表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第3章 Bullying and revenge
53/206

53GF The judge tells the past Part2



 慧彼は拘束を解除され、実験装置から出た。急に痛みが引くような、苦しみが一気に解放されたような、そんな気がした。

 実験装置から出て床の上に立つと、目線が変わっていた。それは微々たる変化では無い。かなり上を見上げないと見れなかった男の顔が、少し上を向くだけで見えるようになっているのだ。そして次に気づいたのは、胸だ。下を向くと、明らかに膨らんだものが2つ。慧彼は理解に追いつかなかった。



 「どうなってるの?」



 慧彼は目の前にいる、ここに連れてきた男を見て言った。



 「20歳まで体を急成長させたんだよ。お前の身体の年齢は20歳のまま変わらない。それは100歳になってもな」



 慧彼はその情報を聞いて、「力となんの関係があるのか?」と思った。体が急成長しただけでは殺せない可能性があると思った。



 「この体になったからって親を殺せるわけじゃなくない? どうやったら親を殺すの?」



 慧彼は食い気味に聞いた。周りは静寂に包まれており、慧彼とその男の会話を全員が聞いている感じであった。



 「お前には能力というものが使えるようになっている。前回の被験者は水を操る能力だった。そしてお前の能力は……」



 慧彼は口にあった唾をゴクリと飲んだ。



 「『処刑』だ」



 処刑。その言葉に慧彼は感化された。犯罪者の辿り着く先は死。それの最高到達点、処刑。それを自分で下すということに、慧彼は喜びを抑えられずに不敵な笑みを浮かべてしまった。



 (これで親を確実に殺せる……)


 「お前。随分と精神、曲がってるんだな」


 「慧羅を守れるなら私は何でもする」


 「そうか。……最後に名前だけ聞かせてくれ」


 「裁断 慧彼」



 慧彼はそこから出て、急いで家へと戻った。不在の間に殺されてないかと思った。その安否を確かめるために走った。

 慧彼は走っている内に、走る速度が明らかに速くなっていることに気がついた。ビルの屋上に伝って走っているのだが、車がナマケモノのような速度で見えるのだ。慧彼は急いだ。仙台市から前橋市までの349kmを走った。息切れもしている。疲労も蓄積している。だが走ることはやめなかった。その結果、10分もかからずについた。



 「……ついた」



 家を目の前にして、膝に手を置いていた慧彼。休憩をしている時間が無いのはわかっていた。だが、体の限界は近づいていた。そこで慧彼は、大きな深呼吸を2回した。すると、精神が安定したような気がした。



 (これならいける)



 そう思い、慧彼は家の中へと入った。家には親がいた。その事に一瞬で気がついた慧彼は、急いで慧羅のいるはずであるリビングへと向かった。すると、慧羅を殺す直前だった両親がいた。



 (このクソ親が!!)



 慧彼は咄嗟に能力を発動して槍を生成し、父の首を撥ねた。そのまま横にいた母の心臓を突き刺し、慧羅に近づいていた包丁を払った。槍を消した慧彼は、慧羅に近づいて言った。



 「慧羅、大丈夫だった?」



 その瞬間、慧羅は悪魔を見るような目で慧彼を見た。その姿は怯えており、普通の2歳の人間では経験しない程の恐怖を味わっていた。



 「なんで……、私の名前……、知ってるの……?」


 「なんでって……。私、慧彼だよ?」


 「……お姉ちゃん?」



 怯えながら聞き続けた慧羅の質問に、慧彼は答え続けた。慧羅は状況を瞬時に理解できるほど、知能が発達していなかった。



 「……もしお姉ちゃんだとして、……なんでお父さんとお母さんを殺したの?」


 「慧羅を殺そうとしてたからだよ」



 慧彼は冷静に答えた。その姿に慧羅は怯え続けた。そして、親を殺した慧彼を見た。それは恨みではなく、懇願する目であった。



 「慧羅、私はあなたのためならなんでもする。それだけは誓うよ」



 慧羅はその言葉を聞いて、ひとつの選択肢が生まれた。それは……。



 「じゃあお姉ちゃん。……死にたい」



 その時、慧彼は慧羅の顔を見た。



 「……え?」



 「もう、私はこれ以上家族が死ぬところを見たくない……。だったら、私は死んだ方が嬉しい」



 慧彼は考えた。守ろうとした慧羅が死にたいと言った。だが、慧羅のためなら何でもすると言った。なら、慧彼は慧羅のために慧羅を殺すしかないと思った。



 「本当にいいの?」



 慧彼は涙を流しながら銃を生成し、慧羅に銃口を向けた。その手は震えていた。目からは涙が溢れ出て、悲しそうな顔をしていた。その時、慧羅は銃を持っている慧彼の手をそっと握りしめ、言った。



 「安心して。死んでも私たちは家族だよ」



 慧羅も泣いていた。だが、それは安心したような顔をしており、それと同時に死を望んでいる顔だった。



 「……そうだね」



 慧彼はトリガーを引き、慧羅の脳を撃ち抜いた。そして、リビングの机にライターがあったため、火をつけて家を焼いた。慧彼は家から出て、前橋市の街を歩いた。



 (慧羅……。私は……、慧羅の分まで絶対に生きる……。だから……、そっちでは楽しく過ごして……)



 慧彼は安心した顔をし、街中を歩いていた。



 「あの……、大丈夫ですか?」



 ある者が慧彼に話しかけた。その時既に、家族全員を殺して半年が経っていた。慧彼はその者を見て、何事もないような顔をした。



 「そんな顔しても無駄ですよ。……よかったら、家来ませんか?」



 慧彼は、その者の家まで連れられた。前橋市にある一戸建ての家であり、裕福な家庭であった。



 「あなた、なんであそこにいたんですか?」


 「家をなくしたから……」



 慧彼は、それっぽい理由を言った。自分で家族を全員殺し、家を燃やした犯人だということは言ってはいけないとわかっていた。



 「なるほどね。年齢は?」


 「驚かないで聞いてください」


 「いや、年齢くらいで驚かないよ」


 「わかりました。6歳です」


 「……え? 6歳って言った?」


 「そうです。6歳です」



 助けてくれた人は驚いていたが、理解をしようとしてくれた。



 「なるほどね。まあ、それぞれあるよね」



 助けてくれた人はそうまとめてくれ、小学校から行かせてくれることになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「こんな感じかな」


 「この中で一番ヤバイ過去なんじゃない?」


 「そうかな……?」



 白夜の意見に疑問で返した慧彼に、風月はあることを言った。



 「断罪者になる過程とかは言わないの?」


 「能力使ってるところ見られたからスカウトされた。それだけだよ」


 「案外さっぱりしてるんだ……」



 風月は座ったまま体を伸ばした。伸ばし終わった風月はこう言った。



 「よし、そろそろ寝よう」



 その言葉で、全員は布団の中にぞろぞろと入ってすぐに寝た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ