気がする」
「深くは問わない。どうせ共有したらわかるしね」
風月はその意味を問うことはしたが、答えを求めようとはしなかった。それは雫にもわかっていたことでもあり、風月は心の中から姿を消した。
「共有完了」
風月がそう言うと、雫は現実に引き戻された。
「私はこのことに納得したよ。詳細は雫本人に聞いた方がいい」
風月は無駄口をべらべらと喋ろうとはしなかった。言われたくないことが山ほどある自分と同じく、雫にもあるのだと知ったからだ。
「まあ、納得はするでしょ」
「わざわざビルドからこっちに来たってことは、何かあったってことでしょ?」
「その理由は追求しません。仲良くしましょう」
「まあ納得した。疲れたから寝る」
全員納得したことで、雫は完全にビルドに敵対することになった。
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釧路、そこは荒廃していた。交差点の中心で1人、孤独に立っている者がいた。
「今頃何してるんだろうか……」
そこに、1人の女がビルの屋上から降りてきた。
「もうそろそろドイツに行かなくていいのか?」
「あそこは今、改革中だ。俺も間違えて殺されるかもしれん。俺はあそこでは間違えられやすいからな」
「そんな事言わないで。マイマスター」
「その言い方はやめろと言ったはずだ。俺にはしっかりした名前がある」
「そうでしたね。ネイソン・ブラッドレール」




